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コールドスリープから目覚めたら、剣と魔法が「未来の常識」でした  作者: たくみさん
エピローグ

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2:魔法のない国

 あれから数日がたった。


 神である響が、帝国の人々に挨拶代わりの神の奇跡を披露した。以前ヴィンデミアは、ナノマシンを圧縮した超圧縮コアで、一夜にして復興を遂げた。その技術を応用して、再びアイゼン帝国をの瓦礫やらを撤去し、新しい帝都を作り上げた。以前のスチームパンク風の町並みを一新し、なんだろこれ…某ネズミの国みたいなメルヘンチックな王城や、町並みが完成した。


 そして、新たな帝都の中心で、前皇帝を討ち果たした俺、御剣 迅が、新皇帝として即位することを高らかに宣言した。

 響が作った車いすに乗り、人々の前にたった俺は、人々から失望の目で見られていた。そりゃそうだ、前皇帝は、誰の目から見ても強者だったからな。


 新皇帝となった俺が最初に行ったのは、今までの悪しき法律の全廃だ。

「強さが正義」というスローガンを捨て、「弱者に優しく、共に生きる」という新しい国是を掲げた。


 だが、代償もあった。

 メインサーバーが破壊された事で、アイゼン帝国はナノマシンによる魔法支援を受けられない国となった。生活インフラは維持されているものの、便利だった魔法は使えない。

 かつて「史上最強」を誇った軍事帝国は、一夜にして魔法の使えない「史上最弱」の国へと転落したのだ。

 しかし、神であるヒビキの庇護下に置かれているこの国に、攻め込んでくる命知らずな他国は存在しない。平和だけは保証されていた。


 窓から帝都を見下ろす。


 魔法のない不便な生活を強いられているはずなのに、不思議と人々の顔には笑顔が広がっていた。

 重税や徴兵、理不尽な暴力からの解放。彼らが求めていたのは、魔法の力ではなく、ただ平穏な明日だったのかもしれない。


 俺は、車椅子の上でその光景を眺めながら、自分の足に視線を落とした。

 あれだけの奇跡で命は助かったが、やはり代償として捧げた足の機能は、完全には戻らなかった。


「……よし、やるか。」


 俺は手すりを掴み、震える足に力を込める。

 額に汗が滲む。激痛が走る。それでも、俺は歯を食いしばって立ち上がった。

 賢明なリハビリと、響から定期的に受けるナノマシン治療のおかげで、つかまり立ちはできるようになった。


 以前のように疾風のごとく走り回ることは、もう無理かもしれない。

 それでも、俺は諦めていない。だって、俺は皇帝だからな。座っているだけの皇帝なんて、性に合わない。


◆◆◆


 ある日、執務室のドアがノックもなく開かれた。


「よう、調子はどうだ?ジン皇帝陛下。」

 気安い態度で入ってきたのは、響だ。その傍らには、以前よりも少し大人びた雰囲気の女性、ルナが寄り添っている。二人の左手薬指には、お揃いの指輪が光っていた。


「結婚おめでとう、響、ルナさん。」

「ありがとな。新婚旅行のついでに、顔を見に来たんだ。」


 響は照れくさそうに笑うと、真剣な表情に戻り、俺に向かって頭を下げた。


「ジン……改めて、礼を言わせてくれ。そして、すまなかった。お前にあんな無茶をさせて、大事な足を奪ってしまった。」

「頭を上げてくれよ。俺が自分で選んだことだ。それに、見てみろよ。」


 俺は車椅子から立ち上がり、ふらつきながらも二人の前に立ってみせた。

「まだ生まれたての子鹿みたいだけどな。俺はこれくらいじゃへこたれないぜ。」

「……ああ、お前は本当に強いな。」

 響は安堵したように微笑んだ。そして、何か言いたげにルナと顔を見合わせる。


「ジン、何かお詫びをさせてくれ。俺にできることなら何でも叶える。金か?それとももっと高度な治療か?」

「治療は今のペースで十分だ。焦っても仕方ないしな。……欲しいもの…か。」

 俺は窓の外、郊外の広大な空き地を見つめる。

