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その1 ありがちな出会い

 マンションのエントランスから出て、あくびを噛み殺しながら、道を歩いていると、凛花がいつもの十字路で俺を待っていた。

 いつもと同じ、明るい黄色の薄手のセーターに、真っ白な白いブラウス。

 「おはよう、あーちゃん」と、彼女が綺麗に笑った。

 「オゥ」と俺も笑い返した。

 「今日、選択の授業があるよね?」と凛花が、俺のとなりで言った。

 彼女の明るい色の髪が、柔らかい春風になびいていた。シャンプーの香りが、俺の鼻先をかすめた。

 「やべっ、教科書忘れた」

 「もぅ、貸したがるよ」

 そう駄弁りながら角を曲がったとき、俺の身体にふいに衝撃が走った。

 気がつくと、俺は尻もちをついていた。

 「あーちゃん、だいじょうぶ!?」と、凛花がこちらに駆け寄ってくる。

 顔を上げると、俺の目の前で、見知らぬ女が、同じように尻もちをついていた。

 最初に目に入ったのは、「黒」だった。彼女は黒いドレスを着ていた。いわゆるゴスロリ服だ。

 艶のある、長い黒髪をしていた。

 そして、それらの黒から浮かび上がるように、透明感のある白い肌をしていた。

 「悪い」と俺は立ち上がって、彼女に手を差し出した。

 彼女は顔を上げた。

 思わず息を呑んだ。彼女があまりに、端正な顔立ちをしていたからだ。切れ長の目に、スッと通った鼻筋——。まるで絵画から抜け出してきたかのように、まったく現実感がなかった。

 彼女はジッとこちらを見つめていた。まるで穴が空くほどに。

 そして目を丸くしていた。まるで俺のなかに、何かを見出したかのように——。

 「何か……?」と俺は言った。彼女の現実離れした顔立ちと姿も相まって、少し気味の悪さも覚えた。

 「いえ——」と彼女は、俺の差し出した手を握った。「ありがとう……」

 彼女はドレスについた砂利を手で払うと、俺の顔をまた見やった。

 二、三秒のあいだそうしたあとで、彼女は、俺と凛花のあいだを突っ切っていった。

 「なんだあいつ……」と、彼女の後ろ姿を眺めながら呟いた。

 俺は凛花のほうを見やった。凛花はどこか、膨れていた。というか、明らかに——。

 またか、と俺はうんざりしながらも思った。またやっかいなことになるぞ……。

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