6:神の裁定と神勅の執行者アルトリアス
ヴェルナー伯爵の城には、私兵団が解散した後も、ローゼン騎士団長から密命を受けていた一人の騎士が張り付いていた。名をライルという。
ライルは、かつてアルトリアス元伯爵の部下であり、彼の公正さと騎士道を心から尊敬していた。暴動に乗じてヴェルナーがノヴァーレに攻め入るという不穏な動きを察知し、極秘裏に城の様子を監視していたのだ。
伯爵の狂乱の笑い声と、傭兵たちの慌ただしい足音が止んだ後、ライルは警戒しつつ城内へ侵入した。目指すは、伯爵が最も籠もるという宝物庫。
宝物庫の扉は開け放たれていた。ライルが目にした光景は、戦場の阿鼻叫喚よりも悍ましいものだった。
ヴェルナー伯爵は、裸で、かつて金銀財宝が積み上げられていたはずの土塊の山の中で這い回り、虚ろな眼差しでそれを掻き集めていた。
「ああ…美しい…これこそが永遠の…富…」
伯爵の醜い顔は、泥にまみれ笑みが混じり、ライルは思わず後ずさりした。ライルはすぐに通信用の魔導具を取り出し、遠隔地にいるアルトリアスへ報告を入れた。
「アルトリアス様!伯爵が…正気を失っています!宝物は全て…砂や、土塊に変わっています!」
報告を受けたアルトリアスは、驚愕を隠せなかった。しかし、ついに長年の不正を、神が裁いてくださったのだと安堵した。
アルトリアスは、ジルと共に御光ノ命の統治を補佐する立場となっており、ヴェルナー伯爵の不正の証拠――食料の裏取引や武器密売の記録――を入手していた。
「ライル、動くな。私も今から向かう。」
◆◆◆
ヴェルナー伯爵の城に到着したアルトリアスは、ライルと共に宝物庫へ入った。
「ヴェルナー伯爵、哀れなものだな…。」
砂と土塊を抱きしめるヴェルナーは、アルトリアスの声に気づかない。アルトリアスは、あれほど忌み嫌い、憎みすらしたヴェルナーに対し、哀れみすら感じていた。
「狂っているな…」
ライルが顔をしかめる中、アルトリアスはヴェルナーが肌身離さず持っていたはずの私的な裏帳簿を、ヴェルナー自ら脱ぎ捨てた服の中から発見した。
そこに記された食料の横流し、武器商との裏金取引の記録は、予想を遙かに越えていた。
「これこそが、多くの民の命と引き換えに得た、汚れた証拠だ!」
アルトリアスが怒りを込めて帳簿を手に、ヴェルナーを断罪したその瞬間、彼の頭の中に、威厳に満ちた神の声が響いた。その声は、ヴェルナーとライル含め、全ての国民にも、その声ははっきりと聞こえた。
『我は、御光ノ命である。
今長年、国と民達から不正に金品をかすめ取っていたヴェルナー伯爵に、神罰を下した。
ヴェルナーが蓄えた金は、ヴィンデミア王国の国庫をも越える程であった。やつは、民ばかりでなく、王までも謀ったのだ。
よってヴェルナー・フォン・ファウスト伯爵は、その不正により、ヴィンデミア王国の爵位を永久に剥奪され、全財産を以て民の復興に充てるものとする。これが、神である我の裁定である。』
ヴェルナー伯爵は、その声に反応し、土塊を掴んだまま、きょろきょろと声の主を不気味に探している。
『国王亡き今、この国の安寧と秩序を定めるのは、我の神勅である。そして、今ヴェルナーの不正を暴いた、元貴族のアルトリアス・クレインは、不正に染まらぬ公正な魂を持つがゆえに、この者を神勅の執行者とする。』
神託が途絶えると、アルトリアスは膝をつき、深く頭を垂れた。彼は、神の代理人として、この重すぎる責務を背負うことを決意した。
静かに立ち上がったアルトリアスは、伯爵の前に立ち、宝物庫の惨状と裏帳簿を前にして、静かに、しかし威厳をもって宣言した。
「聞け!神勅の執行者として、ここに宣告する。
ヴェルナー・フォン・ファウスト伯爵は、本日をもってその爵位を永久に剥奪される。その全ての資財は、神勅により、ヴィンデミア王国復興のための共有財産として没収する。
伯爵は、今後、その罪を償うため、隔離された場所にて生涯を送るものとする。」
ライルは、、嘗て見た貴族時代のアルトリアスの面影を垣間見て、思わず跪いた。