 そして遠い昔、俺が目指していた夢の場所に思いを馳せる。


「響、この国に競技場を作ってくれ。とびきり立派なやつを。」

「競技場?闘技場じゃなくてか?」


「ああ。殺し合いをする場所じゃない。魔法にも頼らず、己の肉体と精神だけで競い合う場所だ。

 俺はそこで、オリンピックを開きたい。」


 響の目が大きく開かれ、やがてニヤリと笑った。

「なるほど、そう来たか。平和になった世界で、スポーツで競い合う。最高にジンらしい国作りだ。」


「いつか、俺もそれに参加するんだ。今は立つことしかできないけど、いつか必ず、そのフィールドで走ってみせる。それが今の俺の夢だ。」


「わかった。メイ!プラン発動だ。世界最高のスタジアムを建設しろ!」


【お任せください、お父様。設計データ転送、ナノマシンによる高速建築を開始します。】


 窓の外で、光の粒子が舞い上がり、巨大なスタジアムが形作られていく。さすが神の力、仕事が早い。

 その様子を眺めていた響が、ふと何気ない口調で尋ねてきた。


「ところでジン、コノミちゃんとは会ったのか?」

 俺の身体がピクリと固まった。

「……いや、まだ会ってない。」

「まだ?もう皇帝になって数ヶ月だぞ。オットーさんとは連絡取ってるんだろ?」


「オットーさんには、無事だと伝えてある。でも、コノミには……」

 俺は自分の動かない足に視線を落とす。

「こんな歩けない姿、見せられないだろ。いつかリハビリを終えて、人並みに歩けるようになったら、その時に胸を張って会いに行くつもりだ。」

 それが、男としてのけじめだと思っていた。


 だが。

「…大馬鹿。」

 冷ややかな声が、部屋に響いた。


 声の主は、ルナだった。彼女は、ゴミを見るような目で俺を見下ろしている。

「え、ルナさん?」


「ジンさん、あなたって本当に大馬鹿者ですね!不誠実にも程があります!」


「ふ、不誠実!?いや、俺は彼女を心配させたくなくて……」

「それが自分のエゴだとなぜ分からないのですか!」

 ルナが、ダン!と机を叩いた。響が「ひえっ」と縮こまる。奥さん、強いな……。


「いいですか?オットーさんから話を聞いている彼女が、今どんな気持ちでいると思いますか?


『生きてるならなぜ会いに来ないの?』

『私は必要ないの?』


 …そうやって毎日不安に押しつぶされそうになりながら、あなたを待っているんですよ!」


「い、いや、でも、俺は足手まといに……」

「世話焼きの彼女なんでしょう?だったら、あなたのリハビリを手伝えないことが、一番の不幸なんです!


 愛する人が苦しんでいる時に、側にいられないことがどれだけ辛いか……あなたには分からないんですか!」

 ルナの目には涙が浮かんでいた。


「共に苦労し、共に歩むのがパートナーでしょう?


 格好いい姿だけ見せようなんて、そんなの愛じゃありません。ただの格好つけです!」

 ルナの剣幕に、俺は言葉を失った。


 ボロクソに言われたが……反論の余地がない。ぐうの音も出ない正論だった。


 俺は、コノミの優しさに甘えていただけだ。「待たせている」という事実から目を背けて、自分が傷つくのを恐れていただけだ。


「…ルナさんの言う通りだ。俺は、とんでもない大馬鹿野郎だ!!」

 俺は響に向き直った。


「響!ノワール・ファントムを貸してくれ!今すぐ村に行く!」

「ははっ、そうこなくちゃな。ほら、鍵だ。」

 響が投げたキーを受け取る。


 俺は車椅子など放り出し、アトラスの背中にしがみついた。


「アトラス、全速力だ!格納庫まで頼む!」

『合点承知だワン!恋の暴走列車、出発進行だワン!』

 だれだ、アトラスに変な言葉教えたの…


 俺たちは風のように部屋を飛び出した。


 背後で、ルナが「行ってらっしゃい!」と明るい声で見送ってくれるのが聞こえた。

 ゴメンよ、コノミ。


 格好悪くても、歩けなくてもいい。

 ただ、あいつに会いたい。


その気持ちだけで、俺達は外へ飛び出した。

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