高校入学 5
入学すると体力測定や健康診断が行なわれる。
体力測定の場合、身体の柔軟性や持久力、握力などを測るが、年齢に応じた標準的な数字がある。
だが私の場合、いずれも標準より低い数字で、特に走ることではかなり遅いし、息も切れた。中学生の時のほうがずっと上だった。これも受験勉強のせいかとも思ったが、他の同級生も条件は同じはずだ。数字だけから見ると、40代の様な感じだ。
走った後、しばらく動けず、グラウンドの端で座っていた。
そこに坂本がやってきて、そっと私にタオルを渡してくれた。
「お前、大丈夫か? 随分疲れたようだが、どこか身体でも悪いのか? 先生に相談して今日、休むか?」
「ありがとう、私、大丈夫」
そういう坂本と私の会話を少し離れて見ている生徒がいた。美津子たちのグループだった。いつの間にか3人ほどのグループができていて、私と坂本が親しく話すことも面白く思っていないようだった。夢を持って入学した高校だったが、まだ学校に慣れていない段階から気になることができてしまい、憂鬱な気分もあったが、同時にそんな私を理解してくれる存在があるということも知り、心の逃げ場を作ることは有難かった。そしてこのことを心の声として日記に残すことにした。
≪日記≫
『今日から日記を付けることにした。
自己紹介の時、私がからかわれた時に助けてくれた坂本君。正義感が強い人だと思った。
私が勝手に思っていることだと思うけど、何かあった時、助けてくれるかな?
それから今日の体力測定。信じられない。中学の時より全然数字が悪い。
みんなが言うように、私、おばさんになったのかな?
でも、そんなの悲しすぎる。私、高校生になったばかりなのよ。たくさん青春を楽しみたい。友達といろいろなことをやりたい。中学の時は楽しかった。
翔子、どうしているかな? 今度の日曜、電話してみよう』