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6話「魅惑の声」

 第三層に足を踏み入れた瞬間、ファンたちは息を呑んだ。これまでの層とは全く雰囲気が違っていた。石造りの壁には青白い光を放つ苔が生え、まるで星空のような幻想的な光景が広がっている。


「わあ...きれいだな」


 ファンが目を輝かせた。星光の鎧の装飾が、周囲の光と共鳴してより美しく輝いている。


「第三層は『光苔の森』と呼ばれているんだ。魔法の力が濃い場所でな」


 グロウが説明した。


「魔法の力が濃いと何か影響があるのか?」


「ああ、普段使えない能力が使えるようになったりする。特にお前みたいな特殊なスキル持ちには影響が大きいかもしれんな」


 その時、ファンの体がほんのりと光り始めた。


『環境効果:魔力増幅フィールド』


『スキル【魅惑の可愛さ】にボーナス効果付与』


『新能力解放:【天使の歌声】』


 システム音声が響いた。


「天使の歌声?」


 ファンが首をかしげた瞬間、自分の声が変化していることに気づいた。


「あれ?俺の声、なんか...」


 その声は今まで以上に愛らしく、聞く者の心を癒すような響きを持っていた。


「おお...これは...」


 グロウが感動に震えていた。


「星牙さまの声が...天使みたいに美しい...」


 ドゥーガンも涙ぐんでいる。


「ぷるぷる〜♪」


 ブルも幸せそうに跳ねている。


「え、そんなに変わったか?」


 ファンは自分では違いがよく分からなかった。


 通路を進んでいると、前方から美しい歌声が聞こえてきた。澄んだ、楽器のような美しい声だった。


「誰かいるな」


 グロウが警戒した。


 光苔の光が特に強い広場に出ると、そこに一人の女性が座っていた。長い銀髪、尖った耳、すらりとした美しいプロポーション。典型的なエルフの特徴を持つ美女だった。


 弓を膝に置いて、一人で歌を歌っている。その歌声は寂しげで、どこか孤独感を漂わせていた。


「エルフだ」


 ドゥーガンが小声で言った。


「一人で何をしているんだろう?」


 ファンが心配そうに見つめた。エルフの女性はまだこちらに気づいていない。


「おい、そこの...」


 グロウが声をかけようとした時、ファンが前に出た。


「大丈夫?一人で寂しくない?」


 ファンの天使の歌声が広場に響いた。その瞬間、エルフの女性がピクリと反応した。


「今の声は...?」


 エルフがゆっくりと振り返った。翠色の美しい瞳がファンの姿を捉えた瞬間、彼女は完全に固まった。


「あ...あ...なんて...可愛い...」


 エルフの口から驚きの声が漏れた。


「きゅーん♪」


 ファンが首をかしげて鳴いた。その声の可愛らしさに、エルフの心臓は大きく跳ねた。


「こ、これは夢?幻?」


 エルフが自分の頬をつねった。


「痛い...夢じゃない...本当にこんなに可愛い子が...」


 立ち上がったエルフは、恐る恐るファンに近づいた。身長は170センチほどで、スタイル抜群。美人という言葉では足りないほどの美女だった。


「お、俺はファンだ。君の名前は?」


 ファンが自己紹介すると、エルフはさらに感動した。


「話してる...こんなに可愛い声で話してる...」


「おい、大丈夫か?」


 グロウが心配そうに声をかけた。


「あ、すみません。私、シルフィアと申します」


 エルフが慌てて自己紹介した。


「シルフィアか。よろしく」


「よろしくお願いします!」


 シルフィアの目がキラキラと輝いていた。完全にファンに魅了されていた。


「シルフィアはなんでここに一人でいるんだ?」


 ファンが心配そうに尋ねた。


「私は...放浪の射手なんです。特に目的もなく、各地を旅している身で」


 シルフィアは少し寂しそうに答えた。


「一人で旅をしてるのか?寂しくないか?」


 ファンの純粋な心配に、シルフィアの胸が温かくなった。


「正直、寂しいです。でも、私みたいな者を受け入れてくれる仲間なんて...」


「なんでそんなことを言うんだ?シルフィアは美人だし、歌も上手だし、きっといい人だろ?」


 ファンの素直な言葉に、シルフィアの目に涙が浮かんだ。


「あなたは...なんて優しいの...」


「当たり前だろ?困ってる人がいたら助けるのが当然だ」


 ファンの天使の歌声での発言に、シルフィアは完全にノックアウトされた。


「こんなに純粋で優しくて可愛い子がいるなんて...」


 シルフィアはファンを抱きしめたい衝動に駆られた。しかし、まだ出会ったばかりなので我慢している。


「あの...ファンちゃん」


「ファンちゃん?」


「可愛すぎて、つい...だめですか?」


 シルフィアが恥ずかしそうに聞いた。


「別にいいけど...」


「ありがとうございます!あの、お願いがあるんですけど...」


「なんだ?」


「抱っこ...させていただけませんか?」


