95 宗教改革
イシス連邦国の発足から2ヶ月、私は領主のルミナから再び呼び出しを受けた。領主館に赴くとドノバン、祖父、魔王がおり、すぐに情勢の説明があった。
「イシス連邦国とは良好な関係が維持できそうです。3ヶ月後には、即位したリリアン女王がコーガルに来られ、ニシレッド王国、魔王国と三国で同盟を結ぶ手筈になっております。そうなると、教会といえどもそうそう口出しはできないでしょう」
となると、ここにニシレッド王国の国王陛下とイシス連邦国のリリアン女王が来るということだ。また警備が大変になるな。
「エミリアお姉様、「警備が大変だ」という顔をされてますよ。そのお願いもありますが、ここに集まってもらったのは、他にも理由があるのです。すぐに本題に入りましょう。お客様をお連れしてください」
エミリアに言われて入室してきたのは、教会の神父フランシスとシスターのテレサだった。
「国王陛下、リリアン女王、マオ様と協議の結果、今回はこちらから仕掛けてみようという話になりました。それでフランシス神父をお呼びしたのです。フランシス神父も、今の教会の腐敗ぶりには心を痛めておられますからね」
フランシス神父が言う。
「そのとおりです。民のことを思わない教会なんて、潰れてしまえばいいのです」
かなり過激な発言だ。
私は質問した。
「教会に対して、何かしらの工作を仕掛けようというのは分かったけど、具体的には?流石に教会を片っ端から焼き討ちにするとかは賛成できないわ」
「ご安心ください。作戦はきちんと練っていますからね。まずは教会の実情について、フランシス神父に説明してもらいます」
フランシスが説明を始める。
「まず教会がここまで力を持っている理由についてですが、エミリア様、お分かりでしょうか?」
「そ、それは・・・偉大なる神のお陰ですか?」
「腐った教会幹部が喜びそうな回答ですね。本当にそうならいいのですがね。まあ、それも一つの要因ではあります。つまり権威ということです。ただ、それだけではここまで大きな力を持つことはできませんでした」
フランシスが言うには、教会の権威を維持するのに大きな力を持っているとのことだった。
「まずは武力です。自前で神官騎士団を持っていて、小国が太刀打ちできないくらいの戦力があります。それに加えて、旧イシス帝国と組むことによって、旧イシス帝国の武力も利用することができていました。こちらは先の戦役で、イシス連邦国は教会と決別したようですが・・・」
結局、どんなことでも行き着く先は武力だ。最終的に「だったら戦争します?」と言えば、ほとんどの国が言いなりだったという。しかし、旧イシス帝国と協力関係が途切れたことで、かなり弱体化しているようだ。
「次は資金力です。武力を背景にして賄賂を要求したり、各国から補助金という名目で私腹を肥やしていました。また、こちらも高度治療センターが設立されたことで、大幅な収入減となっていますが、治療報酬を独占していたことは大きかったですね」
武力も弱まり、高度治療センターと同種の施設を国に作れば、不当な賄賂や補助金を教会に支払わなくてもよくなる。これは教会にとって大打撃だろう。
「最後は裏の仕事です。犯罪組織カラブリアとも関係があることなのですが、後ろ暗い仕事を行ったり、諜報活動で、各国の弱みを握っていました。カラブリアの構成員の体に刻まれた魔法陣を確認させてもらいましたが、間違いなく教会の暗部の技術です。信じたくはありませんが、教会の暗部がカアラブリアと思って間違いないでしょう」
ここで魔王が話を引き継ぐ。
「そこでじゃ。教会が今、弱っておるのは分かるじゃろう?じゃから、更なる工作を仕掛ける。神官騎士団を無力化し、権威も奪うのじゃ。そうすれば、焦った教会の奴らは、手荒な手段に出るじゃろう。そうすればチャンスじゃ。カラブリアが動き出す。お主の母親の仇も取れるじゃろう」
「つまり、教会を更に弱体化させることで、使える駒が犯罪組織カラブリアしかない状況にさせるということですね?具体的に何をすれば?」
質問してみて思ったが、全部私に対して説明をしてくれているようだった。他のメンバーは事前にすべてを把握しているようだったしね。
「察しがいいな。つまり、エミリアにやってもらいたいことがあるからじゃ。これから忙しくなるぞ」
また厄介事か・・・これでも私は道場主として多忙を極めているのに!!
嘘でした・・・道場主の仕事は今のところ、全くないです・・・
★★★
教会の権威を奪う計画は驚きだった。フランシスが中心となり、コーガルに新教会を立ち上げるという。つまり、今の教会の上位互換をコーガルに作るということだ。これについては、国王陛下もリリアン女王も承認しているという。
ルミナが言う。
「治療術師については高度治療センターがあるから問題ありませんが、早急に神官騎士団を作らなければなりません。カリキュラムは他の養成コースと変わりありませんが、ホクシン流剣術道場に神官騎士養成コースを設立します。次代の騎士たちが育つまでは、ホクシン流剣術道場の門下生から希望者を募り、間に合わせようと考えています。なので、エミリアお姉様には、ドノバンとともに神官騎士団の育成をお願いしたいのです」
「それは構わないわ。武術だけでなく、道徳教育にも力を入れたほうがいいわね」
「その辺は、フランシス神父にお願いします。最悪はレミールさんでもいいですが・・・」
カリキュラムについては、普通のコースに宗教教育を取り入れれば何とかなるだろう。
「時間を掛ければ、それなりの神官騎士団は作れるとは思うけど、今の教会は長い歴史があるし、一般信者は、すぐにこちらの新教会に鞍替えするのは躊躇すると思うんだけど・・・」
「それについても、抜かりはない。妾に考えがある。基本的に今の教会の教義と大して変わらんが、多種族共存の思想を広めようと思うのじゃ。その方法も考えてあるからのう」
「ということは、獣人や亜人たちの信者を増やすということですか?」
「そのとおりじゃ。まあ、それだけではないがのう」
魔王の発言のとおり、多くの亜人や獣人たちが新教会の設立に協力してくれることになった。それに神官騎士団だが、人族、獣人の他にエルフもダークエルフもオーガもゴブリンもいる。カオス状態だ。
「獣人や亜人たちが迫害されてきたのは、人族よりも能力は高いが数が少なく、まとまりがなかったからじゃ。それも今回の神官騎士団の設立で解消する。ここまでまとまった戦力があれば、恐ろしくて迫害なんてできんからのう」
誰が好き好んで、こんな戦力に喧嘩を売るのだろうか?
「それとエミリアが言っておった権威付けについてじゃが、それも考えておるぞ。この後魔王城に来るといよい」
魔王とともに魔王城に向かう。そこでハイエルフの美女を紹介された。エレンシアという女性だった。
多分この女性と一緒に何かさせられるのだろう。また、嫌な予感しかしない。
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