7話「可愛さ無双」
第三層をさらに奥へ進むにつれ、光苔の光がより一層美しく輝いていた。ファンの星光の鎧も環境に呼応するように、より神々しく光っている。
「この辺りから魔物の数が増えてくるはずだ」
グロウが警戒しながら進んでいた。
「でも、なんだか静かですね」
シルフィアが弓に手をかけながら呟いた。
「本当だな。妙に静か過ぎる」
ドゥーガンも辺りを見回していた。
その時、前方の茂みがガサガサと揺れた。
「来るぞ!」
グロウが身構えた瞬間、小さな緑色の人型生物が飛び出してきた。
「コボルトだ!」
ドゥーガンが叫んだ。身長1メートルほどの醜い顔をした魔物だった。手には粗末な棍棒を持っている。
「ガウガウ!」
コボルトが威嚇するように吠えながら向かってきた。
「よし、俺がやる」
グロウが前に出ようとしたが、ファンが止めた。
「待って、グロウ。俺にやらせて」
「無茶だ、星牙!」
「大丈夫、新しい能力を試してみたいんだ」
ファンはコボルトの前に出ると、首をかしげて愛らしい表情を作った。
「きゅーん♪ こんにちは〜」
天使の歌声が響いた瞬間、コボルトの動きが止まった。
「ガウ...?」
コボルトは困惑したように首をかしげた。さっきまでの敵意が嘘のように消えている。
「君も一人なの?寂しくない?」
ファンがさらに優しい声で話しかけると、コボルトの目に涙が浮かんだ。
「ガウ...ガウガウ...」
(寂しい...いつも一人で...)
ファンには、なぜかコボルトの気持ちが分かった。
「一人は寂しいよね。俺たちと一緒にいる?」
「ガウ!?」
コボルトが驚いたような声を上げた。
「らーらーら〜♪ みんなで一緒なら楽しいよ〜♪」
ファンが歌うと、光苔がさらに美しく光り、幻想的な雰囲気になった。
「ガウガウ〜♪」
コボルトも歌に合わせて嬉しそうに鳴き始めた。そして、棍棒を投げ捨てると、ファンの前にちょこんと座り込んだ。
『戦闘勝利。経験値を獲得しました』
『仲間になりました:ガル(コボルト・レベル8)』
「また仲間が増えた...」
シルフィアが呆然としていた。
「これが星牙の力だ」
グロウは感慨深そうに頷いた。
「ガルか。よろしくな」
ファンがコボルトに話しかけると、ガルは嬉しそうに尻尾を振った。
「ガウガウ!」
(よろしくお願いします!)
その時、また別の方向から足音が聞こえてきた。今度は重い足音だ。
「今度は何だ?」
振り返ると、大柄な緑色の豚の顔をした人型生物が現れた。オークだった。身長は2メートルを超え、筋骨隆々の体に大きな斧を持っている。
「オークか。こいつはコボルトより手強いぞ」
グロウが警戒した。
「グオオオ!」
オークが雄叫びを上げながら突進してきた。
「危ない!」
シルフィアが弓を構えようとしたが、またもやファンが前に出た。
「待って!」
「星牙!」
「こんにちは〜♪」
ファンが濡れた瞳で上目遣いし見上げながら挨拶した。オークの巨体と比べると、ファンは本当に小さかった。
「グオ...?」
オークの動きが止まった。この小さくて可愛い生き物に困惑している。ファンの上目遣いは爆発的な魅力がある。
「君の名前は何て言うの?」
ファンの天使の歌声に、オークの表情が柔らかくなった。
「グオ...グオグオ...」
(俺は...俺はグラグ...)
「グラグか。いい名前だね」
「グオオ〜♪」
グラグが嬉しそうに鳴いた。さっきまでの凶暴さはどこへやら、まるで大きな子犬のようだった。
「らーらーら〜♪ みんな友達〜♪」
ファンの歌声に、グラグも手拍子を始めた。巨大な手で不器用に叩く手拍子は、なんとも微笑ましかった。
「グオグオ〜♪」
『戦闘勝利。経験値を獲得しました』
『仲間になりました:グラグ(オーク・レベル12)』
「また...」
ドゥーガンが苦笑いした。
「すげぇな、星牙。どんな魔物でも魅了してしまう」
気がつくと、ファンの周りには様々な魔物が集まっていた。グロウ(オーガ)、ブル(スライム)、ガル(コボルト)、グラグ(オーク)。そして妖精側にはドゥーガン(ドワーフ)とシルフィア(エルフ)。
「すごいパーティになったな」
ファンが嬉しそうに見回した。
「ガウガウ♪」(楽しいです!)
「グオグオ♪」(嬉しいです!)
