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5話「帰郷への渇望」

 星光の鎧に身を包んだファンを先頭に、四人のパーティは第一層から第二層への階段を下っていた。石造りの階段は古く、長い年月を感じさせる苔や汚れが付いている。


「第二層はどんな感じなんだ?」


 弾むように階段を下るファンが振り返ってグロウに尋ねた。新しい装備が軽やかで、歩くたびに星の装飾がきらりと光る。


「第一層より少し強い魔物が出る。でも、俺たちなら問題ないだろう」


 グロウは頼もしげに答えた。


「ぷるぷる〜♪」


 ブルも弾むように跳ねながら階段を下りている。戦闘体質でないドゥーガンは少し遅れ気味だった。


「おい、ドゥーガン、大丈夫か?」


 グロウが心配そうに振り返った。


「だ、大丈夫だ!星牙さまには迷惑をかけない!」


 ドゥーガンは息を切らしながらも必死に頑張っていた。


「星牙さまって...そんな畏まらないでくれよ」


 ファンは苦笑いした。仲間なのに、そんなに距離を置かれると寂しい。


「でも、俺なんかが星牙さまと対等に...」


「対等だよ、当然。俺たちは仲間だろ?」


 ファンの優しい言葉に、ドゥーガンの目がうるうると潤んだ。


「ありがとうございます...いや、ありがとう、星牙」


「それでいいんだ」


 ファンは満足そうに頷いた。


 第二層は第一層より天井が高く、より複雑な構造をしていた。通路がいくつにも分かれており、まさに迷宮の様相を呈している。


「どっちに行こうか?」


 ファンが通路の分岐点で立ち止まった。


「右の方から風が吹いてくる。おそらく出口に繋がってるな」


 グロウが風向きを確認して答えた。


「じゃあ右に行こう」


 四人は右の通路を進んだ。しばらく歩くと、広いホールのような空間に出た。そこには大きな扉があり、その前に宝箱が置かれている。

 宝箱の前にはスライムが3匹寝ている。


「宝箱だ!」


 ファンが目を輝かせた。


「待て、星牙。罠かもしれん」


 グロウが慎重に警告した。


「俺が確認しよう」


 ドゥーガンが前に出た。鍛冶屋としての経験で、金属製の仕掛けには詳しい。


「スライムはどうしよう」


 ファンが悩んでいるとプルが前に出てきた。


「ぷるぷる〜ぷる〜」


「ん?プルが話しを付けてきてくれるのか?」


 プルが弾みながら三匹のスライムへ近寄って行く。


「ぷるぷる〜ぷるぷる」

「ぷる〜ぷるぷる」

「ぷるぷるぷる〜」

「ぷるぷる〜ぷる〜」


 四匹が円陣を組み身体を震わせながら謎の会話をしていると身体の震えが終わったと同時に三匹がサッと場所を譲ってくれた。


「プル凄い!」感心しているファンに対し、


「プル以外に便利だな」グロウの発言を聞いたプルはちょっと自慢げだ。


「じやあ、見てくるぞ」


 ドゥーガンか宝箱へ向かっていく。


「うーん...罠はないようだな。開けても大丈夫だと思う」


「やったー!」


 ファンが嬉しそうに宝箱に駆け寄った。中には光る石がいくつか入っていた。


『魔力石を5個獲得しました』


「魔力石?」


「魔法の触媒として使える貴重なアイテムだ。売ればそれなりの金になる」


 ドゥーガンが説明した。


「でも、俺、魔法使えないしなあ...」


「いや、星牙。その装備の特殊効果『星の加護』は魔力石をエネルギー源にしている。持っていて損はない」


「そうなのか!」


 ファンは魔力石を大切にブルに預けた。ブルのアイテム格納能力は便利だった


 宝箱を開けた後、四人は少し休憩することにした。ファンは扉の前に座り込み、なんとなく空を見上げるような仕草をしていた。


「どうした、星牙?」


 グロウが心配そうに声をかけた。


「いや...健太郎のことを考えてたんだ」


 ファンの表情が少し寂しそうになった。


「今頃、俺がいなくなって心配してるんだろうな。もしかしたら、警察に届けを出してるかもしれない」


「飼い主...そんなに大切な存在なのか?」


 ドゥーガンが興味深そうに尋ねた。


「ああ、とても大切だ」


 ファンは目を細めて、過去を思い出すように話し始めた。


「俺はまだ子犬の頃、捨てられていたんだ。雨の夜で、寒くて、お腹も空いて...もうだめかと思った」


 仲間たちは静かに聞いていた。