そして、ヴェルナー伯爵は、ただ虚ろな目で土塊を見つめながら、相変わらず意味もなく笑っているだけだった。
その後やってきた騎士団によって、ヴェルナーは無き喚きながら引きずられていった。
ヴェルナーが居なくなった後、宝物庫に山のように重なった土塊が、再び揺れたかと思うと、みるみる内に、元の金銀財宝に戻ってた。
「これが神の奇跡…」
ライルはつぶやき。神の力に畏怖した。」
こうして、アルトリアスは、神の絶対的な後ろ盾を得た事を、国中に知らしめ、名実ともにヴィンデミアの新しい秩序を築くための第一歩を踏み出したのだった。
◆◆◆
「これでヴィンデミアは、新しいスタートを切れそうだな。」
『見事な神っぷりでしたね。』
「これで、国民にアルトリアスが受け入れられると良いのだが…、もう一発ルナに加勢を頼むか。」
◆◆◆
神の代理人としてヴェルナーの城に入ったアルトリアスは、城の衛兵を集め、秩序維持の指示を出すが、領民たちの不安は根深い。
その日の正午。空は晴れ渡っていたが、城の中央広場に集められた領民たちの頭上に、突如として虹色の光が降り注いだ。
『ヴィンデミアの愛しき民よ。安寧を望む者たちよ。』
優美で、深い慈愛に満ちた声が、人々の心の奥底に直接響き渡る。ナノマシンによる大天使イリスのホログラムが、光の粒子で形作られ、空中に浮かび上がった。その光景は、人々が抱いていた神の使いのイメージそのものだった。
「イリス様だ!」
「ああ、なんて美しい光…」
恐怖に怯えていた民衆は、その圧倒的な慈愛の光景に、静かに涙を流し、跪いた。
『旧き時代の腐敗と、そなたたちを飢えさせた闇は、御光ノ命様の裁きにより、既に滅び去りました。
しかし、神の御旨を地上で実現するためには、人として公正な心を持つ指導者が必要です。』
イリスは、城の前に立つアルトリアスを、指で示した。
『この者こそ、アルトリアス・クレイン。旧王の不正なる命令に、ただ一人異を唱え、全ての地位と名誉を捨てて、そなたたちの公正を願った、真の騎士です。
御光ノ命様は、彼の魂の清らかさを見定め、神勅の執行者に任命しました。
ヴェルナー伯爵の剥奪された全ての財産は、彼の指揮のもと、国とこの領地の復興に使われます。』
アルトリアスは、緊張しつつも、まっすぐと民衆を見つめた。その顔には、爵位を失うことになっても曲げなかった公正な騎士の誇りが満ちていた。
『彼は、そなたたちのための公正な管理者です。恐れることはありません。彼に従い、新たな秩序を築きなさい。
アストリアス、民のことを宜しくお願いします。』
イリスのホログラムが消えると、広場は静寂に包まれた。そして、誰からともなく、歓声が湧き上がった。
「アルトリアス様だ!あの時、俺たちを庇ってくれた…」
「真の騎士様が、俺たちの領主になってくれる!」
アルトリアスの公正な人柄を知っていた者たちだけでなく、イリスという愛される神の代理人からの直接の任命を受けたことで、領民たちの不安は一掃された。彼らは、アルトリアスを恐怖の神罰の執行者ではなく、愛の神の代理人として、心から受け入れたのだった。
◆◆◆
「ふぅ…これで、アルトリアスもスムーズに統治に入れるでしょう。」
「さすがだな、ルナ。完璧な神輿の担ぎ方だ。
だがあれだな、ルナの演出の方が派手で、なんか神々しさもあるよな?」
『ある程度、定着してしまったイメージがありますしね。あと、姿を現していることも、大きいですね。』
「俺も顔出ししようか?」
『あ、大丈夫です。』
もう、イメージアップは諦めようかな…、俺はムチ、飴はルナでバランス取れてるしな…
==================
読んで頂きありがとうございます。
悪い奴を地に落とすのが、一番書いてて楽しいと思うのは、人としてどうなんだろうと思ったりもしますが、そんなもんですよね?!
私も、徳を摘むために、献血をしたりしてますが、献血するとポイントが溜まって、ポイントに応じて記念品が貰えるんです。でまぁ、暫くぶりに献血したら、一年以上ご無沙汰だったみたいで、ポイント失効してました…
哀れに思った方は、★ください。




