1:ヴィンデミアの地下通路と神鳥
魔法陣の発光が収まった。目を開けると、そこは土壁に覆われた四角い部屋だった。
「オットーさん、本当に転移してるの?」
「俺も最初はそういう反応だったよ。階段を上ってみな」
言われるまま、階段を上り、天井にある扉を開けてみると、そこにオットーの寝室はなく、冷たい石造りの床に窓一つない小さな小部屋だった。奇妙な事に扉すらない。
「よっこいしょと……どうだ、ビックリしただろ?」
「ビックリというか……どうやって外に出るんだ?」
「これはな、一種の防犯対策でな、この魔石がないと、魔法陣の発動もしないし、扉も現れないんだ」
そういって、オットーは手のひらに小さな石ころを乗せて俺に見せてきた。よく見るとうっすらと何かの紋章のような物が確認できる。
「天秤と羅針盤かな?」
「よく見えたな。老眼の入った俺の目ではよく分からんのだが、マニエラ王国の紋章だ。中央に、公正な貿易と知識の探求を象徴する天秤と、進歩を象徴する羅針盤が組み合わされている。天秤の上には、知恵と学問の象徴として国鳥のフクロウも描かれているぞ」
「あーーーたしかに。面白いもんだな」
「でな、この魔石を持って、そこの壁に手を触れると……な?扉が出てくる」
「ちょ、ちょっと俺にもやらせて!」
「ふふ、ほらやってみな」
楽しすぎて、10回位やりました。
「も、もう返せ!そろそろ行くぞ!」
「あ、あと5回!」
「帰るときにもう一回やらせるから!……さあ、急ぐぞ!」
扉を抜けると、遥か端が見えない長い通路が現れた。扉を閉めると、再び扉は消えた。……面白い。
「一回しかやらせんぞ?」
ゴールの見えない直線を歩くのは面白くない。一人ならランニングがてら走るんだがな……。後ろでオットーが、腰が痛いだの、足が痛いだの煩い。
担いでいくか……。
「オットーさん、ちょっと失礼しますね」
股ぐらに手を突っ込み、担ぎ上げる。そして、一気に加速する!こりゃ、良いトレーニングになるわ!!
「わわわ、高い!早い!!こわいぃーーー!」
担いだ事により、耳元で騒がれるから余計煩くなった……。
「た、玉がいてぇ……」
「そ、それは……すいませんね、」
玉を圧迫していたみたいだ……。でもまぁ、大幅な時間は短縮できたし、文句は言わせんぞ!
「国の緊急事態なんですから、我慢してください!」
「それを言われると文句も言えないな……」
行き止まりで、また魔石を持ち、壁に手を触れると、扉が現れる。
「扉の向こうは、国境手前だ。今認識阻害の魔法をかけるから待ってろよ」
認識阻害の魔法をかけてから、扉をくぐると、外側からは木陰から出て来たようにしか見えないらしい。男二人が木陰から出て来たら、あらぬ疑いをかけられそうだが、まぁ……いいか。
国境付近と言っても、壁が築かれている訳でもなく、「ようこそヴィンデミアへ」という看板があるだけだった。ちなみに看板にはヴィンデミアの紋章が書いてあり、葡萄に翼の生えた変わった紋章だった。ワインが名産らしい。
その時、遠くの方で甲高い音が聞こえたと思ったら、炸裂音がして、目の前に白い飛行機?が現れた
。
「ジ、ジン!白い怪鳥だ!魔物か?!」
いや、飛行機だろ……とも言えないので、驚いた振りをしておいた。
飛行機のハッチが開き、中から人が出て来た。
「ようこそヴィンデミアへ。マニエラ王国の使者オットー様で宜しいか?」
「は、はい!あなたは?そしてこの鳥は?!」
「はははっ、挨拶が遅れ申し訳ない。私の名は、ジル・ロシュフォールと申します。この鳥は、私の移動を手伝ってもらっている神鳥ノワール・ファントム。鳥……というか、神が言うには、飛行機と言うらしい」
「神?!つまり貴方が神の使者ジル・ロシュフォールですか?!というか、何故私たちが来るのをご存じなのですか?」
「ヴィンデミアの危機に、二人の男が隣国からやってくると、神からの神託がありました」
「はーーーーこれが、神の力か……」
オットーは、感動していて話にならなそうなので、俺はジルに話しかけることにした。
「えっとジルさん。俺はジン。あまり礼儀とかは知らないんだ。失礼なことを言っても、悪気は無いんだ。許してくれ。取りあえず俺たちは、あまり目立ってはいけないんだ。場所を変えないか?」
オットーは、ビクッと俺の声に反応し
「ジンは悪い奴ではありません。ただ、常識知らずなだけなので、ご容赦ください」
「はははっ、大丈夫ですよ。我らの神は、そこまで礼儀に厳しくはございません。また、この国では、貴族などと言う特権階級も全廃されました。私たちは皆平等です」
「な、なんと……この国は、どうなっているのだ……」
オットーは、また感動しているが、一体何処に感動するところがあるんだよ。
「ジンさん、すでに私たちの周りというか、このノワール・ファントムの周りには、見えない結界が張られています。誰かの目に付くことはございません。しかし、貴方達は我が国のお客様です。立ち話もなんですから、飛行機の中にお入りください」
怖いとだだをこねるオットーを引きずり、飛行機に乗り込む。ちゃんと椅子も用意してあり、中も凄く豪華な仕上がりだ。とはいえ、俺は飛行機事故で両親を失い、俺自身大怪我を負った。正直、搭乗は遠慮したいが……好奇心が勝った。この飛行機は、まるでステルス戦闘機みたいな姿形をしているのだ。男心をくすぐる。
「ジンさん、ご安心ください。この飛行機は落ちません。神の加護に守られていますから」
「え?!そ、それも神から?」
「はい。神は個人的に貴方と直接、話がしたいと仰っています。私も神の声を聞いたことはありますが、お会いしたことはありません。正直、羨ましいですよ」
「ジ、ジン!お前、神様に何かしたんじゃあるまいな?!」
「会ったこともないのに?!」
神とは一体、どんな奴なんだ……不安な気持ちを抱きつつも、動き出した飛行機の空からの眺めが楽しすぎて、オットーと一緒に観光気分を味わってしまった。
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