32話「希望の光」
世界統一から3ヶ月が過ぎた頃、ついに待望の知らせが届いた。
「陛下!重大な発見です!」
帝国考古学研究所の所長が興奮して駆け込んできた。
「南大陸の砂漠地帯で、巨大な古代遺跡が発見されました!」
「古代遺跡?」
ファンが身を乗り出した。
「はい!『時空神殿』と呼ばれる、伝説の遺跡です!」
「時空神殿...」
聞いただけで、ファンの心は躍った。
「そこに何があるんだ?」
「文献によると、異なる時空を繋ぐ装置があるとされています」
ファンの目が輝いた。ついに、健太郎の元に帰る手がかりが見つかったかもしれない。
「すぐに調査隊を組織してください」
ファンが命令した。
「俺も一緒に行く」
「陛下が直接?」
「当然だ。これは俺にとって最も重要なことなんだから」
翌日、帝国最高の考古学者、魔法学者、技術者からなる調査隊が結成された。もちろん、星牙一家の仲間たちも同行する。
「よし、みんな行こう」
ファンが先頭に立った。
「ついに健太郎に会える日が来るかもしれない」
「俺たちも楽しみだ」
グロウが微笑んだ。
「健太郎さんにお会いできるなんて」
バハムートの背中で南大陸に飛ぶこと半日。ついに目的地に到着した。
「すごい...」
砂漠の中に突如現れた神殿は、想像を遥かに超える規模だった。高さ100メートル、幅500メートルの巨大な石造建築が、砂に半ば埋もれながらも威厳を保っている。
「これが時空神殿か」
バハムートも感嘆していた。
「我でも見たことがない建築様式だ」
神殿の表面には、複雑な魔法陣や古代文字が刻まれている。それらすべてが時空に関する魔法式だった。
「間違いなく、ここに時空装置があります」
帝国魔法学者が断言した。
神殿の入り口は既に考古学者たちによって開かれていた。内部は薄暗く、古代の魔法の光がかすかに通路を照らしている。
「気をつけて進もう」
ファンが仲間たちに注意を促した。
「古代の罠があるかもしれない」
壁には美しい壁画が描かれていた。様々な世界の風景、異なる種族の人々、そして中央には時空を操る古代の神々の姿があった。
「この壁画...」
シルフィアが一つの場面を指差した。
「これ、古代の世界かしら」
そこには高いビルや車、現代的な服装をした人々が描かれていた。
「やっぱり、この装置で他の世界に行けるんだ」
ファンの期待がさらに高まった。
神殿の最奥部に、ついに目的の場所が現れた。広大な円形の部屋の中央に、巨大な祭壇がある。その上には、水晶でできた複雑な装置が設置されていた。
「あれが時空移動装置...」
考古学者が息を飲んだ。
「伝説の『次元の門』です」
装置は直径3メートルほどの円形で、無数の水晶が複雑な幾何学模様を形成している。中央には人一人が入れる程度の空間があった。
「でも、動いてない」
ドゥーガンが装置を調べた。
「魔力が供給されていないようだ」
「どうやって動かすんだ?」
「この古代文字を読んでみましょう」
帝国言語学者が装置の周りに刻まれた文字を解読し始めた。
「『純粋なる愛の力により、門は開かれん』...」
「愛の力?世界樹の時見たいだ」
ファンが首をかしげた。
「『真の愛を持つ者、その想いを装置に注げ』...」
「俺の健太郎への愛のことかな?」
「『愛する者への想いが強ければ強いほど、門は大きく開かれん』...」
すべてが繋がった。この装置は、愛の力で動くのだ。
「やってみよう」
ファンが装置に近づいた。
「でも、危険かもしれません」
考古学者が心配した。
「古代の装置ですから、何が起こるか...」
「大丈夫」
ファンが微笑んだ。
「俺の健太郎への愛は本物だから」
装置の中央に足を踏み入れると、水晶がかすかに光り始めた。
「反応してる!」
「やはり、陛下の愛の力です!」
学者たちが興奮していた。
「健太郎...」
ファンが目を閉じて、愛する飼い主のことを想った。初めて出会った雨の夜、温かい家での幸せな日々、一緒に散歩した華蔵寺公園...
