6:逃亡者
二人はいつものように、穏やかな午前を過ごしていた。大型の蒸留機は、前の世界で写真を見たことがあるくらいで、現物の仕組みが分からなくて、錬金できなかった。
結局、以前作った小型の蒸留機を複数台作り、ポーションのベースを作っていた。
「響さんの蒸留機を世界に広めたら、もっと世の中の医療技術は進みそうですね」
ルナが呟く。
「良いんじゃない?別にこれを独占しようとは思ってないから、ルナの知り合いの治療師にでも聞いてみたら良いんじゃないかな?」
「響さんも欲のない人ですねー。この蒸留機で一攫千金できますよ?」
「ルナだって、このポーションでボロ儲けできるのに、教会に無料で、数箱置いてきてたの知ってるよ?」
一箱十六本入りの箱を、五箱くらいは置いてきていたはずだ。
「ふふ、多すぎるお金は人を不幸にしますから」
ルナなら、儲けてもお金を寄付しそうだな。
「似たもの同士なんですね」
二人で笑い合った。
その時だった。ルナが、突然真顔になり、何かに警戒し始めた。
「ルナさん……どうしたの?」
「何かがやってきます。鳥達の声が止みました。微かな足音のような音も聞こえます」
耳を澄ますが、俺には全く聞こえない。
「音を聞くというより、危険を察知する感覚的なものなんです」
魔物のいる世界だ。この世界の人達は、俺の世界と比べて、危険な物への感知能力が高いのかもしれない。
その感覚は、実際の脅威となって……
「ここだ!目標は、ルナ・フォーグナーだ。診療所を取り囲め!」
森の静寂を切り裂く音と共に、十数名の重装甲を纏った兵隊が診療所を包囲する。
「ぐ、軍隊が何しに……」
先ほどの笑顔とは一転、ルナが困惑した顔で呟く。
ルナは診療所の扉を開け、恐る恐る顔を出す。
「だ、誰か怪我でもしたのですか?」
「ルナ・フォーグナーだな?
貴殿は、光栄な事に王都最高司令官直々に、軍に徴用されることが決まった。我々と共に、王都まで来てもらおう」
「ちょ、ちょっと待ってください!突然言われても困ります。私には待ってくれている患者さんもいらっしゃいます。軍医にはなれません!」
「勘違いしているようだが、貴様に拒否権はないのだ。速やかに支度をしろ」
冷酷に言い放つ。
こいつらに話は通じない……俺の世界にも居たな、こういう奴が。
「お前達こそ勘違いしてるな。ポーションを作ったのは俺だ。あそこにある道具で作ったんだ」
そういって、俺は蒸留機を指さす。
「連れて行くなら俺を連れていけ。この女性を連れて行ってもポーションは作れないぞ」
「響さん!何を言ってるんですか!」
「いいから、隙を見て逃げろ」
耳元で呟く。
ルナの身代わりだなんて考えてない。
別にいいのだ、夢か現実か分からない世界だ。寝たきりだった俺が、短い間だったが、人並みの幸せを味わえた。幸せを感じさせてくれたのは、この目の前の女の子なのだ。ルナだけは助けたい。
「生意気な口を叩く男だな、良いだろう。おい!二人とも連れて行け!」
「は?言っただろ!ポーションを作ったのは、俺だ!彼女を連れて行っても仕方がないぞ!」
「最高司令官は、ルナ・フォーグナーを連れてこいとの命令だ。お前は、彼女が役に立たない時の保険だ」
やはり、話にならない。どうすればいい……。
「あの……分かりました。支度をしますので、少しお時間を頂いても宜しいでしょうか?必要な材料もありますので」
「ふん。10分だけやろう」
「響さんも手伝ってください」
ルナは俺の手を取り、家に入る。
「響さんは逃げてください」
「いーや、ルナが逃げろ……あ、呼び捨てにしちゃった」
「ふふ、呼び捨てで良いですよ。……じゃあ、逃げましょうか」
「え?どうやって?」
ルナは、にっこり微笑むと、また俺の手を取り、ルナの寝室に引き入れた。
「ま、まだ早いよ……」
「な、何言ってるんですかっ!この本棚をこうして……」
ルナは、壁際にあった本棚をスライドさせると、薄暗い隠し通路が現れた。
「こ、これは……」
「響さん、話は後で。もう時間になります。急いで中に入ってください」
再び手を繋ぎ、中に入る。入り口を閉め、静かに奥へと進んでいった。
「昔から、我が家にある隠し通路です。祖父が作ったらしいのですが、理由は分かりません」
「まぁ、結果的に助けられたね。お爺ちゃんに感謝だ」
ちょうど、その時、遠くの方で先ほどの軍人の叫び声が聞こえ、数分後、凄まじい爆発音が響いた。
「家、壊されちゃったかな……」
通路は暗く、ルナの顔は見えないが、時折鼻をすする音が聞こえた。思い出が詰まった家を失うのは辛いことだろう。けれど……
「良い言葉が見つからないけど、ルナの家は俺が直す。無くなった思い出は……俺と作ろうよ」
「プロポーズはまだ早いですよー」
「プププ、プロ……違くて!あの、その……ごめん、言葉選びが下手で……」
「フフ……、ありがとうございます。響さんの言いたいことは、伝わってますよ」
どれ位歩いたのだろうか。暗やみに包まれると、ルナは手のひらから光の固まりのような物を出した。
「明かりです」
「便利なもんだな」
暫く歩き続けると……行き止まりだ。
「ルナ……道が……」
「大丈夫ですよ」
ルナはしゃがみ込み、足下に隠してあったレバーを引くと、指一本入る位の隙間が現れた。
「筋肉の出番です。押してください」
壁を押すと、見知らぬ部屋だった。でも微妙にルナの家に雰囲気が似ていた。
「小さな小屋なんです。ここには、色々な物が保存してあります」
「ここを作ったお爺さんは、どこかのスパイか何か?」
「詳しいことは、聞かされてないんですよね」
やっぱりスパイだな。
どこかからか、お茶セットを出してきたルナは、俺に暖かい紅茶を煎れてくれた。
「これからどうしましょうか?」
「お互い追われる身だね」
「逃亡者ですか……。格好いいですね」
「あ、うん」
変わった感性だな。
「ここから遺跡は遠いの?」
「この小屋は、遺跡の直ぐそばにありますよ」
「丁度いいな。ちょっと俺が倒れていた、泉に行ってみたいな」
「了解です。行ってみましょう。一応、人の気配には注意してください」
小屋は、山道から外れた絶妙に分かりづらい場所に建っていた。外観も、敢えてボロボロに作られているそうだ。
三十分位歩くと、遺跡への道が現れた。
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