表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/35

15話「建国への道」

 バハムートの背中での空の旅を続けること一週間、ついに北の大陸が見えてきた。南の大陸とは全く違う、雄大な山々と深い森林に覆われた大地だった。


「すごいな...こんなに大きな森があるのか」


 ファンが感動していた。


「これがノーザン大陸だ」


 バハムートが説明した。


「世界樹があるとされる『永遠の森』は、この大陸の奥地にある」


「永遠の森...」


 ファンは希望に胸を膨らませていた。ついに健太郎に帰る手がかりが見つかるかもしれない。


「まずはどこかの街に降りて、情報収集をしよう」


 グロウが提案した。


「あそこに街が見える」


 シルフィアが下方を指差した。確かに、森の中に小さな街らしきものが見える。


 一行が降り立ったのは、フォレストヘイムという小さな街だった。木造の家々が立ち並び、自然と調和した美しい街並みだった。


「ここは静かでいいな」


 ファンがほっとした表情を浮かべた。


「南の大陸みたいに騒がれることもないだろう」


 しかし、街に入るとすぐに人々の注目を集めてしまった。


「あ、あれは...」


「小さな犬が竜や魔王と一緒にいる...」


「もしかして、噂の星牙?」


 やはり、ここでも星牙の噂は届いていた。


「うーん、やっぱり有名になってるんだな」


 ファンが苦笑いした。


 しかし、この街の人々の反応は南の大陸とは少し違っていた。


「星牙様...もし本当にあなたが星牙様なら...」


 一人のゲンクが近づいてきた。


「お願いです。私たちを助けてください」


「助ける?何があったんですか?」


 ファンが心配そうに尋ねた。


「私はこの街の町長ゲンク申します。この街は...いえ、この地域全体が大変なことになっているのです」


 ゲンクが悲しそうに説明し始めた。


「隣国のルミナリア帝国が、この地域を侵略しようとしています」


「侵略?」


「はい。彼らは強力な魔物軍団を持っており、私たちのような小さな街では太刀打ちできません」


 ゲンクの話を聞いて、街の人々も集まってきた。皆、不安そうな表情をしていた。


「既に東の村は占領されました」


「私たちも家族を避難させています」


「このままでは、この街も...」


 人々の声に、ファンの心は痛んだ。


「ルミナリア帝国の魔物軍団は、星牙様のような力を悪用しているのです」


 街の守備隊長らしき男性が説明した。


「どういうことだ?」


 グロウが興味深そうに聞いた。


「彼らの王は『魔王の鎖』という魔法具を持っており、魔物を強制的に従わせているのです」


「魔王の鎖?」


 ディアボロスが反応した。


「それは...我が昔作った呪われた道具だ」


「ディアボロスが?」


 ファンが驚いた。


「ああ、千年前、我が魔王だった頃の遺品だ。まさかまだ残っていたとは...」


 ディアボロスが苦い表情をした。


「その道具があれば、どんな魔物でも意思に反して従わせることができる」


「お願いします、星牙様」


 ゲンクが土下座した。


「私たちにはもう頼るものがありません」


「星牙様の力があれば、きっと平和を取り戻せます」


 他の人々も次々と頭を下げた。


「ちょっと待ってください」


 ファンが慌てて止めた。


「頭を上げてください。俺、そんなに偉い存在じゃありません」


「でも、あなたなら...」


「確かに、俺には仲間がいます」


 ファンが仲間たちを振り返った。


「でも、俺には健太郎という大切な人の元に帰るという目標があるんです」


 人々は失望した表情を浮かべた。


「そうですか...やはり私たちには...」


 その時、街の外れから悲鳴が聞こえてきた。


「きゃあああ!」


「魔物だ!魔物が来た!」


 街の人々が慌てて逃げ回り始めた。街の入り口から、黒いオーラに包まれた魔物たちが侵入してきた。


「ルミナリア帝国の魔物軍団だ!」


 守備隊長が叫んだ。


 魔物たちの目は赤く光り、明らかに正気ではなかった。魔王の鎖によって操られているのだろう。


「グオオオ!」


「ギャアアア!」


 魔物たちが無差別に暴れ回っている。


