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コールドスリープから目覚めたら、剣と魔法が「未来の常識」でした  作者: たくみさん
エピローグ

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48/50

1:生死の境

 ここは帝都アイゼングラードから遠く離れた、ヴィンデミア王国辺境の地下基地。

 巨大なメインモニターには、ノイズにまみれたライブ映像が映し出されていた。画面の主役は、黒鉄神威の鎧を纏い、黄金の皇帝と対峙するジンだ。


「ナノ、メイ!まだか!?早くサーバーの支配権を奪って、ジンの鎧の防御を安定させろ!」


 響は苛立ちを隠せず、声を荒げた。モニターの中のジンは、皇帝の一撃で壁に叩きつけられ、血を吐いている。


『無理です、敵のファイアウォールは、予想を遥かに超える旧時代最高の強度です!』


【私とナノが持つ量子演算能力を全投入していますが、突破にあと数時間はかかります!】


 メイとナノの声も、焦りで震えていた。ジンが刻一刻と、物理的なダメージで追い込まれていくのが分かる。

 響は椅子から立ち上がり、思わず制御卓を叩いた。

「クソッ!俺が直接行く!現地で物理的に接続ポートを開ける方が早い!」


「行かないで、響さん!」

 ルナが響の背中にしがみついた。彼女の、その青い瞳に涙が滲んでいる。


「お願いです。行かないでください!今、響さんまで危険に晒されたら、誰が私たちを…」


「馬鹿を言え!ジンを見捨てろとでも言うのか?!」

 響はルナを押しのけようとするが、ルナの必死な訴えに手が止まる。


 モニターの中で、ジンは再び立ち上がったが、その動きは鈍い。皇帝が、最後のとどめを刺そうと大剣を振り上げる。


「な、何とかしろ!ナノ!メイ!お前たちは万能の力を持っているだろ!?何とか、何とかしろよ!!」


 響は膝をついた。無力感に襲われ、自分の額を制御卓に叩きつける。


 ―神だと?ふざけるな。俺は何もできない。遠い場所から、同郷の友人が死にゆく姿を眺めることしかできない、無力な傍観者だ。


「俺の、俺の力じゃ……っ」

 響の目から、大粒の涙が流れ落ちた。それは、この世界に来て初めて流した、絶望の涙だった。


 その瞬間、モニターの中のジンが、覚悟を決めたような表情を浮かべた。彼は震える手で刀を構え、天を仰ぐ。

 ジンは咆哮し、再び皇帝切りかかっていく。

 その叫びは、響の胸を貫き、絶望の淵にいた彼の魂を鼓舞した。


「……ジン、お前は、なぜそこまで頑張れるんだ…!」

 響は涙を拭い、再び立ち上がった。

「ナノ、メイ!ノワール・ファントムを用意しろ!」

『響様!?』

「いいからやれ!ハッキングはもう間に合わない!ジンの命を繋ぐには、俺が現地に行く方が可能性はある!」


 ルナが再び、響の胸に顔を埋めた。

「私も行きます。お願いです、一時も離れたくない。もしまた響さまが…」

 響はルナの柔らかい髪を優しく撫でた。


「ルナ……聞いてくれ。俺は弱い。この身一つで誰かを守ることなんてできない。だから、ルナには安全なこの場所で、俺の帰りを待っていてほしいんだ。」

 響はそっとルナの唇にキスをした

「行ってくる。必ず、ジンを連れて帰る。」

「……はい。ご無事を。必ず、必ず帰ってきてください」

 ルナは、最後にぎゅっと響を抱きしめ、覚悟を決めてその背中を見送った。


◆◆◆


 ノワール・ファントムのコクピットに乗り込んだ響は、シートベルトを締めた。


「ナノ!メイ!ハッキングは完全に中止!残りの全エネルギーを、ノワール・ファントムの推進力に注ぎ込め!加速させろ!」


『りょ、了解しました!』

【メインサーバー直結!限界突破、行きます!】

 機体が、轟音を上げて加速する。



 飛行中、片時もジンの命を削る戦いから目が離せない。その時、メインモニターに映っていたアイゼンタワーが、垂直に真っ二つに割れる光景が飛び込んできた。

 皇帝は絶命し、帝都のナノマシンを支配していたメインサーバーが爆発炎上する。


「な……馬鹿な、アイゼンタワーごと……あいつ、なんて奴だ!」

 驚愕と安堵が入り混じる響。だが、すぐに頭を切り替えた。


「ナノ!緊急指令だ!メインサーバー破壊でナノマシンは支配者を失っている。今がチャンスだ!」


【流石、お父様…アイゼン帝国のナノマシンネットワークが、パニック状態に陥っています。】


「全権限を掌握しろ!全てのナノマシンネットワークを俺たちの勢力下に納めろ!これは最優先事項だ!」


【了解。全ナノマシンシステム、支配権奪取開始。】

 メイの宣言と共に、帝都のナノマシンネットワークは、響の管理下へと瞬時に移行した。


「ナノ、ジンの生体信号を!至急、彼の命を繋げ!」


『ジンの心臓は停止状態に近いです!ナノマシン損傷率85%!足の機能は、完全に…。


 アトラスが、崩壊するタワーからジンさんを守り下敷きになっています!』

 状況は絶望的だ。


「メイ!アイゼン帝国のナノマシン全権限を使って、ジンの鎧の能力を緊急回復させろ!そして、アトラスにエネルギーを供給しろ!崩壊からジンを救出しろと指令を出せ!」


【了解。アイゼン帝国ナノマシン起動、生命維持機能復旧、アトラスへの緊急エネルギー供給開始!】


 帝都の上空を音速で突き進むノワール・ファントムの中、響は祈るようにモニターを見つめた。



◆◆◆


 俺は、己の全てを燃やし、アイゼンタワーの崩壊に飲み込まれたと思っていた。

 だが、唐突に全身に激痛が走り、俺は意識を引き戻された。全身の筋肉が焼けるような痛みだ。


 「ぐあッ!」

 俺は思わず目を開けた。


 目の前には、炎上し、垂直に割れたアイゼンタワーの残骸が、今にも崩れ落ちようとしていた。

 俺は生きている。身体の痛みが、それを証明している。


「ジン様!」

 アトラスが、瓦礫の中から俺の身体を引きずっていた。

 アトラスの身体は、先ほどまでの疲弊した状態とは違い、青い光を放ち、力に満ちている。


「アトラス……お前、どうして……」

「わかりません!突然、身体にエネルギーが流れ込んできて!瓦礫を跳ね飛ばす力が湧きました!」


 俺の鎧の表面も、僅かに亀裂が修復されていた。誰かが、助けの手を差し伸べた。


「急いで!ここも崩れます!」

 アトラスは俺を背中に乗せ、信じられない跳躍力で崩落するタワーから脱出した。


 外の空気に触れ、ようやく安堵の息を漏らす。俺は生きていた。そして、アトラスも無事だ。

 死んだと思った、だが何故か俺は生きていた。そして、誰が俺たちを救った?

 答えは直ぐに出た、響だ。よく分からんが、あの状況で、俺たちを助けられるのは、響だけだ。

 安堵感から、急激に眠気が襲ってくる…


「アトラス…また、お前に会えて良かった。」

「僕も、またジン様を背中に乗せることができて嬉しいよ!」

「少し、お前の背中を貸してくれ、凄く眠いんだ…」

 体の回復力が高まっているのか、痛みが徐々に引いてきている。しかし、足はピクリとも動かない。


「今、神様がここに向かってきています。安心して休んでください。」

 暖かいアトラスの背中…とても気持ちがいいな…。俺は意識が遠のくのを感じた。

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