04
結果、ロスト・フィラデルフィアは計二十箇所に噴射された。世界中を飛び回り、方々しらみつぶしに処置をし続けたブレッドとシギルは、もう生も根も尽き果てている。だが甲斐あって被害は最小限に抑えられ、セフィラの支持率は上がった。
二人の驚異的な能力に恐れをなした者もあるが、奮闘する姿に感動し、感謝する声のほうが上回ったのだ。
余談だが、それをきっかけにグラウコス基地には何の手紙だか贈り物だか分からないものが連日大量に届くようにもなった。まあ、おおよそ見当はつくので、みな黙々と片付けている。ブレッドへのファンレターは焼却場へ。二人への励ましの手紙は専用ボックスへ。贈り物は中身を厳重に確認して仕分けるのだ。
二人の活躍は、謹慎中であるサウスの耳にも入った。大戦から外されたショックで、頭はとうに冷えている。ブレッドの言う通り、裏切ったのは自分だという自覚もあり、偏見で目が曇っていたことも認めることができた。
ファウストが最も味方を必要とする時に、背を向けたのだ。そんなものが親友と呼べるはずはない。
サウスは後悔に呻き、己の小ささを嘆いた。ゆえに、シギルの身を案ずる余裕も、ファウストの心情を気遣う心も、すっかり元に戻っているのだが、謹慎は未だとけていない。
サウスは頭を抱えた。
おそらく、みずからの足でファウストのところへ赴き、頭を下げなければならないのだろうが、今更どの面下げて行けばいいのか分からないのだ。
「つか、ぜってー忘れてんだろ、俺のこと」
そんな独り言を呟きながら、サウスは窓の外を見た。東の空にたなびく雲を、なすすべもなく眺めていたのである。
するとその十分後。遠くの空で爆発音が響いた。グラウコスの陸軍士官棟にいて地響きを感じたのだから、場所が近いか、爆発の規模が大きいかである。
「な、なんだ?」
サウスは自室から飛び出した。向かいの部屋からも同じようにして飛び出して来た人物がいる。陸軍中将アルバート・リドルである。
「今のなんだよ!?」
「知らん。確認しに行ってくる」
「俺も!」
「謹慎中だろうが!」
「うっせーよ! もうほとぼり冷めてんだろ!?」
サウスはアルバートに便乗して指令室へ乗り込んだ。指令室にいた各大将とファウストとシュウヤは驚いたが、緊急事態であるため動揺は抑えた。
「たった今、将軍とシギルが行ったところだ」
ショーカーの返答に、サウスは眉をひそめた。
「どこに?」
「東大陸——ストーク断層だ」
「ス、ストーク断層って! まさか地震!?」
「いや、スカイフィールズが仕掛けていた噴射装置と連動する爆弾があったようだ。ここまで振動が届いたからな。かなり大きい。しかしまだ地震は起きていない」
「まだってことは、起きるかもしれねえのか?」
「可能性は高いと言っていた」
サウスは額に汗して、息をのんだ。
「爆弾つきのバイオテロかよ。最悪だな。奴の脳みそどうなってんだ。バクテリアウイルスに〝失われし人間愛〟なんてふざけた名前つけるわけだぜ。狂ってる」
「だからこそ将軍が行くのだ」
「行ってどうすんだよ」
「なんとか食い止める、と」
「どうやって? あそこは地球最大の活断層だ。半端じゃない……ニュースで見たぜ? あいつらもうヘトヘトじゃねえか」
ショーカーは目をそらした。将軍を止めることは、彼にはできないのだ。サウスは舌打ちして、ファウストを睨んだ。
「てめえは止めなかったのかよ」
ファウストは沈黙した。答えようがなかったのと、久々の会話に戸惑っていたためだ。が、
「シギルだけでも止められなかったのかよ!? おまえっ、今度こそ失っちまうぞ! 本当に、なくしちまうぞ!」
サウスは遠慮なく怒鳴り散らして、ファウストの腕をひっつかんだ。
「行こう!」
「どこに?」
「決まってんだろ!? 追っかけんだよ!」
サウスは勢いに任せてヘリポートへ向かった。ジェットを飛ばすのが速いと思ったのだ。このとき二度目の衝撃が、彼方から届いた。地震である。サウスは東の地平線に目を向けた。
「でけぇな」
「マグニチュード8か9……いや、それ以上か」
「ジェット飛ばせるか?」
「ああ。だが現地に着いたあと、どうする」
「近くにアーガト基地があるだろ? とりあえずそこ行って考えよう」
「わかった」
二人は機へ乗り込んだ。そしてサウスはシートベルトを締めながら、ふと思い出したように言った。
「そういや、悪かったな」
「え?」
「いろいろ。なんかゴチャゴチャ考えすぎて、おまえと話せなかった。ホント、悪かったよ」
「……いや」
「せっかく弟が見つかったっていうのに、おめでとうの一言も言えなくて、後悔してる。友人失格だってのは、よく分かってる。けどよ、俺はやっぱり、おまえなしじゃ戦えない。もし許してくれるなら、また一緒に戦ってくれないか」
サウスは真摯な眼差しを向け、精一杯の想いを込めて告げた。
ファウストは込み上げてくる涙をこらえた。友情はもう二度と戻らないと思っていただけに、少し信じられない気持ちだったが、そこには確かに、昔と変わらぬ友がいる。そのことが嬉しかった。
ファウストは笑みを浮かべながら、サウスの腕に拳を押し付けた。
「陸を守れるのは、おまえしかいないと思っている。頼むぞ」