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ロスト・フィラデルフィア  作者: 礎衣 織姫
第四章 開戦
23/36

04

 六月二十日。セフィラ・ダミー陽動作戦は実行された。

 ダミー役の少年はスカルベニー駐留中のグラウコス軍と合流。およそ二週間、様子を見ることになる。

 この二週間の間に自衛隊が東大陸へ侵入。GPの警備が手薄になったところを攻撃する手筈であった。

 が、二週間後。

 スカルベニー周辺のGPやその他のテロ組織に動きは見られたものの、相変わらず東大陸のGPは沈黙を保っていた。その手には乗らぬという訳だ。


 七月五日。セフィラ・ダミー陽動作戦は中止され、ブレッドが単身スカルベニーへと発った。ジェットで約三時間。現地に到着したブレッドは、極力目立つよう振る舞った。明日には所在が敵の耳に入るだろう。


 七月七日。東大陸のGPに初めて動きが見られた。ブレッドは駐留地で指揮を執るケビン・タイラー陸軍大佐と、停止中の戦車の脇で会話した。

 タイラーは癖の強い金髪と栗色の目をした一八〇前後の背の男である。二十五歳と、まだ若い。

「巧くいったようだな」

「GPはセフィラより将軍を警戒していたのでしょうか」

「かも知れん。ジアノスがいるからな。奴が恐れているのは俺だけだ。スカイフィールズも忠告に従ったとみえる」

「決裂しないのでしょうか」

「今は手を組むのが無難と考えているはずだ」

「もうしばらく、こちらで様子を窺われますか?」

「ああ。グラウコスの兵力は充分だ。少しの間は離れていても問題ないだろう。俺は敵を充分に引きつけておいてから戻る」


***


 その夜。タイラーはテント内で休息をとりながら、同僚で親友のルーヴ・サーヴァル・メイレン空軍大佐と話した。

「将軍が動いたことでGPが動いたってことは、連中は将軍の正体を知っているんだろうか」

 タイラーの発言にメイレンは眉間を曇らせた。

「そう受け取っていいだろうな。セフィラとのガチンコ勝負にあっさり勝つなんて、いったい何者なんだ? ぜひ教えてもらいたいね」

「直接聞いたらどうだ?」

 タイラーは入れたてのコーヒーをすすって、からかった。メイレンは細い目を見開いて首を横に振った。

「恐ろしいことを言うな」

「ハッハッハ。まあとにかく得体が知れないことは確かだ。あの美貌ひとつ取っても謎めいている。ありゃ人間じゃないな」

「じゃあ、なんなんだ」

「それが分かれば苦労しない」

 再びコーヒーをすするタイラーを、メイレンは心持ち見据えるように眺めた。

「なぜ除隊しなかった?」

 唐突な質問に、タイラーは口元をゆがめた。

「ロスレイン兄弟への同情。身の安全の確保。みんな一緒だろ?」

 メイレンは同意しながら苦笑した。

「そうか。誰も口にしないから違うのかと思っていた」

「少なくともシーランは……だがな」

 タイラーはしんみりと語る。メイレンはため息ついた。

「ウィビーン准将はまだ現場に戻らないのか?」

「さあ。シーランじゃないし、近いとこにいただけに、割り切れないんじゃないか?」

「淋しいな」

「ああ」


 一夜明け、現地は快晴の空の下、兵士のささやかな朝食が始まった。最中、タイラーがブレッドのもとに寄った。ブレッドはコップ一杯の水を飲み干したところだ。

「おくつろぎのところ、申し訳ありません」

「いや」

「さきほどグラウコスより連絡がありました。本日未明、戦闘態勢に入る予定とのことです」

「敵はどのくらいの規模で来ている」

「戦艦五十隻、攻撃機五十機、ガンシップ八十機、駆逐戦車百台、兵力は二千五百から三千です」

 ブレッドは好戦的な笑みを浮かべた。

「本体だな」

「はい、かなりの規模です。いかがされますか」

「頭がいないところを攻め入ろうという魂胆だろうから、少し様子を見る。こちらの主力部隊もグラウコスにある。慌てる事はない。しかし念のため、空を半分帰還させろ」

「イエス・サー」

 タイラーが敬礼し立ち去ると、ブレッドは携帯を取り出した。

「シュウヤ」

〝おう〟

「東大陸のGP支部を占拠してくれ」

〝了解。本部はどうする?〟

「残しておけ。ジアノスの首は俺が直接もらいに行く」


***


 グラウコスは戦闘態勢に入った。基地内に警報が鳴り響き、兵士らは淡々と所定の位置につく。

 その渦中で、ロスレイン兄弟は一瞬だけ顔を合わせた。

「今回は海上戦が主流になるだろう。俺も空母から護衛機に搭乗する」

 ファウストの言葉にシギルはうなずいた。


 午後二時。

 グラウコスより南の海上二千キロ付近で第一陣が衝突した。戦闘開始である。

 グラウコス北のサレジオ平野では、駆逐戦車を食い止めるべく陸軍との攻防戦が繰り広げられた。そうこうするうち、スカルベニーから空軍機が半数帰還し、戦闘に加わった。帰還兵の中にはロイスがいて、シギルは出陣手前のところをつかまえ、訊いた。

「将軍は?」

「もう暫く、あちらで様子を見るそうだ」

「しばらくって、どのくらい?」

「知らない」

「大丈夫かな」

 ロイスはシギルの肩を優しく叩いた。

「大丈夫だ。将軍一人が欠けているくらい、どうってことはない」

 シギルはうつむいた。

 ブレッドはセフィラを簡単に受け入れられるほどの度量と力を持っている男だ。正直なところ誰よりも頼りになる。

 しかしロイスの将軍に対する評価は低く、信頼を寄せるに当たって未だ壁は厚い。ロイスは励ましたつもりなのだろうが、この想いのズレが予期せぬ事故を招くのではないかと、シギルはかえって不安になった。

 おりしも空は様子を変え、暗雲が立ちこめている。気象予報では夜遅くから雷を伴う豪雨となることを告げていた。



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