第17話 偽りの結束
王都リュミエール、政務宮の大議会室。
これほどまでに多くの貴族と高官が一堂に会するのは、数十年ぶりだった。
老王ライヒルトは、玉座のような議長席に腰かけていたが、
その瞳はすでに老境を超え、焦燥と恐怖の色が滲んでいた。
「四魔王を放置すれば、王国の根幹が崩壊する」
「彼らは王政の敵である以前に、“秩序”の敵だ」
そう言い切る声が、威厳ではなく自己保身の悲鳴として響く。
列席する大貴族たちの顔は蒼白で、神官たちは祈るばかり。
もはやこの会議は、「正義」を語る場ではない。
恐怖に駆られた者たちが“団結という名の檻”にすがり合う場だった。
アゼル・フェルダインは、中央演壇に立つ。
王族分家にして、宰相候補――だが、
この場では“最も冷静に、戦略を語れる男”だった。
「討魔連盟の構成は以下の通りとします」
•軍事担当:旧王国騎士団長 ダイン・グローヴァル
•宗教連絡:神殿統主 ミルド=ユンティス
•政務総調整:アゼル・フェルダイン(補佐官:セレナ・レヴィル)
ざわめきの中、アゼルの隣に立った若き補佐官、セレナは微笑を絶やさなかった。
純白の政務服に身を包んだ彼女の姿は、
かつての侍女とは思えぬほど堂々としていた。
誰もが気づいていた。
彼女がリアーナの侍女だったことを。
だが誰も言葉にできなかった。
セレナの“従順な微笑”の裏に、何かがあることを、皆が薄々感じていた。
「我々は、“恐れ”で結束している」
アゼルはそう言った。
「しかし恐れは、指導者によって秩序へ変換されるべきだ。
我々が指し示す敵は、“自由”という幻想に踊らされている者たち」
「自由は美名だが、制御されぬ力は必ず災厄を呼ぶ。
リアーナ・カリステル――彼女は、災厄の象徴となった」
その言葉に、ほとんどの者が頷いた。
だが、どこかに迷いがあった。
セレナは、そんな空気を鋭敏に感じ取っていた。
彼女の微笑は、ほんの少しだけ深まる。
「アゼル様、もしリアーナ様が、
“誰も従わせずに世界を動かせる”としたら……」
セレナが静かに呟いた。
「それこそが、最も恐ろしい王ではありませんか?」
アゼルの目がわずかに細められる。
「……ああ。だからこそ彼女は“王にならせてはならない”」
会議は“討魔連盟”の名のもとに可決され、
即日、各地へ伝令と指令書が送られる。
各魔王の所在と行動パターンが整理され、
討伐の優先順位と包囲作戦が開始された。
だが、会議が終わったその夜。
都の郊外で、十人の少年少女が“討魔軍への徴兵”を拒否し、失踪した。
彼らが手にしていたのは、
どこにも属さない、どこの軍旗でもない――
ただの黒い布だった。
王は命令できる。
騎士は剣を持てる。
だが、民の意思には、命令も剣も届かない。
こうして、“戦”は正式に始まった。
それは、国家と思想。
権力と希望。
命令と自由。
そして――偽りの結束と、揺るぎない意志の戦いだった。




