4:村の日常
倒した魔物を引きずり、腰の抜けたコノミを片手に抱えながら村に帰ると、歓声があがった。
この熊は「ウルスス」と呼ばれ、雑食性で人も襲うが、作物にも被害を出していたらしく、村人達に大変喜ばれた。
ウルススは早速解体がはじまり、今晩は宴が行われるらしい。村はお祭りムードだ。
俺は、報告のために村長であるオットーに呼ばれていた。ようやく立ち直ったコノミを引き連れ、オットーの元へ歩みを進める。
「ジン、さっきはありがとね。命の恩人だわ」
「命の恩人には、もっと優しくしないと駄目だぞ?」
「う、うん。わかった」
コノミがやけに素直で、しおらしい態度に、少し不気味だなと失礼な感想を抱きつつ、村長宅兼俺の居候先に歩みを進める。
「ジンはさ、この村に気がついたら居たんだよね?」
「ああ、目覚めたら浜辺で全裸だったんだ。決して露出狂ではないぞ?」
「ふふ、分かってるわよ。あの……さ、ジンは、また元の場所に戻りたい?」
コノミは不安そうな目で俺のことを見上げる。
「そうだなー、今どうなってるのか気になりはするが、親はいないしな……村長が俺の親であり、兼の師匠。この村が第二の故郷だと思ってるし……」
「そっか……そうなんだ」
満面の笑みでそう呟くコノミ。
「ただ、外の世界も見てみたいんだよな。もっと剣の腕を磨いて、武者修行の旅ってのも悪くない」
「え……そうなんだ……」
途端に落ち込むコノミ。
忙しいやつだ。
「どうした?笑ったり、落ち込んだり」
「言ったでしょ?乙女は、そういう生き物なの!鈍感なジンには分からないわよ」
「まぁ、分からんなー。
俺は走ることだけに全てを捧げ、早く走ることだけを追い求め、他のことには関心がなかった。
同年代のやつに、俺のライバルと呼べる実力をもつ者は居なかったし、ちやほやしてくれる同級生は居たけど、一線を引かれていて、友達とかは居なかった。
だから人の気持ちにすごく鈍いんだ。気が付かない内に、コノミにも失礼なことを言ってたらゴメンな」
「ううん。良いのよ。あんたは、あんたなりに考えてるんでしょ?」
「うん。
俺は、色々なものを犠牲にしてきた。だから、色々な物を失ったかもしれない。時々考えるんだよ、俺の親は幸せだったのかなって」
ふと事故で亡くなった両親のことを考えてしまう。
「良い親も、悪い親も居るけどさ、ジンの親御さんはどうだった?」
「素敵な親だったよ。俺の親は、俺が大会で勝ったときは、とても喜んでくれた。結果が出なくて落ち込んでた時は、励ましてくれた。俺が泣いてる時は、一緒に泣いてくれた」
「そんな思い出を残してくれた親が、不幸だったなんて思えないわね。あなたに出来ることは、親の分も生きて、幸せになることよ」
「ああ、頑張って生きるよ、親の分までな。」
◆◆◆
家に帰ると村長には、危ないことはするなと言われたが、顔は満面の笑みだった。
「まあ、その状況では仕方ないよなー。俺もそばに可愛い子が居たら張り切っちゃうもんな」
「良い歳したおっさんが何言ってるんだか……」
「バカタレ、俺は女からモテるために、剣術を始めたんだ。それが男という生き物だ。
実際、コノミもウルススから守られて、こいつの事見直しただろ?」
「たしかに……。それまでは、ただの筋肉馬鹿だと思ってました。あの時、私を守ってくれたジンは……格好良かった……」
「自分で言ってて赤面するのはやめろ、俺まで照れてくる」
「へーーなるほどね。コノミもついに知ったのか?」
オットーは、自分の心臓の位置を親指で指し示す。
「え?!な、何を知ったって?!」
妙にコノミは慌てているが、何かの隠語か?
「コノミ、その気持、大事にしろ。誰しも経験するもんだ」
「う、うん。オットーさん、ジンに余計なこと言わないでね!」
「野暮はしないよ」
「なんだなんだ、俺は蚊帳の外か?」
二人は俺を見つめて、溜息をついた。
◆◆◆
宴という名の宴会が始まり、皆楽しそうにしている。焼かれたウルススは、少し獣臭く、硬い肉だったが肉の旨味が強く、大変美味だった。
この土地では、俺の年齢でも飲酒はできるので、俺とコノミは、二人でチビチビやっていた。その光景を見た他の住人は、「アラアラ」とか「ついにコノミにも春が来たか」とか言っているが、今は秋だ、これから寒くなるって言うのに……
あ、これも何かの隠語か?コノミに聞いてみたが、
「失敗した―――、相手はもっと選ぶべきだったよ。これは強敵だわ……」
意味の分からない答えしか返ってこなかった。
◆◆◆
翌朝、大人たちは、飲みすぎたとかで、今日はお休みらしい。俺の日課の素振りとランニングに休みはない。雨の日も風の日も、欠かさない。
日課が終わると、最近はほぼ毎日コノミが、タオルと水を用意して待っている。やたらと世話を焼きたがるのだ。命を救われた恩返しか?
「私がやりたくてやってるの!気にしないで!!」
これも乙女心というやつか?
◆◆◆
季節は冬を迎えた。
最近の俺の日課は、雪かきである。この島は、非常に多くの雪が降る。屋根の雪下ろしや、玄関前の雪かき、道の雪かきは俺の仕事だ。
最初は、老人のお宅の雪かきを頼まれてやっていたのだが、筋トレになるので、率先してやっている。とても感謝されるし、たまにお土産ももらえる。いい仕事だ。
「おーい!!ジーーン、お昼だよーーー」
相変わらず俺の世話を焼きたがるコノミだ、俺の時報係なんて言うとまた怒られるな。
屋根から飛び降りて、二人で自宅に飯を食いに帰る。
「おっ、また嫁さんが迎えに来たのか?お似合いだね〜」
二人で一緒に居ることが増えたので、よくからかわれる事が増えた。
「コノミ、悪いな変な風にからかわれて」
「へ?良いのよ。好きでやってんだから」
「なら良いが、別に熊から助けた時の恩返しとか大丈夫だからな?」
「あんたね……。はーー、まぁいいわ、あんたはそういう男だもんね。
私は、あんたと居るのが楽しいから一緒にいるの。恩とか関係ないの。分かった?」
「そっか、俺もお前と居るのは楽しいから良いけどさ、無理はしなくていいからな?」
「はいはい。分かった分かった」
こいつと一緒に居るのは、本当に楽しい。話もあうし、気取らなくてもいいし。人と距離をとりがちな俺に、グイグイ来てくれるのは助かる。
こんな平和な日常がずっと続くと思っていた。
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読んでいただきありがとうございます。
初めて書いた作品なので、ちょいちょいおかしな点があるかもしれませんが、温かい目で見ていただけると幸いです。
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