 シルフィアの頬が赤く染まった。美人が恥ずかしがっている姿は、それはそれで魅力的だった。


「抱っこか...まあ、いいけど」


 ファンもまんざらではなかった。確かにシルフィアは美人だし、健太郎以外の人間に抱っこされるのも悪くない。


「本当ですか!?」


 シルフィアが目を輝かせた。そして、そっとファンを抱き上げた。


「わあ...温かくて、ふわふわで...」


 シルフィアは幸せそうにファンを抱きしめた。ファンも意外と心地よかった。


「シルフィア、温かいな」


「きゃー!可愛い!可愛すぎます!」


 シルフィアが感激している一方で、ファンは冷静に周囲を見回していた。


「おい、星牙。楽しそうじゃないか」


 グロウが苦笑いしていた。


「まあ...シルフィアが喜んでるからな」


「星牙さま、モテモテですね」


 ドゥーガンもニヤニヤしていた。


「ぷるぷる〜♪」


 ブルも楽しそうに跳ねている。


「あの、シルフィア」


 ファンが抱っこされながら話しかけた。


「はい!なんでしょう!」


「俺たちと一緒に来ない?」


「え?」


 シルフィアが驚いた。


「俺たち、ダンジョンを攻略してるんだ。仲間が増えれば心強い」


「でも、私なんかで大丈夫でしょうか?」


「大丈夫だ。シルフィアは弓が得意なんだろ?きっと役に立つ」


 ファンの信頼の言葉に、シルフィアは感動した。


「ありがとうございます...こんな私を信じてくださって...」


「決まりだな。シルフィア、歓迎するぞ」


 グロウが手を差し出した。


「ありがとうございます、グロウさん」


 シルフィアが嬉しそうに握手した。


「俺はドゥーガンだ。よろしく頼む」


「こちらこそ、ドゥーガンさん」


「ぷるぷる〜♪」


「この子はブル。スライムだけど、いい奴だ」


「よろしくね、ブル」


『仲間になりました:シルフィア(エルフ・レベル18)』


『職業:アルケミストアーチャー』


『特殊能力:精密射撃、魔法矢、薬草知識』


「アルケミストアーチャー?珍しい職業だな」


 グロウが興味深そうに言った。


「弓術と薬学を組み合わせた職業です。回復薬や毒矢なんかも作れますよ」


「それは頼もしい」


 ドゥーガンも感心した。


「ところで、星牙。お前の声、すごい効果があるな」


 グロウが気づいた。


「そうか?」


「ああ、聞いてるだけで心が癒される。これも立派な能力だ」


「本当ですね。私、さっきファンちゃんの声を聞いた瞬間、すべての悩みが吹き飛びました」


 シルフィアが証言した。


「そんなに効果があるのか...」


 ファンは自分の新しい能力に驚いていた。


「試しに歌ってみろよ」


「歌?俺、歌なんて歌えるのかな?」


「やってみろって」


 グロウに促されて、ファンは小さく歌ってみた。


「らーらーら〜♪」


 その歌声は本当に天使のように美しく、聞く者すべてを魅了した。光苔がファンの歌声に反応して、より強く輝き始めた。


「すげぇ...植物まで反応してる」


 ドゥーガンが驚いた。


「きゃー!素敵すぎます!」


 シルフィアが感激している。


「ぷるぷる〜♪」


 ブルも歌に合わせて跳ねている。


「これは...もしかするとお前の歌声、魔物を鎮める効果があるかもしれんな」


 グロウが分析した。


「そうなのか?」


「ああ、戦闘で使えるかもしれん」


「よし、じゃあ五人で行こう!」


 ファンが元気よく言った。


「はい!どこまでもついて行きます!」


 シルフィアが張り切って答えた。相変わらずファンを抱っこしたままだった。


「おい、シルフィア。星牙をずっと抱っこしてないで、歩かせてやれ」


「えー、でももう少し...」


「だめだ。星牙も疲れるだろう」


 グロウが苦笑いしながら止めた。


「分かりました...」


 シルフィアは名残惜しそうにファンを降ろした。


「ありがとう、シルフィア。また今度抱っこしてもらうよ」


「本当ですか!?約束ですよ!」


 シルフィアが目を輝かせた。


「ははは、シルフィアも星牙の魅力にやられたな」


 ドゥーガンが笑った。


「仕方ないだろう。これだけ可愛いんだから」


 グロウも納得していた。


「みんな...」


 ファンは嬉しそうに仲間たちを見回した。また一人、大切な仲間が増えた。健太郎の元に帰るという目標は変わらないが、この仲間たちとの時間も大切にしたいと思った。


「よし、行こう!星牙チーム、さらにパワーアップだ!」


 グロウの掛け声で、五人は深層に向かって歩き出した。ファンの新しい能力と新しい仲間を得て、冒険はますます楽しくなりそうだった。


 光苔の光に照らされながら、小さな犬を中心とした異色のパーティは、未知なる試練に向かって進んでいく。ファンの歌声が通路に響き、仲間たちの心を一つに結んでいた。

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