第4話 嘘の微笑み
その日は、政務局主催の貴族合同会合が開かれていた。
王族からの正式な使者も出席し、名のある貴族たちが一堂に会する格式高い場――
カリステル侯爵家の嫡嬢であるリアーナも、当然ながら招かれていた。
加えて、政務局副官であり宰相候補と目される若き貴族――夫、アゼル・フェルダインもその中心にいた。
二人は政略によって結ばれた。
それでも、夫婦として振る舞うことが求められていた。
「リアーナ様は、やはりお美しいですね」
「フェルダイン様と並ぶと、まるで理想の貴族夫妻ですわ」
――そう言われるたび、リアーナは微笑んだ。
形式的に。完璧に。けれど、内側では何かが軋んでいた。
ふと視線を向けると、アゼルが誰かと会話していた。
隣に立つのは、セレナ・ミルヴィア。元侍女にして、現在は政務補佐官見習いとして働く才媛。
そのセレナが、アゼルに何か囁かれたとき――
彼女は、わずかに微笑んだ。ほんの、数秒。
その表情は、まるで“理解し合っている者同士”のそれだった。
リアーナは、心のどこかが冷たくなるのを感じた。
証拠は、何もない。
ただの誤解かもしれない。
けれど――確信があった。
セレナは、夫と通じている。きっと、ただの補佐官ではない。
その夜、リアーナの部屋をセレナが訪れる。
紅茶の香りをまといながら、いつものように微笑み、こう言った。
「リアーナ様。……どうして、何も言わないのですか?」
その声は、まるで友人の心配のように優しくて。
でも、リアーナは確かに感じた。
その微笑みに――**“わざと見せつけた”**という意図が、あったことを。