10:隠し部屋の魔法陣
未だに雪は残っているが、徐々に日が長くなり、春の訪れを感じさせた。漁の手伝いを終え、昼飯を食いに帰宅した俺は、オットーが神妙な顔でテーブルに座り、考え事をしているのを見つけた。
「ただいまー。オットーさん真剣な顔してどうした?似合わないよ?」
「ああ、ジンか……おかえり」
「本当になんかあったのか?」
「あ、ああ。この島は、マニエラ王国に属するのだが、どうも戦争に巻き込まれつつあるようだ。ジンは、ヴィンデミア王国を知っているか?」
「しらん。聞いたこともないな」
「お前、常識なさすぎだぞ。マニエラ王国は、ヴィンデミアの隣国で、同盟を結んでいる。だが最近、ヴィンデミアでは、事件が起こってな。まず国王が民衆に殺された。暴動が起こったんだ。王が不在、軍部も麻痺状態らしい。
その機に乗じて、アイゼン帝国が、領土拡大を狙ってヴィンデミア王国に攻め入ろうとしている。しかし、アイゼン帝国がヴィンデミアに攻め入るためには、マニエラ王国を跨がないといけない。アイゼン帝国は、マニエラ王国に中継地点の要求と、兵の拠出を要求している。拒めば、マニエラ王国も敵と判断するとのことだ」
「ジャイアンだな……」
「ジャイアン?大きいという意味か?まぁ、アイゼン帝国は、デカいと言えばでかいな。軍も強力だ。マニエラの軍では、歯が立たない」
「それで……マニエラ王国はどうするんだ?」
「それがなぁ、ヴィンデミアの次はマニエラに攻めてくるだろ。中継地点も返さないだろ……」
「あーー、ありがちだな……」
「マニエラ王国は表向きアイゼンに屈したフリをして、時間を稼ぐ。その間に、ヴィンデミアに使者を送り、帝国が攻めてくること、そしてヴィンデミアとマニエラで連合軍を組み、アイゼンを挟撃する作戦を協議する」
「でもヴィンデミアの軍は、機能してないんじゃ?」
「そうらしいな。だがヴィンデミアには、自国をまもる神が光臨したと言う話がある」
「え?神?アラハバキみたいな?」
「恐ろしい神としか、情報はないな。現地に行かないと始まらん……と言うことで、使者は、俺とお前だ」
「え?!オットーさんは、この村の村長だろ?なんでそんな大任を?!」
「あ、ちょっと軍に居た事もあってな。お前の強さは規格外だしな。だが良いか?今回の件は、極秘事項だ。アイゼン帝国に気づかれるのもマズい」
オットーはそう言うが、過去に軍の指南役でもしていたのだろうか…。彼の強さは、こういう状況では貴重だ。
「そんな極秘事項を、俺に話すのはどうかと思うがな?」
「あーー、はははっ!確かになっ!」
オットーは一人で大笑いしている。なんかバカにされている感もあるが、まぁ事実だし仕方ない。
「ふぅ、なんか悩んでたのが、馬鹿馬鹿しくなってきたな」
「そりゃよかった」
「んで、どうやってヴィンデミアとやらに行くんだ?船か?」
「んや、大陸までは、ここの地下に転移魔法陣があるから、それを使う」
「なんか凄そうなワードが出て来たな。なんでそんなもんが……」
「ちょっと軍の関係でな……」
ひょっとしてオットーは、マニエラ王国の要人なのか?
「転移魔法陣を使うと、マニエラ王国とヴィンデミア王国の国境付近に出る。地下通路を使い、ヴィンデミア入りする。アイゼン帝国は、まだマニエラ入りしていないが、斥候は入っているはずだ。十分注意し、目立つ行動は避けること」
「ヴィンデミアの神とやらには、どう連絡するんだ?」
「まずは神の使いジル・ロシュフォールと接触する」
「神の使い?」
「神の使いは、まずトップに居るのが大天使イリス。凄いべっぴんさんらしい。まぁ、大天使イリスも神じゃないかと言われてるがな」
「神様多すぎでは?」
「この世界には、八百万の神が居るらしいぞ?」
「まぁ、大天使イリスのファングッズもあるらしいからな、会えるものなら会ってみたいな。それと、神勅の執行者アルトリアス。ヴィンデミアの次期国王と言われてるらしい」
「ほぇ~」
「話しについてこい!善は急げだ、俺はババさま達に話を通してくる。出発は今晩!解散!!」
話が急すぎるし、知らない単語が出過ぎて、理解を超えてる。取りあえず……コノミに挨拶しとくか。また泣かれても面倒だし。
◆◆◆
「……と言うわけで、暫く留守にする」
極秘な部分は伏せたが、コノミの目は、全てを見透かしているような、心配そうな目だ。
「……危ないことはしないでくださいね。取りあえず、夜に出発するのでしたら、今日はもう体を休めてください」
「ああ、分かった。お土産買ってくるからな」
「期待しないで待ってます」
あんまり素直だと少し怖いのだが……
◆◆◆
「どれ、出発するか」
晩飯を食い終わり、早速出発する。
「ジン、コノミから預かり物だ」
オットーから手渡されたのは、丁寧な包みに入ったお弁当だった。
「忘れてるかもしれませんが、あなたも人間です。人間は儚い生き物です。あなたが死ねば、悲しむ人が居るという事を忘れないでくださいね」
添えられていた手紙は、コノミらしい、素直ではない優しさで綴られていた。
「俺は普通の人間だっつーの!」
「バカたれ……お前は毎晩その手紙を読んで、自分が人間である事を自覚しろ。いいな、無茶はするな。危険があれば、走って逃げても良いんだ」
「心に留めておくよ」
「さ、ついてこい。魔法陣は、寝室の地下にある」
オットーの部屋の絨毯をめくると、扉があり、その中には地下へ続く階段が現れた。
階段を下りると、四方を土壁に囲まれた部屋があり、中央に円形の模様が描かれている。
オットーが、そっとその模様に手を触れると、眩しい光を放ち始めた。
「さ、魔法陣の上に乗れ。少し酔うから気を付けろよ。」
少し緊張しているが、新天地というのは、少しわくわくする。ヴィンデミアにも美味いものあるといいな…。
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