「子供たちを避難させろ!」


「星牙様、お逃げください!」


 混乱の中、ファンは立ち尽くしていた。


「星牙、逃げよう」


 グロウが促した。


「俺たちには関係のない争いだ」


「でも...」


 ファンは苦しそうな表情をしていた。目の前で罪のない人々が苦しんでいる。


「きゃああ!助けて!」


 小さな女の子が魔物に襲われそうになった。


「だめだ!」


 ファンが咄嗟に飛び出した。


「その子に手を出すな!」


【守護の咆哮】が発動し、魔物の動きが止まった。


「星牙!」


 仲間たちも慌てて後を追った。


「みんな、戦おう」


 ファンが振り返った。


「俺は健太郎の元に帰りたい。でも、目の前で苦しんでる人を見捨てることはできない」


「星牙...」


 仲間たちはファンの優しさに感動していた。


「分かった。俺たちも戦う」


 グロウが武器を抜いた。


「当然です。私たちは星牙一家ですから」


 シルフィアも弓を構えた。


「よし、みんなで魔物軍団を追い払おう」


 ファンが指示を出した。


 しかし、相手は魔王の鎖で操られた魔物たち。普通の方法では魅了することができない。


「らーらーら〜♪」


 ファンが歌ってみたが、効果はなかった。


「やはりだめか」


「なら、力づくで行くしかないな」


 バハムートが前に出た。


「久しぶりに本気を出すとするか」


 竜のブレスが魔物軍団を吹き飛ばした。


「我も力を貸そう」


 ディアボロスが暗黒魔法を放った。自分が作った魔王の鎖の被害者たちを救うために。


 グロウ、シルフィア、ドゥーガンも総力で戦った。


 星牙一家の圧倒的な戦力の前に、魔物軍団は次々と倒れていった。


「すげぇ...」


「あっという間に...」


 街の人々が呆然としていた。


 戦闘が終わると、ファンは倒れた魔物たちに近づいた。


「らーらーら〜♪ もう大丈夫だよ〜♪」


 優しい歌声が響くと、魔王の鎖の呪いが解け始めた。魔物たちの目から赤い光が消えていく。


「グオ...?」


「ギャ...?」


 魔物たちが正気を取り戻した。


「ここは...俺たちは何を...」


「操られていたのか...」


 魔物たちは困惑していたが、ファンの歌声を聞いて次第に落ち着いていった。


「ありがとうございます!星牙様!」


 街の人々が歓声を上げた。


「私たちの街を救ってくださった!」


「やはり星牙様は救世主だ!」


 人々の賞賛に、ファンは複雑な気持ちだった。


「でも、これで終わりじゃないんでしょう?」


 ファンがゲンクに尋ねた。


「はい...ルミナリア帝国はまだ健在です。きっとまた攻めてくるでしょう」


「そうですよね」


 ファンは考え込んだ。


「星牙様、お願いです」


 ゲンクが再び頭を下げた。


「私たちの王になってください」


「王?」


 ファンが驚いた。


「はい。この地域には多くの小さな街や村があります。皆、ルミナリア帝国に怯えて暮らしています」


「星牙様が王になってくだされば、きっと平和な国が作れます」


 他の人々も口々に懇願した。


「でも、俺は...」


 ファンは健太郎のことを思った。王になんてなったら、ますます帰れなくなってしまう。


「星牙、どうする?」


 グロウが聞いた。


「俺は...分からない」


 ファンは本当に迷っていた。


「星牙様」


 シルフィアが優しく言った。


「無理に決める必要はありません。一度考えてからでも」


「そうですね」


 ゲンクも頷いた。


「今日は宿でゆっくりお休みください。答えは明日で構いません」


「ありがとうございます」


 ファンは感謝した。


 その夜、宿で仲間たちと相談した。


「どうしよう、みんな」


「お前の気持ちを大切にしろ」


 グロウが言った。


「俺たちはどんな決断でも支える」


「でも、この人たちを見捨てるのも辛いし、健太郎を待たせるのも辛い」


 ファンは本当に悩んでいた。そして、その悩みが新しい可能性を生み出そうとしていた。


 小さな犬に託された大きな責任。その選択が、世界を変える第一歩になろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