「そんな時、健太郎が見つけてくれたんだ。『大丈夫だよ、もう一人ぼっちじゃないから』って言いながら、優しく抱き上げてくれた」


 ファンの声が少し震えていた。


「それから三年間、毎日が幸せだった。美味しいご飯、暖かいベッド、一緒の散歩。健太郎は俺にとって世界で一番大切な人なんだ」


「そうか...だからお前は帰りたがってるのか」


 グロウが理解した様子で頷いた。


「健太郎は優しいから、俺がいなくなって自分を責めてるかもしれない。『俺が目を離したからだ』って」


 ファンの目に涙が浮かんだ。


「でも違うんだ。あれは健太郎のせいじゃない。俺が早く帰って、健太郎を安心させてあげたいんだ」


「星牙...」


 ドゥーガンも感動していた。


「ぷるぷる...」


 ブルも悲しそうに震えていた。


「大丈夫だ、星牙。俺たちが必ず帰してやる」


 グロウが力強く言った。


「ああ、俺たちも全力で協力する」


 ドゥーガンも頷いた。


「みんな...ありがとう」


 ファンは感謝の気持ちでいっぱいになった。


「でも、気になることがあるんだ」


 グロウが真剣な顔で言った。


「何だ?」


「このダンジョン、普通のダンジョンじゃないかもしれない」


「どういう意味だ?」


 ファンが首をかしげた。


「普通のダンジョンなら、最深部のボスを倒せば出口が現れる。でも、ここは『試練の迷宮』と呼ばれている」


「試練?」


「誰かの試練のために作られた迷宮かもしれない。だとすると...」


 グロウは言いにくそうに続けた。


「ただボスを倒すだけでは出られないかもしれない」


「え?」


 ファンは愕然とした。


「まだ確定じゃない。でも、可能性として考えておいた方がいい」


「そんな...じゃあ俺は...」


 ファンの表情が絶望的になった。


「安心しろ、星牙」


 ドゥーガンが力強く言った。


「どんな試練だろうと、俺たちが一緒にクリアしてやる。お前を絶対に帰してやるからな」


「そうだ。俺たちがついている」


 グロウも頷いた。


「ぷるぷる〜♪」


 ブルも励ますように跳ねた。


「みんな...」


 ファンは仲間たちの温かさに胸が熱くなった。一人じゃない。こんなに頼もしい仲間がいる。


「よし、じゃあ頑張ろう!どんな試練が待っていても、みんなと一緒なら乗り越えられる!」


 ファンは再び元気を取り戻した。


「その意気だ、星牙」


「俺たち星牙チームの力を見せてやろう」


 グロウとドゥーガンも気合十分だった。


「でも、無理はするなよ」


 ファンが心配そうに言った。


「俺のために危険な思いをしてほしくない。みんなも大切な仲間だからな」


「何を言ってるんだ。仲間のためなら当然だろう」


「そうだぞ、星牙。俺たちは家族みたいなものだ」


 ドゥーガンの言葉に、みんなが温かい気持ちになった。


「家族か...いいね、それ」


 ファンは笑顔になった。健太郎という大切な飼い主がいて、そしてこんな素晴らしい仲間たちもいる。自分は本当に恵まれているんだと実感した。


「よし、行こう。この扉の向こうに何が待っているかわからないけど」


 ファンが大きな扉を見上げた。


「星牙が行くなら、俺たちも行く」


 グロウが扉に手をかけた。


「重いな...みんなで押そう」


 四人で力を合わせて扉を押すと、ゆっくりと開いていった。向こうからは新鮮な空気が流れてくる。


「階段だ。第三層への入り口かな」


「ますます本格的になってきたな」


 ドゥーガンが興奮していた。


「ぷるぷる〜♪」


 ブルも新しい冒険に胸を躍らせているようだった。


「健太郎、待っていてくれ。俺は必ず帰るから」


 ファンは心の中で呟きながら、仲間たちと共に階段を下り始めた。愛する飼い主への想いを胸に、新しい試練へと向かって行く。


 小さな犬の大きな冒険は、まだ始まったばかりだった。そして、彼の純粋な愛情が仲間たちの心をひとつに結び付けていた。どんな困難が待っていても、この絆があれば乗り越えられるはずだった。


「みんな、ありがとう。俺、本当に幸せだよ」


 ファンの声が階段に響いた。小さな体に大きな愛を抱えた星牙の物語は、ますます深みを増していくのだった。



ダンジョンなのに魔物どこいった(泣)

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