6:谷底にて
翌日、国境付近の谷までやってきた。ルナからポーションの餞別をもらい、準備は整えてきた。長居をするつもりはない。速攻で終わらせよう。
「それじゃ…いくぞ?足出すぞ?」
『私を信じて、さっさと下りてください。』
奈落へ足を踏み出せば、勝手にナノマシンが足を支えてくれる。そうは言うけど、やっぱり怖い…
深呼吸し、一気に足を踏み込む…見えないけれど、確かに存在するふわふわした感触。
『はいはい、何時までもひびってないで、早くおりてください。数時間かかりますからね。』
見えない階段を一歩ずつ下りていくのは、怖いし、地味に気疲れする。何処に足を踏み入れても、必ず受け止めてくれるらしいのだが…よく目を凝らすと、靄のような物が見える、それが足場となっているナノマシンらしい。
一段一段下りていくごとに、空からの明かりが失われていき、徐々に靄が強くなる。吸いすぎると人体には、悪影響らしいので、マスクは着用しているが、念のため、ガスマスクは用意してきた。
何時間歩いただろう…。手元には、聖水が入った瓶をランタン代わりに、更に歩みを進める。しかし、靄の濃度が濃すぎて、光が拡散してしまい、視界はゼロだ。
「もう着く?」
『まだ、歩き始めたばかりでは?』
「休憩できるかな?」
『適当にしゃがみ込んでもらえれば、下に地面を作りますよ。』
そう言われたので、何もない空間に座り込む。視界が悪いため、案外高さ的な恐怖心は無くなった。
とにかく、鳥の鳴く声すらしない、闇の中なので、時間の感覚も無くなり、まっすぐ歩いている感覚もない。ただ永遠に降りている感覚だけだ。
ナビ役のナノが居なければ、明後日の方向に進んでいるだろうし、頭がおかしくなりそうだ。
非常食を口に運びながら、ナノに問いかけてみた。
「谷底までついたら、底から下に200メートルだだっけ?どうやって掘るんだ?」
『既に現在進行形で掘り進めてますよ。』
「ナノマシンで?」
『そうです。』
「ナノマシン万能すぎだな」
『そうでもないですよ?足場作りと、地面を掘ってるナノマシンは、環境維持型ナノマシンなので、得意分野なんですよ。』
「ナノが得意なのは何?」
『体調の維持と、他のナノマシンへの干渉ですかね?ナノマシンも蜂の様に、働き蜂と女王の関係が存在します。私は女王様なんです。
それに響の体内のナノマシンは、ほかのナノマシンよりも進化してますからね。空間に漂うナノマシンを第一世代とすると、響のは第四世代です。
自然と、第一世代は、第四世代に頼ってくるのです。
ああ、あと軽妙なトークも得意ですよね。』
「ナノマシンにも色々あるんだな、さて行くかっ!」
『放置プレーというやつですか?』
しばらく進んでは休みを繰り返すと、いつの間にか数時間経っていたみたいで、ようやく地面にたどり着いた。
『響の今向いてる方向に、1時間くらい歩いてください。』
相変わらず何も見えないし、何も聞こえないが、ちゃんとした地面があるのは、安心感が違うな。
…帰りに今度は登るという現実は、今は考えないようにする。何も見えない空を仰ぎ見て、溜息をついた。
『地面はほぼ掘り抜いてあります。少し離れて見ていてください。』
そう言われ、少し離れると、突然地震のような地面の揺れを感じた。
地面が何度か隆起したかと思うと、そこにはしっかりとした階段ができていた。
『さあ、行きましょう。間もなくです。』
暫く階段を下りると、巨大な人工のドーム型空間だった。
「…これが、メインサーバーの施設か」
響は思わず息を呑んだ。
目の前には、巨大な幾何学的な構造物が岩盤に埋め込まれていた。この模様は、遺跡の外壁でも見た覚えがある。
施設全体は、静寂に包まれていたが、完全に停止しているわけではない。
構造物の表面を覆う無数の配線のような部分からは、時折、ナノマシンの塊が、火花のように青白い光を放電していた。その光は、この施設がまだ稼働していることを示していた。
『これが、メインサーバの物理的なコアです。周囲の岩盤は超硬度ナノ複合材で強化されており、現在も最低限の状態維持機能と、ナノマシンの制御機能は維持されています。』
「思ったより静かだな。エネルギーは何処から供給してるんだ?それに、外敵からの迎撃システムとかないのか?」
『エネルギー源は、調査中です。セキュリティーに関しては、この高濃度魔素領域に入れば、敵体内のナノマシンが、誤作動を起こして即死します。
自動迎撃システムはありましたが、朽ちていますね。無反応です。』
「なにはともあれ、何事もなくたどり着けて良かったよ。」
『さあ、いよいよ本番ですよ。』
「じゃあ、始めるか…」
魔法の詠唱を記録したメモを開き、一回深呼吸をして、詠唱を始めた。
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読んでいただきありがとうございます。
初めて書いた作品なので、ちょいちょいおかしな点があるかもしれませんが、温かい目で見ていただけると幸いです。
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