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その15 聞きたくない言葉

 夏休みも半ばに差し掛かったころ――

 俺は自室で、凜花にまたメッセージを送ってみた。

 が、返事はなく、既読にすらならなかった。

 「やれやれ」と俺はスマートフォンをベッドの上に放り投げた。スマホはポフッと間抜けな音を立てて、掛け布団の上に着地した。なんだかストーカーにでもなったような気分だった。

 夏休みに入ってから、凜花とは一度も顔を合わせていなかった。あいつと出会って以来、こんな夏休みは初めてだった。直接、あいつの家まで出かけていって、問い質すこともできたが、それはなにか躊躇われた。

 「あいつとの関係も、これで終わっちまうのかなぁ……」俺はベッドにもたれかかりながら、そう独りごちた。

 それならそれで、多分いいのだろう、と何か悟ったような考えが、不意に脳裏に降ってきた。それで、まだ縁が残っているのであれば、いつかまた、一緒になれる日が来るのだろう、とも――

 なんとなくTVを点けてみると、ある特集の組まれた番組がやっていた。

 それは、「秋葉原事件」についての番組だった。昔、秋葉原の歩行者天国で起きた、通り魔殺人事件だ。


 *


 夕方ごろ、俺がトイレから出てきて、キッチンに入ったとき、あのオッサンが、またテーブルの前に腰かけていた。

 「おう」と天使は俺に笑いかけながら片手を挙げた。「なんや奇遇やなぁ」

 「そういう冗談はいらないんだよ」俺は洗ったばかりの両手を、ジーンズの尻ポケットで拭いながら答えた。

 「つまらんヤツやな」と天使は顔をしかめた。「君、友達おらんのとちゃうか?」

 「余計なお世話だ」今度は俺が顔をしかめる番だった。「てゆうか、いるから。友達くらい」

 「君の言う友達の定義を、二十字以内で簡潔に述べてみィ」

 「うるせぇな」と俺は頭を掻いた。「何の用だよ? 用件があるなら、時枝を通して、俺に伝えるんじゃなかったのか?」

 「ああ、忘れとったわ」天使はまた冗談めかすように言った。「確かに君に用というか伝えなアカンことがあるんやけども、内容が内容やから、直接君に伝えよう思うてな……」

 「内容が内容?」と俺はオウム返しして言った。今度のは冗談ではないようだった。

 「せや」と天使は答えた。「運命のイタズラっちゅうもんは怖いもんやで……」

 「おい、なんだよ」俺は不安を催して言った。「もったいぶるなよ」

 「言いづらいわ」

 「いいから言えよ!」

 ふいに天使は真顔になって(あるいは「仮面」を取り去って)、それからおもむろに口を開いた。

 「次に死ぬのは、君のガール・フレンドや」

 「えっ?」

 「凜花っちゅう子やな」

 一瞬、世界の時が止まったかのように、俺には思えた。それなのにそのあいだ、自分の世界がバラバラに崩壊し、それがまた再構成されていくというような、奇妙な感覚が生じた。

 「どういうことだよ?」気づくと俺は、天使のほうへと歩み寄り、彼の着物の襟元を掴んでいた。

 「俺に言われても困るで」天使は超然とした顔と声とで言った。彼は人外の者で、人の生き死にや倫理観とは隔絶されたところに立っているのだ。「それは上の決定やからな……」

 「そいつのところに案内しろよ」その着物の襟元を掴む俺の手に思わず力が入った。

 「畏れ多いヤツやなぁ」天使はニヤッと歯を見せた。「天罰が降っても知らんで?」

 「どうすればいいんだよ?」

 「決まっとるやないか」と天使は答えた。「これまで通りや。彼女の死亡予定日はすでに決定しておる。君たちが彼女を助けるんや」

 俺が眼を瞬いた瞬間、彼はまた姿を消していた。

 俺は足早に自室へと戻り、ベッドの上のスマートフォンへと手を伸ばした。

 それから電話をかける。その相手は時枝だった。

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