3:新しい生活と超回復の謎
そんなこんなで、俺は、ルナの診療所を手伝うことを決めた。気合い十分に働こうとしたのだが、ルナからすぐに止められた。
「まずは、体の調子を取り戻すのが、あなたの最初のお仕事です!」
ルナは天使の微笑みで、薬の調合室へと向かう。ルナは、本当に優しい子だ。
窓から外を眺める。風が心地よい。俺の居た世界と比べると、空気が澄んでいる気がする。やっぱり異世界なのだろうか? なら何故言葉が理解出来るのだろうか……。
また、この世界には、化学という物がなく、所謂、剣と魔法の世界だ。以前、ルナに魔法の事を尋ねたら、空気中に含まれる魔素に働きかけて、魔法を使うらしい。
俺にも使えるか教えてもらおうとしたが、「先ずは体を…」と言われ、却下された。
確かに、肉体的には問題ないのだが、筋力と体力の低下がひどい。冷凍睡眠中に、筋力の低下や床擦れなどが起きないように、体内にナノマシンを注入したらしいのだが、何年も眠ってる間にナノマシンは停止してしまったのだろうか……。
ぼんやりと考え事をしていると、次第に強烈な睡魔に襲われてきた…。
やはり体力落ちてるんだな。もっと体力つけないと、いつまで経ってもルナの仕事を手伝えないな……。
いつの間にか、深い眠りに落ちていたようだ。ベッドから起きあがると、全身に激痛が走った。
この痛み……これは、子供の頃味わった成長痛と、まるで筋力トレーニングの後の強烈な筋肉痛が混ざったような感じだ。
生まれたての子鹿のような足取りで、窓の前まで歩いていくと、外はまだ明るかった。時計がないのは不便だ。この世界には時間が概念化された道具がないらしい。
しかし、この体の痛みは何なんだ。マッサージをするかのように、体の節々を触ってみると、妙な違和感を感じた。
がりがりだった俺の体に、細マッチョとでもいう感じの、無駄のない筋肉が付いていた……。
え……?
なんだ、この世界は。ルナの治癒魔法には、筋トレの効果もあるのか?
困惑しつつ、服を脱いで体の確認をしていたら……
「起きたんですねー?お昼ご飯にしま……ひゃっ!」
突然入ってきたルナに、体をガン見されてしまった。恥ずかしい……。
そんな俺の気持ちをよそに、ルナは真面目な顔で、俺の裸を品定めするように見つめてくる。
「そ、体は……どうしたんですか?」
「え、俺の体、なんか異常でもあるの?」
「今朝の響さんと、今の響さんは……体型が違うというか。病的な痩せ方をしていた体が、なんというか……ムキムキです。良い筋肉……」
ルナが、腕の筋肉や、割れた腹筋を、撫で回してくる。くすぐったい。
一通り俺の体をまさぐった後、自我を取り戻したルナは咳払いをする。
「御馳走様でした。……さて、響さん。何事ですか?この体の仕上がりは……」
「え……?ルナの治療の効果じゃないの?」
「肉体改造の魔法なんてありません! あったらダイエットなんてしてません!!」
ルナは、体型の維持に気を使っているようだ。彼女には全く必要なさそうなのに…。
「二度寝して起きたら、急に体に痛みがあってさ。身体を調べてみたら、こんなんなってました」
「羨ましい……」
ルナは拳を握りしめ、俺の体を睨みつける。居心地悪い……。
「ルナ、お腹空いたな。何か食べるものある?」
「はっ!響さん、お昼ご飯ですよ」
どうやら、お昼だったようだ。ルナにリビングに連れて行かれ、食事をとる。いつもの数倍食事をした。体がエネルギーを貪欲に欲していたのか?
「響さん、冷静になって貴方の状態を確認したのですが、さっきまで重度の栄養失調でした。恐らく、急激な肉体の変化で、栄養が足りて無かったのかもしれません。筋肉だけでなく、骨の密度も高くなってますね」
治療師すごいな。人間MRIみたいなもんか?
「異常はないの?」
「寧ろ、普通の人よりも健康体ですね」
心なしか体力も増えている気がする。二度寝前の目標が、一気に達成されてしまった。
なんで?
「ルナ、何でだと思う?」
「寧ろ……やり方を教えて欲しいです!」
しばらく、ルナに肉体改造の秘密を強請られたが、俺自身分からない物を教えられるはずもない。ルナは悲しい目をして、仕事にもどって行った。
早速俺は、診療所の周りをランニングしてみることにした。筋肉痛は途轍もない痛みではあったが、長年寝たきりだった俺は、走れることが楽しくて仕方がないのだ!
気が付いたら、夕飯時になっていた。かれこれ4、5時間走っていたようだ。
「大人しくしてなさいと言ったのに……」
ルナにジト目でお小言を言われたが、俺が健康になったことを自分のことのように喜んでくれた。調子に乗って、祝杯をあげようと提案したら……怒られた。
「調子に乗らないでください! まだ、病み上がりなんですから。数日は様子見です!」
翌日、魔法を使ってみたいと思い、ルナにご教授してもらった。
魔法は、自信の魔力と、自然界の魔素、そしてイメージだそうだ。
頭の中にイメージするために、詠唱とやらが存在し、人によっては詠唱は省略でき、頭のイメージを具現化できるらしい。
ただ、一定の法則を越えるイメージは、具現化できないそうで、出来る出来ないのラインは謎だそうだ。物理法則を越える物は、出来ないみたいな話なのだろうか?物理は分からんけど。
以前の俺は、本も持てない程の筋力だった為、正直知識不足は否めない。でも、何時も寝ながら空想を膨らませていたので、思い描く力は人一倍!かもしれない。
一日中、「ファイアー!」「ウォーター!!」「サンダー!!!」定番の魔法を叫んで見たが、うんともすんとも何も起こらない。
一度、ルナに詠唱を教えてもらい、試してみたのだが、何も起こらなかった。
ルナ曰く、適性は存在するらしい。火や水と言った魔法の属性の適性は、勉強をしている内に、自然と分かるものらしい。
勉強不足なのかな……。まぁ、何時か使えるようになるといいな……。
そんなことを考えつつ、眠りについた。
翌朝……、何か、使えるようになっていた。直感的に、何かが使える感覚があるのだ。でも、何が使えるのは分からない。
寝たら願いが叶うって…ちょっと、怖くなってきた。




