その26 記憶
その平原――幽現界を、俺は歩き出した。
天使の指し示した、あの北極星を目指して。
蒼白い月が平原を淡く照らし、ときどき吹く風が、丈の短い草を波打たせる。
俺は、その光景をかつて見たような記憶があった。
何か懐かしさが胸に湧き起こってくる感覚がした。
何か、自分のなかで、記憶の蓋が少しづつ開いていくようなそれもした。
俺はかつて、何度もここに足を踏み入れてきたのだろう。何度も何度も……。気が遠くなるくらいに。
俺は何度も、生まれては死に、生まれては死んできたのだろう。その度に、ここを通過してきたのだ。この狭間の世界を。この何もない寂しい世界を――
そして、俺はその「生と死の境界」において、いつも誰かから迎えられてきたのだ。
あるいは、その逆の立場もあった。
その相手は誰だったのだろう? 俺を迎えてくれた相手、あるいは俺があちら側から迎えた相手は――
その人物像が、俺の脳裏で浮かんでくる。
しかし、それはハッキリと像を結ばない。ぼやけている。まるで、磨りガラス越しに、相手を捉えるみたいに……
だけど、その相手は、俺の大事な人だったのだ。
俺と魂を分かち合った相手だ。俺が分けたのか、あるいは分けられたのかはわからないが……
その相手は、俺の一部から生まれたのだ。あるいは俺は、その相手の一部から生まれた。
俺たちは一心同体だった。そして、地球を、あるいは他の星々を、何度も共に、二人三脚で生きてきたのだ。何度も何度も――
たぶん、と俺は思った。たぶん彼女なのだ……
だから、俺は彼女のもとから離れてはいけなかったのだ。
自分自身とはぐれるわけにはいかないのだから。それは間違ったことなのだ。彼女は俺の隣にいなくてはならない。
そして俺たちは、また一つにならなくてはならないのだ。統合されなくてはならない。
二人が一人になり、それでいて二人であり続けるという、パラドックスを起こさなくてはならないのだ。




