8:鋼鉄の将と雷光の騎士
俺はアトラスに跨り丘を駆け下りる。ザルガス将軍は、身動ぎもせず、戦鎚を担ぎ俺達を見据えている。敵将の周りには、数多くのモヒカン兵士の死体が重なっていた。何があったんだ⋯
「貴様らの軍を止め、補給を絶ったのは俺だ。その死体の山はなんだ!」
俺は兜越しに将軍を睨みつけた。
「我が名は、アイゼン帝国軍、将軍ザルガス・フォン・アイゼングラード。先程の戦い、見事であった。そなたの名を聞きたい。」
よく通る声で名乗りをあげてきた。
「俺の名前は、御剣 迅。ただの剣士だ。答えていないぞ、その死体の山はなんだ!」
「死体の山?ああ、このゴミ共か⋯。逃亡兵には死あるのみ。我が軍に臆病者は必要ない。強き者よ、どうだ、私の右腕にならんか?」
将軍は、力こそ正義と語るような、歪んだ笑みを浮かべた。
「ふん、興味ないな。俺は我が国に害をなす貴様らを屠りに来た。命が惜しければ、怖気づいた貴様らは逃げてもいいぜ?」
「ふっはっはっ、可笑しな事を言うやつだ。どれ、一つ貴様の腕前を見てやるか。」
偉そうな奴だな⋯背中の刀を抜く。鞘から抜き構えると、柄から伸びる黒い刀身に、ザルガスは目を丸くしていた。
「その刀、面白いが、ウケ狙いではないのか?」
「実践用の刀だが?」
ちなみに、この響が作った刀には、痛い名前が存在する。終焉雷霆・黒牙という。意味を早口でまくし立てていたが、俺は一切覚えていない。雷霆とあるが、雷だけではなく、炎や氷の魔力も刀に帯びさせる事が可能だ。
俺は、ザルガスに指で掛かってこいと合図する。
「生意気な奴だな…。その傲慢さを叩き潰してやる。」
「その言葉、そのまま返してやるよ!!」
長かった刀が、使用者の意思によって短く縮み、高速の斬撃を繰り出す。あまり長いと、橋にダメージを与えてしまうしな。
ザルガスは、戦鎚の重さを感じさせず、俺の斬撃を巨大な戦鎚を軽々扱い受け止める。
「ほう、なかなかの剣速、そして重い…並の戦士では受け止められんわな。」
戦鎚を手首を使いくるりと回し、そのまま俺の頭めがけてかちあげる。
「ふん、その戦鎚も物理法則を無視したような動きだな。」
「ぶつり?よく分からんが、ほめ言葉として受け取っておく。」
ザルガスは、俺と同じ位の身長があるが、横幅は二倍位ある。つまり、動く壁だ。もの凄い威圧感を感じる。
そんなザルガスが、戦鎚を振り上げ、頭めがけて振り落とす。バックステップでかわすと、あいつは、そのまま体ごと回転し、俺に蹴りを食らわしてくる。咄嗟に刀で受け止めたが、もの凄い衝撃だ。
その勢いのまま、いつの間にか頭上まで持ち上がってきた戦鎚を振り落とす。面の皮一枚で交わしたが、地面にめり込んでいたはずの戦鎚が、逆再生のように俺の顎をかすめる。
「ほう、よくかわしたな。俺の連続技を食らって生きていたのは、お前と皇帝陛下だけだぞ!」
オットーから教わった、ツバメ返しという技を知っていたから予想できた。
「それじゃあ、俺のターンだな。まだ楽しみたいんだ、死ぬなよ?」
「ほざけ!小童っが!」
「神焔開放!!」
神焔開放は、オットーから教わった技だ。瞬間的に自分の筋力、速度を数倍にする。
刀を頭上で構える。
「天衝一閃!!」
これは、ただの縦切りだ。しかし、その一瞬に全ての力をこめる。刀が壊れても良いという力を込める。壊れたらまた、作ってくれるだろ、響が。
◆
その瞬間、ザルガスの時が止まったような感覚に襲われた。
ジンという生意気なガキが振り下ろす剣筋は、目に捉えているが、自分の動きがとにかく遅く感じる。足下に振り下ろしていた戦鎚を、ジンの刀を受け止める為、持ち上げようとするのだが、ザルガスの剛力をもってしても持ち上がらない。いや、持ち上がっているが…途轍もなく遅く感じる。
これは、皇帝と戦ったときにも感じた…そうか、死ぬ前の感覚、走馬灯に近い…
戦鎚は、頭上まで持ち上がっていた。これなら、ジンの刃を受けることができるだろう。
だが、時間の流れは遅いままだ…故郷に遺した妻と娘の事が想い出される。戦に明け暮れた生涯だった…妻と子には、不自由のない生活をさせているが、父親としての仕事は、一切してこなかったな。
しかしまぁ、最後にこのクソ生意気な小僧と戦えて満足した。俺の限界はここまでだったか。
◆
俺の刀が、ザルガスの戦鎚に触れる…何の抵抗もなく戦鎚を切り裂き、奴を脳天から切り裂いた。
「みご、とだ…」
ザルガスの肉体は、左右に両断され、地面に倒れた。
「ザルガス、お前も強かったよ。」
ザルガスは、絶命した。
俺は刀を振り、付着した血を払うと、静かに鞘へ納める。
カチーン、という硬質な音が戦場に響き渡ると同時に、俺は大きく息を吸い込み、戦場全体に向けて叫んだ。
「さーー!次は誰だ!!」
その声は、アトラスが拡声機能を使い、雷鳴のように轟いた。
絶対的な指導者であったザルガス将軍を一撃で両断された衝撃は、帝国兵の士気を根底からへし折ったようだった。帝国兵の顔には、明らかに怯えと、戸惑いが現れていた。
「て、撤退だ!!」
「化け物だ……勝てるわけがない!」
誰かが叫んだのを皮切りに、漆黒の軍勢は雪崩を打って背を向けた。クロノスの架け橋を埋め尽くしていた脅威が、潮が引くように去っていく。
『やりましたわん!、ジン様!完全勝利だわん!』
「ああ…なんとかなったな。」
俺はアトラスの首筋を撫でながら、逃げていく帝国兵たちの背中を見つめる。
彼らが持ち帰るのは敗北の知らせだけではない。力こそ正義の帝国において、新たに強者が現れたという事実だ。
俺は、橋の向こうに広がるアイゼン帝国の空を見上げた。
どんよりとした曇り空の向こうに、まだ見ぬ皇帝の姿と、これから築くべき平和な未来を幻視する。
「待ってろよ、皇帝。お前の席は、俺が貰う。」
クロノスの架け橋に、勝利の風が吹き抜けた。こうして、俺の皇帝への道は、最強の将軍の屍を越えて、鮮烈に幕を開けたのだった。
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