表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/35

17話「発展する王国」

 バハムートの背中でルミナリア帝国に向かう途中、ファンは改めて作戦を確認していた。


「本当に話し合いだけで解決できると思うか?」


 グロウが心配そうに聞いた。


「分からない。でも、やってみる価値はある」


 ファンは決意を固めていた。


「魔王の鎖で操られている魔物たちも、本当は自由になりたいはずだ」


「そうですね」


 シルフィアも同意した。


「無理やり従わされるなんて、可哀想です」


「我が作った道具で多くの者が苦しんでいる」


 ディアボロスが申し訳なさそうに言った。


「我にも責任がある。必ず解決しよう」


 やがて、黒い雲に覆われた暗い土地が見えてきた。ルミナリア帝国だ。


 ルミナリア帝国の王城は、暗く陰鬱な雰囲気に包まれていた。黒い石で作られた城は威圧的で、周囲には赤い目をした魔物たちが警備していた。


「うわあ...本当に暗い国だな」


 ファンが呟いた。


「魔王の鎖の影響で、国全体が暗いオーラに包まれている」


 ディアボロスが分析した。


「あの鎖を破壊しなければ、この国に平和は訪れない」


 城門に近づくと、衛兵の魔物たちが警戒した。


「何者だ!」


「犬国の王、星牙王ファンだ」


 ファンが堂々と名乗った。


「ルミナリア王に謁見を求める」


 衛兵たちは困惑していた。小さな犬が王だと名乗っているのだ。


 しばらくして、城内に案内された一行は、巨大な謁見の間に通された。玉座には黒いローブを着た男性が座っている。ルミナリア王デモニウスだった。


「ほう...噂の星牙王か」


 デモニウスが興味深そうに見下ろした。


「確かに小さな犬だな。そんな小さな存在が王だと?笑わせる」


「俺はファンだ。犬国の王として来た」


 ファンは臆することなく答えた。


「話し合いがしたい」


「話し合い?」


 デモニウスが嘲笑した。


「弱小国の王が何を話すというのだ」


「あなたの国の魔物たちを解放してほしい」


 ファンがストレートに要求した。


「魔王の鎖で無理やり従わせるのは間違ってる」


「ほう、魔王の鎖を知っているのか」


 デモニウスが右手に持った黒い鎖を見せた。


「これは我が手に入れた最強の支配道具だ。どんな魔物でも従わせることができる」


「でも、それは魔物たちの意思を無視してる」


「意思?魔物に意思など必要ない」


 デモニウスが冷酷に言った。


「強い者が弱い者を支配する。それが世の理だ」


「違う」


 ファンが強く否定した。


「みんなには心がある。意思がある。それを尊重しなければならない」


「綺麗事を言うな」


 デモニウスが立ち上がった。


「では、その綺麗事がどこまで通用するか試してやろう」


 謁見の間に大勢の魔物たちが現れた。皆、赤い目をして魔王の鎖に操られている。


「行け!この愚かな犬を捕らえろ!」


 デモニウスが命令すると、魔物たちが一斉に襲いかかってきた。


「星牙、下がっていろ!」


 グロウが前に出ようとしたが、ファンが止めた。


「待って。俺がやる」


 ファンが前に進み出た。


「みんな、聞いて」


【魅惑の可愛さ】と【天使の歌声】を同時に発動した。


「らーらーら〜♪ 君たちは自由だよ〜♪」


 ファンの歌声が響くと、魔物たちの動きが鈍くなった。しかし、魔王の鎖の力も強く、完全に魅了することはできない。


「無駄だ!鎖の力は絶対だ!」


 デモニウスが鎖を強く握りしめると、魔物たちの目がより赤く光った。


「うーん...やっぱり難しいか」


 ファンが苦戦していると、ディアボロスが前に出た。


「我に任せろ」


 ディアボロスが魔王の鎖に向かって手をかざした。


「我が作った道具なら、我が一番よく知っている」


 暗黒魔法が鎖を包み込んだ。


「なに?鎖が...」


 デモニウスが驚いた。鎖の力が弱くなっている。


「今だ、星牙!」


「うん!」


 ファンが再び歌った。


「らーらーら〜♪ みんなで自由〜♪」


 鎖の力が弱まった瞬間、ファンの歌声が魔物たちの心に届いた。


「あれ?俺は何を...」


「ここはどこだ?」


 魔物たちが次々と正気を取り戻していく。


「操られていたのか...」


「俺たちは自由だ!」


 魔物たちはデモニウスを見つめた。今まで無理やり従わされていた怒りが込み上げている。


「貴様ら!何をしている!従え!」


 デモニウスが必死に鎖を振るったが、もう効力はなかった。


「もう従いません」


「自由になったんだ」


 魔物たちはファンの周りに集まってきた。


「ありがとう、小さな王様」


「君のおかげで自由になれた」


 魔物たちに見捨てられたデモニウスは、一人玉座に座っていた。


「なぜだ...なぜ我の支配が...」


「支配じゃなくて、信頼関係を築かなければダメなんだ」


 ファンがデモニウスに近づいた。


