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9話「最初の試練」

 街での騒動から逃れ、ファンたちは再びダンジョンへと戻ってきた。今度は第四層への挑戦だった。これまでとは明らかに雰囲気が違っている。


「なんだか空気が重いな」


 ファンが呟いた。第四層に入った瞬間から、今までにない緊張感が漂っていた。


「ここからが本当のダンジョンだ」


 グロウが険しい表情で言った。


「今までは言わば入門編。第四層からは本格的な試練が始まる」


 石造りの通路は今までより高く、幅も広い。しかし、なぜか薄暗く、松明の光も届きにくい。壁には古代文字のような彫刻が刻まれている。


「この文字、読めますか?」


 シルフィアが壁の彫刻を指差した。


「古代語だな。『試練を受けし者、真の力を示せ』とある」


 ドゥーガンが読み上げた。


「真の力?」


 ファンが首をかしげた。


「おそらく、これまでのように魅了するだけでは通用しない敵が現れるということだろう」


 グロウが警戒を強めた。


「ガウ...」(なんか怖い...)


 ガル(コボルト)が不安そうに鳴いた。


「グオ...」(嫌な予感がする...)


 グラグ(オーク)も同じような反応を示していた。


 通路を進んでいくと、今まで聞いたことのない音が響いてきた。重く、低い、まるで大地が唸るような音だった。


「ゴゴゴゴ...」


「なんだ、この音は?」


 ファンが不安そうに仲間たちを見回した。


「分からん。でも、ただならぬ相手がいることは確かだ」


 グロウが武器に手をかけた。


「ぷるぷる...」


 ブルも普段と違って震えている。スライムでさえ恐れるほどの存在が近くにいるのだろう。


「みんな、俺の後ろにいて」


 ファンが前に出ようとしたが、グロウが止めた。


「だめだ、星牙。今度ばかりは俺たちが前に出る」


「でも...」


「お前の可愛さが通用しない相手かもしれん。危険すぎる」


 その時、前方から巨大な影が現れた。


 現れたのは高さ3メートルを超える石の巨人だった。全身が岩石でできており、目は赤い光を放っている。ストーンゴーレムという古代の魔法生物だった。


「ゴオオオオ...」


 ゴーレムが低く唸りながら近づいてくる。その重い足音が通路に響いた。


「ストーンゴーレムか!厄介だぞ!」


 ドゥーガンが叫んだ。


「物理攻撃はあまり効かない。魔法攻撃の方が有効だが...」


 シルフィアが弓を構えながら言った。


「俺がやってみる」


 ファンが前に出ようとした。


「だめだ、星牙!」


 グロウが必死に止めた。


「こんにちは〜♪」


 しかし、ファンは構わず挨拶した。いつものように愛らしい声で話しかけた。


「...」


 ゴーレムは立ち止まった。しかし、今までとは反応が違う。魅了されているようには見えない。


「君の名前は?」


 ファンがさらに話しかけたが、ゴーレムは無言だった。そして、突然巨大な拳を振り上げた。


「危ない!」


 グロウがファンを抱き横に飛んだ。ゴーレムの拳が床に激突し、石が砕け散った。


「ゴオオ!」


 ゴーレムが再び攻撃してくる。


「星牙の魅力が効いてない!」


 シルフィアが驚愕していた。


「当然だ!ゴーレムには心がない!魔法で動いてるだけの人形なんだ!」


 ドゥーガンが説明した。


「心がない?」


 ファンは困惑した。今まで出会った存在には、すべて心があった。だからこそ、理解し合えたのだ。


「らーらーら〜♪」


 ファンが歌ってみたが、ゴーレムは全く反応しない。それどころか、より激しく攻撃してくる。


「くそ!俺が相手になる!」


 グロウが前に出て、ゴーレムの攻撃を受け止めた。しかし、その衝撃で大きく後退させられる。


「グロウ!」


 ファンが心配そうに叫んだ。


「私も行きます!」


 シルフィアが魔法の矢を放った。光る矢がゴーレムに命中し、小さな欠けを作る。


「効いてるぞ!」


「俺も!」


 ドゥーガンが投げハンマーを投擲した。しかし、ゴーレムの分厚い石の装甲には大きなダメージを与えられない。


「ガウガウ!」(頑張る!)


「グオオ!」(負けない!)


