表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/32

その7 嫉妬

 「どうしたの?」と不意に声が聞こえてきた。

 「えっ?」と俺は顔を上げた。

 昼休み。俺と凛花は屋上で、昼食をとっていた。

 「ぼうっとしてさ」凛花が俺の目を覗き込んで言った。どこか疑わしげに——

 別に……と俺は答えて、パンを食べた。モソモソとして、まるで埃でも食べているかのような気分だった。

 「昨日の人のこと、考えていたんでしょ?」と彼女は言った。

 「え?」と俺は言った。

 「黒いドレスの人だよ」と彼女。

 そういえば、あの女——時枝のことをすっかり忘れていた。あの自称・天使のオッサンのインパクトのほうが圧倒的に強かったからだ。

 「あのあと、あの人とどこに行ったの?」と凛花が俺に詰め寄ってきた。

 真顔だった。彼女のこんな顔、今までに見たことがなかった。冗談抜きで、こんな表情ができたのか……。

 「どこにも行かなかったよ」と俺は嘘をついた。「あのあと、二人で喫茶店に入りました」なんて言ったら、余計に話がこじれることになるからだ。

 「ウソつかないでよ」と彼女。

 「ちょっと、立ち話しただけだ」と俺。

 「立ち話だったら、あの場所でもできたじゃん!」と彼女は尚も、食い下がってくる。「それとも、わたしには聞かせられない話だったの?」

 あー、もうッ!と俺は、パンの袋とコーヒー牛乳の空容器とをビニール袋に突っ込んだ。「そんなにあいつとの仲が知りたけりゃ、探偵でも雇ったらどうだ?!」

 「『あいつ』って——」と凛花が驚いた口調で言った。「ずいぶん馴れ馴れしく呼ぶね、あの人のこと……」

 「うっせぇなッ!!」俺は彼女に背を向け階段室の入り、鉄の扉を閉めた。



 彼が閉めた階段室の鉄扉を、彼女はしばらくのあいだジッと見やっていた。

 やっぱり、何かあるんだ、と凛花は思った。あの人と彼とのあいだに何かが……と。

 彼女は涙が込み上げてきそうになるのを、必死にこらえた。これからまだ授業があるというのに、目を真っ赤にさせているわけにもいかなかった。

 そのとき、予鈴の音が屋上に鳴り響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