11話「地底の王者」
翌朝、星牙一家は意気揚々と第五層への挑戦を開始した。前夜の語らいで絆を深めた仲間たちは、これまで以上に結束していた。
「第五層からは本当に危険だぞ」
グロウが警戒しながら階段を下りていた。
「今までとは比べ物にならないほど強い魔物が住んでいる」
確かに、第五層に足を踏み入れた瞬間から空気が違った。重苦しく、まるで巨大な何かの気配が漂っている。
「なんだか、とても大きな存在がいるような気がする」
ファンが不安そうに呟いた。
「ドラゴンですかね?」
シルフィアが弓を構えながら言った。
「ドラゴン?」
「この層の主として、古いドラゴンが住んでいるという噂があります」
「ドラゴンか...会ってみたいような、会いたくないような」
ファンは複雑な気持ちだった。
通路は今までより遥かに巨大で、天井も見えないほど高い。壁には古代の壁画が描かれており、翼を広げた巨大な竜の姿が刻まれている。
「この壁画、すごいな」
ドゥーガンが感心していた。
「古代の竜王の姿だな。相当古い時代のものだ」
奥へ進んでいくと、突然視界が開けた。そこには巨大な地底湖が広がっていた。湖面は鏡のように静かで、天井から差し込む光が幻想的に反射している。
「うわあ...きれいだな」
ファンが素直に感動した。
「ぷるぷる〜♪」
ブルも湖の美しさに喜んでいる。
「でも、こんな場所にドラゴンがいるのか?」
「いるとしたら、湖の向こうの洞窟だろうな」
グロウが湖の対岸を指差した。確かに、向こう側に大きな洞窟の入り口が見える。
「どうやって渡るんだ?」
ファンが首をかしげた時、湖面が波打ち始めた。
「な、なんだ?」
そして、湖の中央から巨大な影が浮上してきた。
現れたのは全長10メートルを超える巨大な青いドラゴンだった。美しい青い鱗に覆われ、威厳に満ちた金色の瞳を持っている。しかし、どこか疲れているような、寂しそうな表情をしていた。
「人間か...久しぶりだな」
ドラゴンが低く、しかし美しい声で話した。
「ドラゴンが話した!」
ファンが驚いた。
「当然だ。我は古き竜王バハムート。この湖の主である」
バハムートは威厳を保ちながらも、どこか親しみやすい雰囲気を醸し出していた。
「あの、俺はファンだ。よろしく」
ファンがいつものように挨拶すると、バハムートの表情が柔らかくなった。
「ファン?可愛らしい名前だな。そして...」
バハムートがファンをじっと見つめた瞬間、その巨大な瞳が潤んだ。
「なんと愛らしい...これほど可愛らしい存在がいるとは...…」
「お主たちは何をしにここへ?」
バハムートが優しい口調で尋ねた。ファンの可愛さに心を奪われていることが明らかだった。
「ダンジョンを攻略して、俺の元の世界に帰りたいんだ」
「元の世界に?そうか...お主も故郷を想う気持ちがあるのだな」
バハムートの声に深い悲しみが込められていた。
「バハムートも故郷を想ってるのか?」
ファンが優しく聞いた。
「我は...もう千年以上この湖にいる。かつて仲間がいたが、皆旅立ってしまった」
「千年も一人で?」
「そうだ。長い間、誰とも話していなかった。だから、お主たちと話せて嬉しい」
バハムートの寂しそうな表情に、ファンの心は痛んだ。
「それは寂しかっただろうな」
「ああ...とても寂しかった」
「じゃあ、俺が歌ってあげる」
ファンが提案した。
「歌?」
「うん。俺の歌を聞けば、少しは寂しさが和らぐかもしれない」
「そんなことができるのか?」
「やってみる」
ファンは湖畔に座ると、美しい歌声を響かせ始めた。
「らーらーら〜♪ 一人じゃないよ〜♪」
「みんなで一緒〜♪ 寂しくないよ〜♪」
天使の歌声が地底湖に響いた。音響効果で歌声はより美しく反響し、まるで天国の合唱のようだった。
「これは...なんと美しい...」
バハムートの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。千年間の孤独が、ファンの歌声によって癒されていく。
「グオオ〜♪」
「ガウガウ〜♪」
「キィー♪」
仲間たちも歌に合わせて合唱を始めた。
「私たちも歌いましょう」
シルフィアとドゥーガンも加わり、地底湖は美しい歌声に包まれた。
歌が終わると、バハムートは静かに涙を流していた。
「ありがとう...千年ぶりに心が温かくなった」
「良かった」
ファンは嬉しそうに笑った。
「でも、バハムートはずっと一人でいるつもりなのか?」
「どういう意味だ?」
「俺たちと一緒に来ない?」
ファンの提案に、バハムートは驚いた。
「我が?お主たちと?」
「そうだ。みんなで一緒なら、きっと楽しいよ」
「だが、我はドラゴンだ。お主たちとは種族が違う」
「関係ないよ」
ファンは当然のように言った。
「俺たちのパーティには、オーガもドワーフもエルフも、いろんな魔物もいる。ドラゴンがいても全然おかしくない」
「そうですよ」
シルフィアも同意した。
