96 ダンジョン
ハイエルフ、それはエルフの始祖と言われる伝説の種族だ。長命種であるエルフでも比べ物にならないくらいの寿命を持ち、魔王の説明によると目の前にいるエレンシアは悠久の時を生きているとのことだった。見た目は普通のエルフと大差はないが、なんかこう・・・オーラを感じる。
「貴方がエミリアちゃんね!!そしてこっちがライライちゃん!!本当に会いたかったわ!!とりあえず、ケーキを食べてよ。この日のために焼いてきたのよ」
「ライライ!!」
貰ったケーキはかなり美味しかったが、私のハイエルフのイメージは崩れ去ってしまった。その辺にいる普通のオバちゃんといった印象を受けた。気さくと言えば気さくなんだけどね。
「エレンシアよ!!さっさと本題に入れ!!妾は忙しいのじゃ」
「もうマオったら、相変わらずね。可愛い顔が台無しよ」
エレンシアは魔王の頭を撫で始める。
「や、やめろ!!気安く触るでない!!」
「もう!!久しぶりなんだから、いいじゃないの!!」
極悪な魔王が伝説のハイエルフに愛でられている。
私は何を見させられているのだろうか?
そんなじゃれ合いがひと段落したところで、魔王が言った。
「エミリアよ。しばらくはエレンシアの手伝いをしてほしいのじゃ」
「そうなの?でも大丈夫?」
「大丈夫じゃ。エミリアはこれでも「初級ダンジョンスタッフ検定」に合格しておる」
「だったら大丈夫ね」
初級ダンジョンスタッフ検定?
もしかして、バイトリーダーになるために受けさせられていた試験のことか?
私はどうやら、知らぬ間に怪しい資格を取得させられていたようだ。
★★★
早速、エレンシアと打ち合わせをする。
「まずは私のことから話すわね。驚くかもしれないけど、私もマオも実はダンジョンマスターなのよね」
「そ、そうなんですね・・・」
「あまり驚かないわね・・・」
驚くというか、魔王がそんな存在だということはずっと前から予想はしていた。ただ、魔王はダンジョンという言葉に拒否反応があるように感じる。
「マオ様は、『魔王城はダンジョンではない』と言っておられましたが?」
「あの子はまだそんなことを言っているのね・・・それには訳があるのよ。知っていると思うけど、ダンジョンとは、ダンジョンポイントというエネルギーを集める場所、まあ大きな装置といったほうがいいかしらね。だから、ほとんどのダンジョンマスターは効率よく、ダンジョンポイントを集めるためにテンプレのダンジョンを設置するのだけど、マオはそれが許せないみたいなのよ。あるときからダンジョン協会の会合にも来なくなったしね。最後に出席した会議でマオはこう言ったわ。
『妾の魔王城は、ただダンジョンポイントを集めるだけの装置ではない。崇高な目的の達成と多くの者を救うために存在しているのじゃ!!だから、ポイントを集めるためだけにある他のダンジョンと魔王城を一緒にするでない!!』
ってね。久しぶりに見たけど、上手くいっているようだし、安心したわ」
魔王は何かの目的のためにダンジョンを運営していることは間違いないだろう。それが悪い目的でない事だけは祈るけどね。
「マオ様は、社会貢献にも力を入れられています。弱小種族であるゴブリン族にも目を掛け、多くの孤児や問題児たちも魔王軍に受け入れてます。それに世界平和にも貢献されていると思います」
「エミリアちゃん、貴方はよく分かってるわね!!マオが気に入るのも分かるわ。最近、私もマオが言っている意味が分かるようになったのよ。だから、マオに協力することにしたのよ」
エレンシアが言うには、ダンジョンポイントの獲得だけに主眼を置いたダンジョンが200年程前に乱立し、良心的なダンジョンも被害を受けたという。
「酷いダンジョンなんて、ダンジョンポイントだけを獲得したら、すぐに閉鎖するところもあったのよ。だから、真面目にやっているダンジョンマスターが迷惑を被ったわけよ。それで皆気付いたの、マオが正しかったってね。私だって、そんなダンジョンと自分のダンジョンを一緒にされたくないわ。マオが『魔王城はダンジョンではない』と言ったのも理解ができるわ。今日ここに来たのも、マオから依頼があったのもそうだけど、マオにダンジョン協会の会長をお願いしに来たのよ。まだ、いい返事は貰ってないけどね」
魔王はダンジョンマスターとしても、かなりの地位いるようだ。それと魔王城をダンジョンと呼ばれるのを毛嫌いする理由も分かった。
「まあ、その辺は置いておいて、依頼はきっちりやらないとね。ダンジョンを作る場所はマオに指定されたから、魔王城やデモンズ山と客層が被らないようにしないといけないからね。だから、エミリアちゃんに手伝ってもらえって、マオに言われたのよ」
「私がお手伝いですか・・・ご期待に添えるかどうか・・・」
「大丈夫よ。エミリアちゃんがやるのは、ほとんどが力仕事だからね」
本当に力仕事だった。ダンジョンに出現する魔物を集めるのがメインの業務になってしまった。
「マオは、魔物発生装置を設置しない主義だからね。世界観が何とか言ってね。だから、ダンジョンのコンセプトに合った魔物を集めて来るしかないのよ」
「ところで、お伺いするのですが、マオ様が言う世界観とは一体何なのでしょうか?」
「詳しくは教えてくれなかったけど、ダンジョンにはそれぞれテーマがあって、挑戦者とダンジョンマスターがお互いに死力を尽くして戦うことが重要だと思っているようなの。だから、ダンジョンのテーマに沿わないことをすると激怒するのよ。魔王城のテーマは、強力な力を持った魔王を勇者が討ち倒しに来る設定で、勇者の能力を引き出すことにあるからね。だから、魔王城のスタッフが挑戦者と必要以上に仲良くすることは好まないから、スタッフは変な恰好をさせられているのよね」
なるほど・・・魔王は何かしらの理由で、勇者を育てようとしているのか。
「ところで、今回のダンジョンのテーマは何でしょうか?」
「それはね。「世紀の大発見」よ!!」
すぐにその意味は分かった。最下層の設置されている宝箱の中身を見せてもらったからだ。
「これって・・・」
「質問はここまでよ。それは発見者がゲットしての、お・た・の・し・み」
エレンシアに釘を刺されたから、これ以上は言えないが、魔王の恐ろしさを知ってしまった。
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