「ぷるぷる〜♪」
魔物たちも大喜びだった。
「こんな光景、見たことないぞ」
ドゥーガンが感動していた。
「様々な種族が一緒にいるなんて...まるで理想郷みたい」
シルフィアも目を輝かせていた。
「これが星牙の力だ。種族を超えて心を通わせる力」
グロウが誇らしげに言った。
その時、上空から羽ばたく音が聞こえてきた。見上げると、コウモリのような翼を持つ人型の生物が飛んでいる。
「ガーゴイルだ!」
シルフィアが警戒した。
ガーゴイルは石のような灰色の肌をしており、鋭い爪と牙を持っている。空中から急降下してきた。
「キィー!」
「今度は空からか」
グロウが身構えたが、ファンはいつものように前に出た。
「こんにちは〜♪ 空から来たの?」
「キィ...?」
ガーゴイルが困惑しながら着地した。
「一緒に歌わない?」
ファンが歌い始めると、ガーゴイルの表情が穏やかになった。
「キィーキィー♪」
(歌...好き...)
「らーらーら〜♪」
「キィーキィー♪」
美しいデュエットが響いた。ガーゴイルの鳴き声も、ファンと合わせると意外と綺麗だった。
『仲間になりました:キィ(ガーゴイル・レベル10)』
「もう呆れるな」
ドゥーガンが笑った。
「みんな〜、集まって〜♪」
ファンが呼びかけると、すべての仲間が輪になって集まった。
「らーらーら〜♪ みんなで歌おう〜♪」
「グオグオ〜♪」
「ガウガウ〜♪」
「キィーキィー♪」
「ぷるぷる〜♪」
魔物たちの大合唱が始まった。それぞれの鳴き声が重なって、不思議な和音を奏でている。
「すごい...」
シルフィアが感動していた。
「魔物同士が争うことなく、こんなに仲良く...」
「これが星牙の本当の力だな」
グロウが感慨深げに言った。
「戦わずして心を通わせる。これこそ真の強さだ」
『スキル【魅惑の可愛さ】がレベルアップしました』
『新能力獲得:【種族和合】』
『効果:異なる種族間の理解を深める』
「種族和合?」
ファンが首をかしげた。
「お前の影響で、魔物同士が仲良くなってるってことだろうな」
グロウが説明した。
確かに、普段なら敵対するはずのオークとコボルトが仲良く話している。ガーゴイルとスライムも楽しそうに遊んでいる。
「すごいですね、ファンちゃん」
シルフィアが感心した。
「みんなが仲良くしてくれるのは嬉しいな」
ファンは純粋に喜んでいた。
「でも、これだけ仲間が増えると移動が大変だな」
ドゥーガンが現実的なことを言った。
「確かに...でも、みんなと一緒がいいよ」
ファンは仲間たちを見回した。それぞれが幸せそうな表情をしている。
その時、遠くから人の声が聞こえてきた。
「おい、本当にこの辺りで魔物が歌ってるって話か?」
「ああ、上の階で聞いたんだ。小さな犬が魔物を手なずけてるって」
冒険者たちの声だった。
「どうする?隠れるか?」
ドゥーガンが心配そうに言った。
「いや、別に悪いことしてないだろ」
ファンは堂々としていた。
やがて、3人の冒険者が現れた。人間の男性2人と、女性1人のパーティだった。
「あ、あれは...」
彼らがファンと魔物たちの輪を見つけた瞬間、固まった。
「本当に...魔物が歌ってる...」
「しかも仲良く輪になって...」
「あの小さいのが噂の...」
冒険者たちは呆然と見つめていた。
「こんにちは〜♪」
ファンが挨拶すると、冒険者たちはさらに驚いた。
「話した!犬が話した!」
「しかもなんて可愛い声...」
女性冒険者が目をハートにしていた。
「君たちも一緒に歌わない?」
「え?俺たちも?」
「もちろん!みんなで歌えば楽しいよ〜♪」
ファンの誘いに、冒険者たちも次第に緊張が解けていった。
「らーらーら〜♪」
気がつくと、冒険者たちも一緒に歌っていた。人間と魔物が入り混じった不思議な合唱団の誕生だった。
「これは...すごいことになりそうだな」
グロウが呟いた。
「どういう意味だ?」
「この話が広まれば、もっと多くの人がお前に会いに来るだろうな」
「それは...いいことなのか?」
「分からん。でも、お前の力で世界が変わっていくかもしれんな」
ファンはまだ知らなかった。自分の可愛さと歌声が、やがて世界中に知れ渡ることになるとは。そして、それが大きな変化の始まりになることも。
「とりあえず、今はみんなと一緒にいられるのが幸せだよ」
ファンは純粋に喜んでいた。愛する健太郎への想いは変わらないが、この仲間たちとの時間も大切にしたかった。
光苔の光に照らされながら、異種族の大合唱は続いていく。小さな犬が紡ぐ奇跡の物語は、ますます大きなうねりとなっていくのだった。




