2:光の城
空の旅は、30分程で終わり、ヴィンデミアの王都へ到着した。王都の門をくぐり、城をめざす。飛行機で、城まで行けたのだが、オットーがどうしても街並みを見たいというので、王都の外へ飛行機を置き、歩きで城をめざした。
飛行機は、俺たちを下ろすと、勝手に空に飛んでいった。ジルが呼ぶと、また着陸してくれるそうだ。一家に一機欲しいな。
「ジル様、王都の復興早すぎませんか?」
民衆の暴動により、相当荒れ果てたらしいが、そんな面影は一切なく、人々は活気に溢れていた。
「これも神の奇跡です。ほんの数時間で瓦礫の山だった物が、元通りの姿になりました。有り難いことです。」
「神の奇跡…。」
オットーは、真新しい建物が並ぶ町並みをきょろきょろしながら歩いている。俺は…以前の状態が分からないから、ふーんってな感じだ。
「ところで、ジル様は大天使イリス様にはお会いになられましたか?」
「イリス様は、頻繁にお姿を表してくださりますので、私も何度がお会いしています。大変慈悲深いお方で、この世の物とは思えない美しさですよ。」
「ほぇ~お会いしたいな~」
鼻の下延びてるぞ。
城の門は解放されており、少々不用心では?と思ったが、王の居ない今、ここは、さながら公園の様に、人々の憩いの場となっているそうだ。
人々は、ジルの姿を見かけると、気軽に挨拶をしてきて、ジルも笑顔でそれに答えていた。
城は、白く輝く石材でできていて、外壁の一部は大きなステンドグラスでできており、全ての窓もステンドグラスで埋め尽くされている。
城の入口には、兵士が居たが、ジルは顔パスで、俺達は一切のボディーチェックもなしで入城した。
城内は、一般的にイメージされるような、金銀財宝や派手な絨毯、豪華絢爛な調度品で飾られているわけではなかった。床も壁も磨き上げられた純白の石造りで、広大な空間には驚くほど物がない。
頭上を見上げると、壮麗なステンドグラスが、外からの太陽光を無数の色彩の奔流に変えて降り注がせていた。赤、青、緑、黄金色。光の粒子が空気中を舞い、柱や床に万華鏡のようなパターンを描き出す。その光の芸術は、まるで城全体が巨大な宝箱であるかのような錯覚を起こさせた。
「……ま、眩しいな。まるで、夢でも見ているようだ」
オットーが感嘆の声を漏らす。その目には、色とりどりの光が反射して揺れていた。
「高価な調度品なんて一つもないのに、ここまで豪華に見えるなんてな。ステンドグラスで光を飾るって発想がすごい」
この光景は、俺が知るどの世界の豪華さとも違っていた。彼らは物質的な富ではなく、光と信仰という抽象的な概念を究極まで洗練させて、権威を作り上げているのだ。
通路を歩くジルも、白い神官服のようなシンプルな装いだが、降り注ぐ光の帯が彼の輪郭を縁取り、まるで本当に神の使いのように見えた。
「この王城は、大天使イリスの神意によって建てられました。私たちの神は、金銀財宝や派手な飾り付けを望まれません。清らかで、全ての人が平等に享受できる光こそが、真の富であると仰っております。」
ジルは静かに説明する。
その言葉通り、壁にはヴィンデミアの紋章である「ブドウと翼」が、巨大なステンドグラスとして描かれているだけで、剣や甲冑、肖像画といった武威や歴史を飾るものは一切なかった。
「……なるほど。貴族の廃止といい、この城といい、以前のヴィンデミア城とは大違いだな」
マニエラ王国が「知恵と貿易」を重んじ、知識や技術という実利に価値を見出しているのに対し、今のヴィンデミア王国は「信仰と光」という精神性を価値の頂点に置いている。
圧倒的な美しさと、その裏にある強固な信仰心に、俺は自然と背筋が延びる。
いくつもの光の廊下を抜け、私たちは城の中央にある広間へとたどり着いた。
その広間の入口には、高さ数メートルに及ぶ、巨大で分厚い扉があった。しかしそれは木製でも金属製でもなく、磨き上げられた巨大な水晶のような半透明な素材でできており、城中のステンドグラスの光を集め、それ自体が輝いているようだった。
「こちらが、大天使イリスの神託を受け、この国を統べるアルトリアス様がいらっしゃる至聖所です」
ジルは扉の前に立ち止まり、静かに言った。
「マニエラ王国では、国王謁見時には跪くのが礼儀と聞きます。ですが、この国ではそのような特権階級の作法は不要です。神は万民の平等を望まれています」
ジルは一呼吸置いて、手のひらを自分の胸に当てた。
「ただし、神の光に対する敬意は必要です。我々は、神がもたらした平穏と、その御力に感謝を捧げます。あなた方も、我々の作法に従って頂けると幸いです。」
ジルは、胸に当てた手を静かに下ろし、深くお辞儀をした。
「まず、静かに立ち止まる。そして、心の中で神に感謝を捧げながら、深く一礼してください。畏怖ではなく、感謝と希望の念を捧げるのです」
俺とオットーは顔を見合わせ、言われた通りにジルに倣った。胸に手を当てて深く一礼する。
すると、巨大な水晶の扉が、何の音も立てずに内側へとスライドして開いた。その向こう側は、城内で最も明るく、最も光が集中する空間だった。
「さあ、お入りください。神勅の執行者アルトリアス様がお待ちです」
扉をくぐると、遥か上空から降り注ぐ光の柱の中に、ただ一人の人物が立っていた。
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