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前世の記憶を思い出したのですわ

 私、ソフィア・アンブレラはこの世界が乙女ゲームの世界である事、自分がその作品の悪役令嬢に転生した高校生であった事を、花瓶に活けられた花を見て思い出した。


沢山の乙女達を萌えと涙で悶えさせた実績のあるシナリオライター、豪華声優陣、有名イラストレーター、ゲーマーならだれもが知ってる作曲家にボーカリスト。それら全てを終結させて日本中の乙女をトキメキの嵐に放り込む! と企画の段階で大々的に宣伝されていた「ソルファンタジア」。


 数々の実力派スタッフによって作り上げられ、発売後は乙女ゲーマーから賞賛の嵐となるはずだった。


 途中で制作会社が倒産しなければ。


 色々あって経営維持は困難、当然開発資金も足りず製作は途中で頓挫、スタッフも去る中なんとか無理矢理まとめ上げて発売にはこぎつけたものの……。当然ストーリーは途中で終わった感バリバリの打ち切りエンドだわ、事前に攻略可と宣伝されていたキャラのルートが発売後にない事が発覚するわ、未回収の伏線がゴロゴロ転がっているわで散々な出来。


 レビューサイトでは星1最低評価の嘆きのレビューが並び、シナリオライターはSNSで散々たる開発環境を愚痴って炎上するしで「作品より販売後の炎上の方が面白い」と言われる始末。


 クラスの乙女ゲー友達にも評価は低く、私がルート・CGフルコンプまで行ったと報告した時には珍獣を見るような目で見られた。


 だって、どのルートにも出て来るお邪魔キャラのアビス・サファリファイス様が素敵だったんだもの!


 アビス様はメイン舞台になるソル王国に伝わる宝「太陽の輝き」をつけ狙う悪役で、魔界の王様。腰まで届く漆黒の髪をしてらして、全身黒ずくめで長いマントをなびかせているの。真っ赤な瞳も綺麗。どのルートでも秘宝を奪いに来ては攻略キャラに蹴散らされる不憫キャラ。


 このキャラは事前に攻略不可だと公式で発表されていたので、私もおとなしく引き下がって他の攻略キャラルートを楽しんでいたのだけど……。


 開発が途中で頓挫したせいもあるのだろう。どのルートでも毎度毎度懲りずに表れては、まともなバトルシーンすら用意されず数行で蹴散らされるアビス様が、なんだか憎めない可愛らしさを誘って、すっかりお気に入りになってしまったのだ。ある時はソル王国王子の剣の一振りで真っ二つ、またある時はソル王国お付きの宮廷魔導士の火の魔法で一発で黒焦げ……。


 そんな事を攻略キャラ人数分繰り返す様に、とうとうネットの乙女ゲーマー達に「不憫王」というあだ名までつけられてしまう始末。全ルート・全エンドコンプしても、彼が何故ソル王国の秘宝をつけ狙うのかわからないのも、このあだ名の浸透を手伝ったといえるだろう。


 攻略不可なのは仕方ないとしても、彼がどうして宝を狙うのかくらいは知りたかったなぁ……。ゲームごと散々な評価だとしても、私にとっては「大好きな人」だったし……。開発会社が倒産しなければ、流石にそこはサブキャラクターでも触れる予定だったのだろうけれど。シナリオライターさんもSNSで「書き切れなかった事が富士山の標高くらいある」と嘆いていたし。


 難しい事はわからないけれど、大人の事情の開発のごたごたって悲しい。私には、フルコンプして何もやる事がなくなった後も起動して決まりきったお話を何度も読み返す以外何も出来ない。好きなゲームのシナリオライターさんと、少女向け小説レーベルでも大活躍してらっしゃる大好きなイラストレーターさんのタッグという時点で、脳死で限定版予約して購入したんだもの。この際一人で元を取ってやるわ!


 携帯ゲーム機の画面の中で、今日も果敢に攻略対象にいどんでは、数行で消し飛ばされるアビス様。


『フハハハハ! 今日がソル王国滅亡の日だ!』


 滅亡するのは貴方だけどね。


『貴様らに冥土の土産に教えてやろう! 俺様が世界最強だとな!』


 冥土の土産を貰うべきはあなただったけどね。


『俺様の魔法の威力、とくと見よ!』


 CGも場面説明もなくすっ飛ぶから、見る事がまず不可能です。

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