「私たちは種族の違いなんて気にしません」
「星牙一家に新しい仲間が加わるってことだな」
グロウも嬉しそうに言った。
「本当に...我でもいいのか?」
バハムートは信じられないという表情をしていた。
「もちろんだ。バハムートも一人で寂しかったんだろう?俺たちと一緒にいれば、もう寂しくない」
ファンの優しい言葉に、バハムートは完全に心を奪われた。
「ありがとう...ファン...」
バハムートの声が震えていた。
「千年間待ち続けていたのかもしれない。お主たちのような仲間を」
「じゃあ、決まりだな」
ファンが嬉しそうに手を叩いた。
「よろしくお願いします、バハムート」
シルフィアが丁寧に挨拶した。
「こちらこそ、よろしく頼む」
バハムートも礼儀正しく応えた。
『仲間になりました:バハムート(古竜・レベル50)』
『職業:竜王』
『特殊能力:飛行、ブレス攻撃、古代魔法』
「レベル50!?すげぇ!」
ドゥーガンが驚いた。
「まあ、千年も生きてるからな」
バハムートが苦笑いした。
「でも、もう戦いには疲れた。これからは、お主たちを守ることに力を使いたい」
「ところで、バハムート」
ファンが期待に満ちた目で見上げた。
「空を飛べるんだよね?」
「もちろんだ。お主たちを背中に乗せて飛ぶことができる」
「やったー!空を飛んでみたかったんだ!」
ファンが大喜びした。
「では、試しに少し飛んでみるか?」
バハムートは嬉しそうに湖から上がってきた。巨大な体だが、優雅で美しい動きをしている。
「みんな、乗って」
バハムートが背中を低くしてくれた。
「本当にいいのか?」
グロウが恐る恐る聞いた。
「当然だ。我の背中は頑丈だ」
みんながバハムートの背中に乗ると、巨大な翼が広げられた。
「いくぞ」
羽ばたきと共に、一行は空中に舞い上がった。
「うわあああ!飛んでる!本当に飛んでる!」
ファンが大興奮していた。
「きゃー!すごい!」
シルフィアも興奮している。
「高いなあ...」
ドゥーガンは少し怖がっていた。
「ガウガウ!」(すごい!)
「グオオ!」(気持ちいい!)
魔物たちも大喜びだった。
「どうだ、気持ちいいだろう?」
バハムートが嬉しそうに言った。
「最高だ!健太郎にも見せてあげたいな、この景色」
ファンは空からの美しい景色を見ながら、愛する飼い主のことを思った。
「きっと見せてあげられるさ」
バハムートが優しく言った。
「我がいる限り、お主の願いは必ず叶う」
地底湖に戻ってくると、バハムートは真剣な表情になった。
「ファン、お主に相談がある」
「なんだ?」
「このダンジョンの最深部には、非常に危険な存在がいる」
「危険な存在?」
「古代の封印された魔王だ。千年前、我たちドラゴン族が封印したのだが...」
バハムートの表情が暗くなった。
「最近、封印が弱くなっている。もし復活したら、この世界は大変なことになる」
「魔王...」
ファンは不安になった。
「でも、お主たちがいれば大丈夫かもしれない」
「俺たちが?」
「お主の持つ力は特別だ。種族を超えて心を通わせる力。それは、魔王にも通用するかもしれない」
「でも、俺はまだ弱いよ」
「大丈夫だ。我がついている。そして、お主には素晴らしい仲間がいる」
バハムートが仲間たちを見回した。
「この絆があれば、きっと乗り越えられる」
「分かった」
ファンが決意を込めて言った。
「俺たちで魔王を止めよう」
「星牙...」
グロウが心配そうに見つめた。
「大丈夫だよ。みんながいるから」
ファンは仲間たちを見回した。
「俺たち星牙一家なら、どんな困難も乗り越えられる」
「その通りです」
シルフィアが力強く頷いた。
「俺たちがついてるからな」
ドゥーガンも同意した。
「ガウガウ!」(頑張る!)
「グオオ!」(負けない!)
「キィー!」(一緒に戦う!)
「ぷるぷる〜♪」
魔物たちも意気込んでいた。
「ありがとう、みんな」
バハムートが感動していた。
「我も、お主たちのような仲間がいれば、どんな敵でも怖くない」
夕日が地底湖を美しく照らす中、新しい仲間を得た星牙一家は、より大きな試練に向かう決意を固めていた。
「ところでバハムートは小さく出来る?その大きさだとダンジョン内の移動大変でしょう?」ファンが首を傾げた。
「我は、人型に変化できるぞ」
ボッンと小さな煙と共に変化した。煙の中から現れたのは……
金の目ので青い長い髪を後ろで1つに縛ったスラッと背の高い気品のある青年だった。
「イケメン!イケメンだ!」
ファンは大興奮でバハムートの回りをグルグル走り回ったが興奮しすぎて撃沈してしまった。
「ファンちゃん!可哀想に……私が抱っこして帰りますね」
言葉とは裏腹にニコニコなシルフィアに又もや抱っこされるファンなのでありました。
古のドラゴンから最強の魔王まで、ファンの可愛さと仲間たちの絆は、あらゆる存在の心を動かしていく。そして、その力はやがて世界そのものを変えることになるのでした。