 ガルとグラグも勇敢に立ち向かったが、体格差が大きすぎる。


「みんな...」


 ファンは自分の無力さを感じていた。今まで仲間を守ってくれていたのに、この時ばかりは何もできない。


「ゴオオオ!」


 ゴーレムの攻撃がシルフィアに向かった。


「きゃあ!」


 シルフィアが避けきれない。その瞬間、ファンの中で何かが爆発した。


「シルフィアに手を出すな!」


 ファンが叫んだ瞬間、今までにない力が湧き上がってきた。大切な仲間を傷つけられそうになった怒りが、新しい力を呼び覚ましたのだ。


『緊急事態発生:仲間保護モード起動』


『新スキル獲得:【守護の咆哮】』


「きゅおおおおん!」


 ファンの鳴き声が変化した。可愛らしい鳴き声ではなく、力強い咆哮だった。その音波がゴーレムを襲った。


「ゴ...ゴオ?」


 ゴーレムの動きが止まった。


「すげぇ...星牙の咆哮でゴーレムが怯んでる...」


 グロウが驚愛していた。


「今だ!みんなで攻撃!」


 ファンの指示で、全員が一斉攻撃を仕掛けた。


「オラアアア!」


 グロウが渾身の一撃を放った。


「えい!」


 シルフィアが連続で魔法の矢を放つ。


「くらえ!」


 ドゥーガンが特製の爆発ハンマーを投げつけた。


「ガウガウ!」


「グオオ!」


「キィー!」


 魔物たちも総攻撃を仕掛けた。


「ぷるぷるぷる!」


 ブルは体を大きくして、ゴーレムの足元に絡みついた。


 ファンの咆哮で動きを封じられたゴーレムは、集中攻撃に耐えきれなかった。


「ゴオオオオ...」


 ゴーレムが崩れ落ちた。


『戦闘勝利!』


『大幅経験値獲得』


『レベルアップ!レベル2→レベル5』


『スキル【魅惑の可愛さ】がレベルアップ』


『スキル【守護の咆哮】習得完了』


「やったな、星牙!」


 グロウが嬉しそうに言った。


「お前にも戦闘能力があったんだな」


「俺も驚いた...」


 ファンは自分の変化に戸惑っていた。


「でも、シルフィアを守りたいって気持ちが強すぎて、気がついたら力が出てた」


「ありがとう、ファンちゃん」


 シルフィアが感動していた。


「私を守ってくれるなんて...」


「当たり前だよ。みんな大切な仲間だから」


 ファンの言葉に、仲間たちは温かい気持ちになった。


「でも、今回は危なかったな」


 ドゥーガンが振り返った。


「ああ、星牙の魅力が通用しない相手もいるということだ」


 グロウも同意した。


「これからは、もっと慎重に行かないとな」


「でも、俺たちなら大丈夫だ」


 ファンが力強く言った。


「みんながいれば、どんな敵でも倒せる」


「そうだな。俺たちはチームだ」


 グロウが頷いた。


「星牙チーム、最強だぞ!」


「ガウガウ!」(最強だ!)


「グオオ!」(負けない!)


「キィー!」(頑張る!)


「ぷるぷる〜♪」


 みんなが意気込んでいた。


「でも、無理はだめよ、ファンちゃん」


 シルフィアが心配そうに言った。


「さっきの咆哮、すごく体に負担がかかってるみたい」


 確かに、ファンは少し疲れていた。新しい力を使ったせいで、いつもより消耗している。


「分かってる。でも、みんなを守るためなら」


「だめ!」


 シルフィアが強く言った。


「あなたが倒れたら、私たちが一番悲しいの。無茶はしないで」


「シルフィア...」


「俺たちも同じ気持ちだ」


 グロウも同意した。


「お前を守るのが俺たちの役目なんだから」


「みんな...ありがとう」


 ファンは感動していた。


「俺、本当にいい仲間に恵まれたよ」


「当たり前だ。俺たちは家族だからな」


 ドゥーガンが笑顔で言った。


「家族か...いいね」


 ファンも笑顔になった。健太郎という大切な飼い主がいて、そしてこんな素晴らしい仲間たちもいる。自分は本当に幸せだと実感した。


「よし、次に行こう」


「ああ、でも今日はここまでにしないか?」


 グロウが提案した。


「星牙も疲れてるし、俺たちも結構消耗した」


「そうですね。今日は街に戻って休みましょう」


 シルフィアも同意した。


「分かった。でも、街に戻るとまた騒がれるんだろうな...」


 ファンは苦笑いした。


「まあ、それも星牙の人気の証拠だ」


 グロウが笑った。


「はあ...有名になるのも大変だな」


 ファンは溜息をついた。でも、嫌な気持ちではなかった。みんなが自分を応援してくれるのは嬉しいことだ。


「ところでファンちゃん、疲れているようだから抱っこして、街までつれていってあげる。」


 鼻息のあらいシルフィアに抱っこされてしまった。


「このモフモフ感!柔らかさ!至福〜」


 頬ずりをし体毛に顔を埋めて匂いを嗅ぐ、スーハースーハー。


「ファンちゃんの甘い匂い〜最高!」


 周りの皆んなはドン引き!


「え、えっとまあ健太郎にも、俺がこんなに愛されてるって伝えたいな」


 ファンは空を見上げた。愛する飼い主への想いは、どんな時も変わらなかった。


 一行は第四層を後にして、街へと戻っていった。今日の戦闘で、ファンは新しい力を手に入れた。そして、仲間たちとの絆もより深くなった。


 小さな犬の冒険は、ますます困難になっていくが、同時により多くの仲間と愛に支えられていくのだった。

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