すべての思い出が、愛情となって装置に流れ込んでいく。
水晶がますます明るく光り、装置全体が振動し始めた。
「すごい!起動してる!」
「愛の力で古代装置が蘇った!」
装置の中央に、光る扉が現れた。最初は小さかったが、ファンの愛の力に反応してどんどん大きくなっていく。
「見えた!向こう側が見える!」
扉の向こうに、懐かしい光景が映し出されていた。華蔵寺公園のベンチ。そして、そこに座って空を見上げている健太郎の姿。
「健太郎!」
ファンが感激で叫んだ。
「本当にいる!元気でいてくれた!」
健太郎は少し年を取ったように見えたが、確かにファンが愛する飼い主その人だった。
「でも、この扉はそれほど安定していません」
魔法学者が警告した。
「長時間は持たないでしょう」
「どのくらい?」
「数時間が限界かと」
短い時間だが、それでも健太郎に会える。ファンの心は喜びでいっぱいだった。
「みんな、ありがとう」
ファンが仲間たちを振り返った。
「おかげで健太郎に会える」
「よかったな、星牙」
グロウが嬉しそうに言った。
「俺たちも健太郎さんにお会いしたい」
「もちろん、みんなで行こう」
「行くぞ」
ファンが先頭に立って扉をくぐった。
久しぶりに感じる現代世界の空気。汚れた空気だったが、ファンには最高に懐かしかった。
「健太郎!」
ベンチに座っていた健太郎が振り返った。
「ファン!?ファンなのか!?」
「ただいま、健太郎!」
ファンが胸に飛び込んでいくと、健太郎は涙を流しながら抱きしめた。
「よかった...生きていたんだな...」
「うん!元気だったよ!」
「健太郎、紹介したい人たちがいるんだ」
ファンが振り返ると、仲間たちが次々と扉から現れた。
「え...え?」
「落ちたところは異世界で、助けてもらったんだ」
健太郎が驚いていると、グロウが前に出た。
「初めまして、健太郎さん。俺はグロウです」
「ファンちゃんをいつもお守りしています」
シルフィアも丁寧に挨拶した。
「みんな、俺の大切な仲間なんだ」
ファンが説明した。
「落ちた世界で家族になったんだよ」
「ファンが...こんなにたくさんの仲間を...」
健太郎が感動していた。
「みなさん、ファンを大切にしてくださって、ありがとうございます」
「とんでもございません」
シルフィアが答えた。
「ファンちゃんには、私たちの方が救われました」
「そうです」
グロウも頷いた。
「星牙...いや、ファンは俺たちの誇りです」
健太郎はファンの成長に涙していた。
「でも、時間があまりないんだ」
ファンが寂しそうに言った。
「扉が不安定で、長くはいられない」
「そうか...」
健太郎も理解した。
「でも、会えただけで十分だよ」
「健太郎、俺、向こうの世界で皇帝になったんだ」
「皇帝?」
「うん、世界統一皇帝」
ファンが誇らしげに報告した。
「でも、一番大切なのは健太郎だ」
「この装置、もっと安定させられないか?」
ディアボロスが検討していた。
「研究すれば、定期的に行き来できるようになるかもしれない」
「本当?」
ファンの目が輝いた。
「ああ、時間をかけて研究すれば」
バハムートも同意した。
「完全に安定した次元の扉を作ることも可能だろう」
希望が見えてきた。すぐには無理でも、将来的には自由に行き来できるかもし
「健太郎、もう少し待っていて」
ファンが約束した。
「今度は、もっと長く一緒にいられるようにするから」
「分かった。待ってるよ」
健太郎が微笑んだ。
「ファンが立派になって、本当に嬉しい」
「でも、健太郎への愛は変わらないからね」
「俺もファンを愛してるよ。ずっとずっと」
扉が不安定になり始めた。帰る時間が来た。
「また必ず来るから」
「うん、待ってる」
最後の抱擁を交わして、ファンたちは扉をくぐった。
扉が閉じる瞬間、健太郎が手を振っているのが見えた。
「健太郎...」
異世界に戻ったファンの心は、希望でいっぱいだった。
「今度こそ、完全な解決方法を見つける」
「俺たちも全力で協力する」
仲間たちも決意を新たにした。
「必ず、定期的に会えるようにしてやる」
時空神殿での発見により、ついに健太郎との再会が実現した。短い時間だったが、それは無限の希望をもたらした。
「健太郎、待っていて。今度は永遠に一緒にいられるように頑張るから」
星空を見上げながら、ファンは愛する人への想いを新たにした。
希望の光が、ついに見えたのだから。
健太郎、順応性がが高すぎる。