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アポカリプス・ロジック ――物理の少女と、朱色の獣――  作者: 仁平 浩次
第1章:邂逅編(空白の8年と、秘密の粘土)
4/9

「R-5(リカ・ファイブ)」

だが次の瞬間、その迷いを計算で切り捨てる。


ここに留まれば、いずれ別の形で殺される。

ならば──自分の意思で選ぶ。


理花はその塊を、白衣のポケットの中で確かめた。


R-5(リカ・ファイブ)。


それは製品名ではない。

コードネームでもない。


これは――


私の怒りの質量だ。


(……内側から、あるいは急所に直接貼り付けて、遠隔で爆破するしかない)


理花は覚悟を決め、浅川を蹴り飛ばした。


「どいて! 邪魔よ!」


「な、何をする気だ! 死ぬぞ!」


「ここにいても、死ぬぞ!」


理花は白衣を翻し、グリズリーに向かって走り出した。


自殺行為?


……いいえ。


理花の脳内で、アドレナリンと共に奇妙な感覚が沸き上がる。

視界がクリアになり、時間の流れが泥のように遅くなる。


(……来た。この感覚)


初めてじゃない。

けれど、いつも説明の外側で起きる。


何かが「見える」前に、身体が反応してしまう。

計算より先に、答えが出る。


理花はその正体に名前を与えないまま、前へ踏み込んだ。



グリズリーが理花に気づき、丸太のような剛腕を振り下ろす。


風圧だけで骨がきしみそうだ。

通常の人間なら、反応すらできずに肉塊になっていただろう。


だが、理花の世界では。


それは──


「止まって」見えた。


――右腕の筋肉収縮を確認。

――攻撃ベクトル:上方三〇度 → 垂直落下。

――回避ルート:左前方へ一・五メートル。


思考と同時に肉体が弾けた。


理花は地面を蹴った。

十四歳の少女の脚力ではない。


コンクリートの床にひびが入るほどの踏み込み。


「……ッ!」


黒い突風と化した理花は、振り下ろされた剛腕を紙一重でかわし、懐へと潜り込む。


獣の臭い。死の臭い。


グリズリーが驚愕に目を見開き、追撃の爪を振るう。

速い。


だが、理花の計算ロジックはさらに先を行く。


「遅いよプーさん。図体ばかりの欠陥品め」


理花は崩れてきた瓦礫の山を駆け上がった。


垂直に近い壁面を、重力を無視したかのような身軽さで三角飛び(ウォールラン)する。


運動エネルギーを位置エネルギーへ変換。

理花の体は放物線を描き、グリズリーの頭上高くへと躍り出た。


「喰らいなさい! 特製のデザートよ!」


落下速度に合わせて身体を捻る。


理花はグリズリーの背後に着地すると同時に、太い首筋へと抱きついた。

剛毛を掴む。


そして。


ピンク色の粘土――**「R-5」**を、


渾身の力で皮膚の裂け目、頸動脈の近くへとねじ込む。


「グオオッ!?」


グリズリーが異物に気づき、首を振って暴れる。


理花は振り落とされそうになりながらも、粘土を固定した。


だが、そこまでだった。


「がッ……!」


グリズリーの裏拳が理花を捉えた。


直撃は避けた。

だが、衝撃波だけで吹き飛ばされる。


理花はボールのように弾き飛ばされ、コンクリートの壁に叩きつけられた。


「かはっ……!」


肺の中の空気が強制排出される。

肋骨が一、二本イカれたかもしれない。


口の中に鉄の味が広がる。


(くそッ……身体強化ブーストが切れたか……)


霞む視界の中で見えた。


「R-5」を首につけたまま、グリズリーが怒り狂ってこちらへ歩み寄ってくる。


起爆スイッチは今の衝撃で壊れてしまった。

そもそも押す暇がない。


距離が近すぎる。


今ここで爆破すれば、私も爆風で死ぬ。


かといって離れれば、奴はあの驚異的な代謝で異物を払い落としてしまうだろう。


「……詰んだ、か」


死神が鎌を振り上げた、その瞬間。


ズガガガガガガッ!!

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