その10 連絡先交換
翌朝、俺は寝惚け眼を擦りながら、学校へと歩いて向かった。
凜花はいつもの待ち合わせ場所に現れなかった。メッセージも返ってこなかった。
凜花はちゃんと学校には来ていた。が、俺にはその日、話しかけてこなかった。女子の友達たちばかりと駄弁っていた。
俺が話しかけようと凜花に近づくと、彼女はタイミング良く、その場から離れるか、そばの女友達に話しかけた。勝手にしろ、と思った。
放課後、一人でトボトボと下校していると、見覚えのある人影が目の前に現れた。
時枝璃々珠だった。やはり、黒いゴスロリのドレスを着ていて、相変わらず、彫刻のように無表情だった。
「こんにちは」と時枝が言った。
「あんたか」と俺は応じた。
「例の話は?」と彼女が尋ねてきた。
「聞いた」と俺は溜息混じりに答えた。
俺は、昨日おとといの、天使とのやりとりを、かいつまんで話した。時枝は黙って、それを聞いていた。
「一年後に死ぬ?」彼女はそうオウム返しした。
「そうらしい」と俺は答えた。「あのオッサンの話によるとな」
時枝は、目を細めて、俺を見つめていた。 「なんだよ?」俺は少しどぎまぎとした。
「たしかに――」と彼女は目を細めたままで言った。「何か、黒い影が、あなたの背後に、うっすらと見える……」
「黒い影?」
「死の前兆よ」と時枝は言った。「あの天使は、あなたを脅かしているわけではないということ――」
「もう腹は決めているんだよ」と俺は言った。
「いい心がけね」と時枝は無表情に答えた。
「とりあえず、電話番号を交換しましょう」時枝はスマートフォンを取り出した。
「あいよ」と俺もスマホを、スラックスから出した。もうどうにでもなれ、という心境だった。
*
それから二ヶ月ほどが経ったが、時枝からの連絡が入ることはなく、天使が俺の前に姿を見せることもなかった。
凜花との仲は相変わらずギクシャクとしていた。あいつが怒っているのもせいぜい一、二週間くらいだと思っていたのだが。これまでだって、喧嘩は何度もしてきたけれども、大抵の場合は、彼女は三日もすればケロッとしていたのだ。
そのまま夏休みに突入してしまった。俺は帰宅部で、凜花とは疎遠になり、かつ友人たちとは遠距離で会うのが億劫だったため、暇を持て余して、ゲームばかりをしていた。
いくらキャラクターを一生懸命育て上げても、いずれはそのゲームをやらなくなるのだから、時間と労力のムダだよなぁ……とか雑魚敵を倒し、経験値を集めながら考えていた。
ならゲームはやめて、勉強するか?あるいは筋トレでもするか?とも思うのだが、俺だって最終的には死ぬのだから、ゲームのキャラを育てるのと、結局は同じことだとも思った。
ただ、自分を育てるのならば、その能力が実社会で活きるのだから、ゲームをするよりかはまだマシなんじゃないだろうか? ゲームのプロや、ゲーム実況のユーチューバーを目指すというのならば、また話は変わってもくるのだろうが……。
そんなことをぼんやりと考えながら、ある種の虚無観に捉えられながら、キャラクターを広大な平原で走らせていると、不意に俺のスマートフォンが震え始めた。
「もしもし?」と俺は言った。
「指令が入ったわ」と時枝が言った。「例の天使からのね」
とうとう来たか、と俺は息を飲んだ。
「内容は――」と彼女が言った。




