表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コールドスリープから目覚めたら、剣と魔法が「未来の常識」でした  作者: たくみさん
第一章 目覚め

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/50

2:夢か現実か。少女と歩き出す未来

「自己紹介が遅くなりました。俺の名前は、ひびきと言います。助けてもらってありがとうございます。

ところで…俺が病気なんて、ルナさんに教えたっけ?」


 思わず口から出た言葉に、ルナは額の琥珀の宝石を揺らしながら、にっこりと微笑んだ。


「治療師は、その人が抱えている病を、るだけで理解できます。貴方の病は、徐々に体の筋肉が失われていく進行性のもの。でも安心してください、既に治療は完了しています」


 は……?


 ハイブリッド型筋ジストロフィー。それは、筋肉が徐々に破壊されるだけでなく、神経細胞の伝達異常も併発する、現代医学の限界だった。

冷凍催眠に入る直前、俺は既に感覚神経と運動神経が麻痺し、呼吸器系の補助なしでは命すら危うい状態だったのだ。


 それが、完治した?理解が追いつかない。

(夢?いや、異世界転生か。なるほど、だから聖導暦で、魔法使いがいて、病気が治るのか……)


 自分の置かれた状況を、響は《《異世界転生モノのテンプレート》》に無理やり当てはめようとしていた。


「窓の景色が見たい……」

「お手伝いしますね」


 ルナの補助を受け、俺はゆっくりとベッドから身を起こし、地に足をつける。自分の体を重たく感じると共に、心地よい床の冷たさを感じた。

 いや、待て。寝たきりの状態だったのだから、筋肉は極限まで衰えているはずだ。自力で立ち上がるなど、絶対に不可能――


「俺、立ち上がれないくらい、衰弱していたはずなんですが……」

 ルナは当然のように答えた。

「溶けて失われた筋肉は、全て《《治癒魔法で修復》》いたしました。感覚神経も完璧です」


 ルナの言葉に、俺は信じられない思いで、自身の身体を確かめた。骨と皮ばかりだったはずの腕に、微かな弾力のある筋肉の感触がある。そして何より、麻痺して何も感じなかったはずの指先に、シーツの粗い布地が触れる感覚が鮮明に戻ってきている。

 驚きは、すぐに感動へと変わった。


 「ああ……生きている」


 全身の細胞が、何十年の停滞から解放されたかのように、一斉に活動を再開しているのを感じる。それは、数年ぶりに激しい運動をした後のような、心地よい疲労と、満ち足りた生命力だった。


「そうか……俺、治ったんだ……」


 こみ上げる感情を止められず、自然と目から涙が溢れた。数十年、**『死』**という絶望的なゴールしか見えなかった人生から、一瞬の魔法によって解放されたのだ。


「ルナさん……本当にありがとう。貴方は、命の恩人です。このご恩をどうやってお返しすればいいでしょう……」

「治療師が、病を患っている方を助けるのは当たり前のこと。患者さんの感謝の言葉と、笑顔を見るために、私は治療師をしていますから」


 その純粋な優しさは、まるで絵本から飛び出してきた天使のようだ。俺は、自分自身の孤独や絶望が、この女性の光のような優しさによって断ち切られたのを感じた。

 無意識のうちに膝をつき、ルナの手を握り頭を下げていた。


「響さん……やめてください。私は、貴方の笑顔が見たいです。ほら、立って立って!」


 ルナの手を取り、窓まで歩く。足取りはまだ覚束おぼつかないが、一歩ずつ前に進める。

 ルナが窓を開けると、心地よい風と、木と土の匂いがさらに強く感じられた。そして、その風に乗って、窓外の景色が俺の目に飛び込んできた。

 目の前には、石と漆喰しっくいでできた簡素な家々が並ぶ、小さな村落が広がっている。周囲は木々に囲まれ、まるで遥か中世のヨーロッパに転生したかのようだ。

 しかし、視線を遠くへやった瞬間、違和感が走った。

 遠くの丘の上、鬱蒼とした森を突き破って、巨大な黒い石柱が、不自然なほど垂直にそびえ立っている。それは、自然の岩が風化したような有機的な形状でありながら、同時に人為的な巨大構造物のようにも見えた。

 (なんだ、あれは?異世界の巨大な魔王城の塔か?いや、それにしては曲線が不気味すぎる……)


 大自然の中に存在する、不気味な人工の気配。そのちぐはぐな光景を見て、響の心臓は再び動揺しなかった。

 (やっぱり、これは夢か、超凝ったVRゲームだ。そうでなければ、こんな矛盾した景色はありえない)

 難病は治ったのに、俺はまだどこか**「壊れている」のではないかという、新たな恐怖が胸に去来した。この「ゲーム感覚」**が、響の心を世界から切り離し、冷静な分析へと向かわせるのだ。


「ルナさん……俺は、治療代を払う余裕がありません。今、無一文です。頼れる身内もいません。なんなら此処が、何処なのかも分かりません。何故、自分が此処に居るのかも分かりません。これから、どう生活していくかも分かりません。あなたの御恩を、どうやって返せばいいのでしょうか……」


 ルナは、俺の隣で窓から外を眺め、一呼吸おいてから、満面の笑みで俺の顔を見た。


「それじゃあ、こうしましょう!今から私のことは、ルナと呼んでください。そして治療代は、私の助手としてこの診療所で働きながら稼いでください。衣食住も全てお付けします!」


「……え?」


「どうでしょうか?私、一人暮らしで、とっても忙しいのです!響さんが手伝ってくれると、私も助かります。それに……一人だと寂しいですから!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