「恐怖で従わせても、本当の忠誠は得られない」


「黙れ!小さな犬風情が!」


 デモニウスが剣を抜いて襲いかかってきた。


 しかし、魔物たちがファンを守った。


「王様を傷つけさせません」


「この人は俺たちの恩人だ」


 デモニウスの剣は魔物たちに阻まれた。


「デモニウス王」


 ファンが優しく呼びかけた。


「あなたも一人は寂しいでしょう?」


「なに?」


「本当の仲間がいれば、こんな風に魔王の鎖に頼る必要もなかったはず」


 ファンの言葉に、デモニウスの表情が変わった。


「俺たちと友達になりませんか?」


「友達だと?我と貴様が?」


「そうです。敵対するより、協力した方がお互いのためになる」


 デモニウスは長い間考え込んでいた。そして、ついに剣を下ろした。


「分からん...貴様の言葉には不思議な力がある」


「それは愛の力だよ」


 ファンが微笑んだ。


「みんなを愛して、みんなに愛される。それが本当の強さなんだ」


「デモニウス王、提案があります」


 ファンが改まって言った。


「犬国とルミナリア帝国で同盟を結びませんか?」


「同盟?」


「はい。お互いの国民が幸せになれるように、協力し合うんです」


 デモニウスは驚いていた。昨日まで敵だった相手から同盟の提案を受けるとは思わなかった。


「本気で言っているのか?」


「もちろんです」


 ファンが力強く頷いた。


「戦争をするより、平和を築く方が大変だけど、価値がある」


 デモニウスはしばらく考えてから、ゆっくりと頷いた。


「分かった。同盟を結ぼう」


 玉座の間に歓声が響いた。魔物たちも、ファンの仲間たちも、皆が喜んでいた。


「魔物さん達はどうしますか?この国に残るか又は犬国に移住しますか?」


「俺の命を持て遊んだ、この国には残らない!」

「犬国に移住したい!」


 大勢いの魔物が移住を申し出たが少数の魔物は残ることを選んだ。

 これからルミナリア帝国は魔物に押し付けていた

 過酷な仕事も人間達でやることになるだろう。


 同盟の調印式を終えて犬国に帰る途中、ファンは満足そうだった。


「やったな、星牙」


 グロウが嬉しそうに言った。


「戦争を起こさずに平和を築けた」


「みんなのおかげだよ」


 ファンが仲間たちを見回した。


「一人じゃとても無理だった」


「でも、星牙の愛の力があったからこそだ」


 バハムートも感心していた。


「短期間で二つの国を平和にするとは」


「まだ始まったばかりだけどね」


 ファンが謙遜した。


「これから両国の発展を考えなければならない」


 犬国に戻ると、ルミナリア帝国との同盟のニュースを伝えた。


「陛下!素晴らしいです!」


 ゲンクが涙を流して喜んでいた。


「これで平和が訪れます」


「まだ始まったばかりだ」


 ファンが慎重に答えた。


「本当の平和を築くには、時間がかかる」


 しかし、同盟の効果はすぐに現れ始めた。ルミナリア帝国から技術者や魔法使いがやってきて、犬国の発展に協力してくれるようになった。


「こんなに早く発展するとは思わなかった」


 ドゥーガンが驚いていた。


「新しい技術がどんどん入ってくる」


「友好関係の力だな」


 シルフィアも感心していた。


「争うより協力する方が、みんなにとって良いことが証明された」


 数週間のうちに、犬国は大きく変わった。ルミナリア帝国出身の魔物たちも移住してきて、真の多種族国家となった。


「オーガ」「ドワーフ」「エルフ」「スライム」「コボルト」「オーク」「ガーゴイル」「ドラゴン」「元魔王」そして「人間」。


 あらゆる種族が仲良く暮らしている。


「すごいな...本当にみんなが仲良くしてる」


 ファンが街を歩きながら感動していた。


「陛下のおかげです」


 道行く人々が口々に感謝を伝えていた。


「種族の違いなんて関係ないって教えてくださった」


「みんなで協力すれば、素晴らしい国が作れるって」


 急速に発展する国を見ながら、ファンは複雑な気持ちでいた。


「こんなに多くの人が俺を頼りにしてる」


 夜、一人で空を見上げながら呟いた。


「健太郎に会いたい気持ちは変わらない。でも、この人たちを放っておくこともできない」


「星牙」


 シルフィアが近づいてきた。


「悩んでいるのですね」


「うん。嬉しいけど、複雑なんだ」


「きっと健太郎さんも、あなたが多くの人を幸せにしていることを誇りに思ってくれますよ」


 シルフィアの言葉に、ファンは少し救われた気持ちになった。


「そうかな」


「はい。愛する人が立派に成長していることほど、嬉しいことはありませんから」


 ファンは星空を見上げた。いつか健太郎に、この国のことを自慢げに話したい。そんな未来を夢見ながら、王としての日々を送っていた。


 小さな犬の大きな愛が、確実に世界を変えていく。そして、その変化はまだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