99 聖女が町にやって来た
聖女が町にやって来る。
フランシス神父に呼び出され、経緯を説明された。
聖女とは、教会が指定した役職で、最高権力者の教皇に対して、象徴的な意味合いを持つ。教会の運営に直接関わることはないが、大きな影響力を持っている。コーガルの教会のフランシス神父が言うには、現聖女は、フリアという若い女性で、回復術師としての能力も高く、人格者らしい。
「フリア様は、教会の良心とも呼ばれていて、度々教皇派とも衝突していました。他種族を排斥する教えにも異を唱え、私たち新教会にも一定の理解を示してくれています」
「そうなのですね。ところで、どうしてこちらに?」
「少し言いにくいのですが、私たち新教会の調査です。書面によると、これでもかというくらい、我々の悪行が記載されていました」
書面を確認する。書面にはこう記載されていた。
1 新教会は、危険な魔物やアンデットを使役し、更に魔物を使って怪しい実験を繰り返している。
2 新教会は、非人道的な拷問を繰り返している。
3 新教会は、危険な薬物や術式を使用して、重篤な症状の患者に人体実験まがいのことをしている。
4 新教会は、危険な魔族と交流を持ち、怪しい施設を多数建設している。
5 新教会は、巫女という得体の知れない怪しい者を認定し、活動させている。
6 巫女は、夜な夜な怪しい仮面を被り、無差別に通行人を襲い、血塗れにしている。
7 巫女は、危険な魔物やアンデットを使役して、怪しい儀式を行っている。
以上の状況から、危険な団体と言わざるを得ない。よって、調査が必要である。
「これは明らかに教会関係者が意図的に流したデマです。そうですよね?」
主語を「新教会は」から「コーガルは」に変更すれば、8割方正しい。「無差別に通行人を襲い、血塗れに・・・」のくだりは、大嘘だが、「怪しい儀式」を行っていると言われても、仕方がないことをしている。つまり、嘘八百とは言い切れない。それにほとんどが私のことを指している。
「誤解されているのでしょうか?」
「そうかもしれません。それとフリア様は、巫女、つまりエミリア様とは、いい関係が築けると思われていたらしく、この書面を見てショックを受けられているそうです。それで、直々に調査したいと調査隊に志願したようです」
まとめると、新教会の活動には好意的だった聖女が、怪しい噂を聞いて、直々に調査に来るというわけだ。つまり、聖女がやって来る原因、それは私にあるようだ。
★★★
このことを領主のルミナに伝えたところ、コーガルの町を上げて大歓迎することになった。ルミナが言う。
「聖女様には、コーガルの良さを伝えようと思います。報告書を読む限り、誤解を招くような文言が並べられていますし、ここに来てもらえば、きっと気に入ってもらえるでしょう」
表面的に見れば、教会側が送りつけてきた書面のとおりだが、本質は違う。ルミナもどうにかして、誤解を解こうと思っているのだ。
「なので、視察をしてもらう施設を選定し、対策を練りましょう。すぐに関係者を集めて会議をしなければ・・・」
そんな話をしている時、子供の泣く声が聞こえた。
「もうあの子ったら」
「ルミナも無理しないでね。私もできることはするからね」
ルミナとドノバンの子供だ。男の子で名前はアレク君、将来はホクシン流剣術道場に入門させると言ってくれている。道場主として嬉しいかぎりだ。でも、ルミナが遠いところに行ってしまったような気がした。
どうして、私に幸せは訪れない?
ポコもリンもメイラも・・・最近ではマインちゃんとルト君もいい感じだし・・・一体何が、違うのだろうか?
それは置いておいて、私はやるべきことをやらなければならない。私は仕事に生きる女だかね。
ルミナと別れた私は、関係各所を調整に回った。ルミナはコーガルの誇れる部分を担当し、私は主に教会に指摘されている怪しげな施設を周る。
最初に訪れたのは、拷問所だった。所長のマホットに事情を説明する。
「なるほどのう・・・だったら見せつけてやったらどうじゃ?こちらに喧嘩を売ると、こうなると脅すのじゃ」
「さ、流石にそれは・・・」
「そうか。なら仕方がない。聖女がいる間は、激しい拷問は行わないように指示しておこう」
拷問はやるのかよ・・・
「ついでに魔法研究所についても、お願いします」
「承知した。ネクロデスだけ、表に出さんようにすれば、何とかなるじゃろうしな」
魔法研究所の主任研究員たちは、ネクロデスを除いて、皆それなりに功績が認められている。植物関係の研究をしているクルンはもちろん、ポーション関係のポーラもポーション研究の第一人者として有名になり、「魔石爆弾で帝都を爆破する」と言っていたデミコフも評価されている。というのも、魔石自体が爆発する魔石もあるので、そもそもが危険な物という認識だ。それよりも、魔石の有効利用についての研究が評価されているのだ。
そして、ゴーレム研究のカイラも最近は、キラーゴーレムシリーズだけでなく、生活に役立つゴーレムを研究しているからね。問題はネクロデスだ。
私はネクロデスに事情を説明した。
「つまり、最大の敵である教会に我々「不死の軍団」の戦力を知られたくないということですね。だったら協力しましょう。ここで聖女をアンデットにするのもいいですが、聖都をアンデットで溢れかえらせることの方が有効ですからね」
やっぱり危険な奴だった。
ネクロデスもスケルトン作成の成功率が上がっているようで、現在は10体に1体はできるようだった。
「なんというか、勘といいますか・・・最近コツを掴んで来たように思います」
頼むから掴むな!!
最近ネクロデスは、イシス帝国から教会に対象を変えたようで、企画書を提出してきた。そこにはおぞましい内容が記載されていた。教会を丸ごとアンデットに変えて・・・みたいなことが、たくさん書かれていた。
「次はいつ聖都に攻め込みましょうか?ああ・・・楽しみだなあ」
「とにかく、聖女の前には出ないでください。やる、やらないは別にして、今はバレないように」
「分かりました。大事の前の小事ですね」
何とかネクロデスの説得に成功した私は、魔王城に向かった。
「魔王城は誰も挑戦でも受ける。聖女にも挑戦してもらえばよかろう。魔王に挑む聖女か・・・いい世界観じゃ」
まあ、ここは国はギルドが優良ダンジョンと認めているから、心配はしていないけどね。
そして、とうとう聖女が町にやって来た。
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