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お母さん、私、恋したよ!  作者: 藤堂慎人
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高校入学 3

 放課後、校門を出たところに人が集まっている。

 私も何だろうと思ってその中に入って、何を見ているのかを確認した。

 箱の中に子猫がいた。痩せて汚れている。必死で泣いている。その様子を見て口々に可哀そう、という言葉は出てくるが、それで具体的な行動を起こす者はいない。

「小さな命・・・」

 思わずつぶやいた。

「この子、どうするの?」

 みんなに言った。しかし、そう問われても明確に返答するものは誰もいない。

「じゃあ、私が連れて帰って良い?」

 その言葉に異議を唱える者はいない。心配はしているものの、それは口だけだったのだ。だから私が連れて帰るという言葉に安心した表情になっている。

 しかし、帰ったら両親にきちんと話し、了解を取らなければならない。私一人で決められることではないし、命を預かることの意味と大きさは知っているつもりだ。

 もともと猫を飼いたいという気持ちは持っていた。それが偶然とはいえ、捨てられた子猫と出会ってしまった。ならばこれも運命と自分に言い聞かせたが、何の保証もないところでの行動だ。冷静に考えれば無茶だったかもしれないが、このままだったら死んでしまうことは分かっている。保健所に連れて行かれて安楽死かもしれない。それだけは避けたかった。

 朝、登校する時には見かけなかったから、どこかに捨てられた子が学校の校門ならたくさんの人が通るから拾ってくれるかもということでこの場所に移したのかもしれない。箱が汚れていたのでそう思ったのだが、そんなことはどうでも良い。私はこの小さな命を救いたかったのだ。

 持っていたハンカチで少しでもきれいにしてあげたいと、一生懸命拭いた。小さな身体に負担をかけないように気を遣いながら優しく拭いた。それが気持ち良いのか、子猫は優しい声で鳴いていた。私はその目をしっかり見つめながら、笑みを浮かべていた。

 ハンカチを裏返し、優しく包み、身体を冷やさないように注意しながら片手で胸の前に抱き上げ、家路を急いだ。春とはいってもこの日は気温が低く、体調が心配だったので、早く家に帰りたかった。周りにいた他の人たちは私を見送りながら、「可愛がってあげてね」ということを言っている。子猫に対する感情はあるのだろうが、自分の家に連れて帰るまではできなかったが、私の行動に気持ちが落ち着いたのだろう。私はその責任を背負って、というのは少々オーバーかもしれないと思いつつ、しっかり両親を説得しようという思いが強くなっていた。


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