その18 契約解除
「本当にやめるんかいな?」と天使は俺に訊いた。
「ああ」と俺は答えた。「やめる」
天使と俺は、うちのキッチンで向かい合っていた。
おっさんはいつものように、テーブルの前に座り、俺は少し離れたところで立っていた。
「それは『自殺』を意味するで?」と天使は俺の目を見て言った。「言うまでもないんやけども……」
構わない、と俺は言った。
「これは老婆心で言うんやけども――」と天使は続けた。「あまり衝動的に生きとると、文字通り身を滅ぼすで? 少しはクッションを置かんと……。心の声に従うことと、衝動的に生きることの間には、天と地ほどの差があるんや」
俺は黙っていた。
「君はガールフレンドの件で、冷静な判断ができんようになっとる」と天使はさらに続けた。「もうちょい、頭を冷やしからでも遅うはないやろ」
「とにかくやめる」と俺は言った。
やれやれと、天使は横顔を向けて、ため息をついた。
「これで契約は解除や――」と天使は答えた。
用紙も判子も必要がなかった。そもそも、このミッションに参加したときに口頭だけで話が進んだのだから、それもその筈なのだった。
「一応、門戸は開けておく」とおっさんは言った。「冷静になりおったら、また戻ってくればええがな……」
そう言うと、彼は姿を消した。いつものように、俺が目を瞬いたあいだに――




