表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/22

第2話 上辺だけの愛

晩餐の席には、リアーナとアゼル、そして最低限の侍女と従者だけがいた。


銀の燭台に灯る光が、白磁の器に映り込み、静かな部屋を飾っている。


リアーナはスープに口をつけながら、少しだけ視線を横に動かす。アゼルはワインを傾け、黙って書類に目を通していた。


「……今日も、お忙しいのですか?」


控えめに尋ねると、アゼルは顔を上げて、微笑んだ。


「少しだけ。王都の議会で、また税制の件で揉めていてね」


「……お体は、大丈夫ですか?」


「もちろん。心配してくれるのかい?」


その言葉には、優しさがあるように聞こえた。けれど、その笑みはどこか“完璧すぎて”、リアーナの胸をざわつかせた。


まるで誰かが描いた“優しい夫”の絵のようだった。


リアーナはスプーンを置いた。


「……アゼル様」


「ん?」


「わたくしは……ここに、必要とされていますか?」


静かな問いだった。だが、部屋の空気が一瞬止まった気がした。


アゼルはゆっくりとワインを置き、リアーナに目を向ける。


「リアーナ。君は、この国にとってかけがえのない存在だ。誰もがそう思っているよ」


「……“この国にとって”ではなくて、アゼル様にとっては?」


アゼルは少し目を細めた。だが、すぐに表情を整え、また微笑んだ。


「君は、私の誇りだよ」


その言葉には、答えがなかった。


 


それ以上、リアーナは何も言わなかった。


それ以上、アゼルも何も聞いてこなかった。


二人の間に横たわるものが、愛ではなく――静かで冷たい距離であることを、リアーナはこの夜、ようやく認識し始めた。


 


誰にも愛されずに、ただ“聖女”として称えられることの意味を。


そしてそれが、やがて何を引き寄せるのかを――


まだ、この時の彼女は知らなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