93 イシス帝国 2
私は魔王にダンジョンのコンセプトについて質問をした。
「そうじゃ、伝えるのを忘れていたのう。ここはデモンズ山と違ったコンセプトを考えておる。見たところ、草木がほとんど生えていないから、キノコや薬草の栽培には向いておらんから、地下にダンジョ・・・ではなく、施設を作ることにする。採取できる素材も鉱石がメインじゃな。それと塩も取れるようにするぞ」
魔王はかなり考えている。この付近で塩が取れるところがないので、安定した収入が得られるしね。ただ、イシス帝国からすると理由を付けて侵攻してくる可能性は十分にあるけどね。
「それで今回ウインドルはボスではなく、山の守り神としての役割を演じてもらう。偶にやって来てご褒美を与える存在じゃ。ここに常駐させるわけにもいかんからな」
因みにデモンズ山は、火竜の里に近いので、フランメがいない時は、他の火竜が交代でフランメの役をやっている。
「分かりました。それで商人たちに売り込んでみますね」
「そうしてくれ。それとこの者たちを紹介しておく」
魔王に紹介されたのは、茶色のトンガリ帽子を被った小人たちだった。ハーフリングよりも小さい。
「この者たちはノーム族じゃ。鉱山での採掘が得意じゃからな。この者たちが、溶け込めるようにも配慮してほしい。それと山開きは盛大にやるから、そのつもりでな」
次から次へと指示受ける。
結局、私がやることは・・・
1 アトラス山に挑戦する冒険者を増やす
2 ノーム族の定住支援
3 山開きの式典準備
4 防衛能力の強化
★★★
最初にやったのは、インフラの整備だ。商人のレドンタさんやモギールさんの伝手を使って、冒険者が滞在できる施設を建設してもらうことだった。レドンタさんが言う。
「アトラス山にも調査に行ったのですが、ミスリルが採取できましたよ。すぐに我が商会の施設を建設しますよ。それと冒険者ギルドについても手配しておきましたよ」
レドンタさんの伝手で、冒険者ギルドも設置してくれることになった。これで、ある程度の冒険者を確保できることになった。
続いて、ノーム族の定住支援だが、こちらは特に心配はなかった。というのもノームたちは真面目で働き者で、復興のために故郷に戻って来た人たちにもウケがよかった。また、鉱石目当てでドワーフが移り住んで来たり、多種多様な種族が多く居住することになったので、取り立ててノーム族がどうこうということはなかった。
それにスケルトンやグールが普通に作業している状況では、ノーム族なんて誰も気にしていないからね。
そんな感じで開発は順調に進む。
正式な山開きはまだだが、実験的に冒険者がアトラス山に入り、素材採取やマッピングなどを行っている。アトラス山は、デモンズ山に比べれば強い魔物はおらず、初級、中級の冒険者にも活動しやすい場所になっている。これも魔王の戦略のようだった。
「妾も復興には力を入れておる。だから、敢えて魔物のレベルを下げておるのじゃ。多くの冒険者に来てもらいたいからのう」
魔王なりによく考えているようだ。
ここで防衛能力の強化と盛大な山開きについては、ある人物を頼ることにした。それはリリアン皇女だった。
「エミリア先生、お久しぶりです。アトラス山の山開きにお招きくださいまして、ありがとうございます。手土産と言っては何ですが・・・」
ルミナに細かい調整を頼んだのだが、この地域を自治区として正式に承認することをリリアン皇女は確約してくれている。
「元々、我々イシス帝国が無理やり奪った土地ですからね。復興が進めば独立も承認いたします。復興が進むまでは、責任を果たさなければならないとも思っています」
リリアン皇女の構想では、イシス帝国の前身であるイシス王国の領土以外は基本的に自治区にするというもので、希望があれば独立も承認するとのことだった。そして国名もイシス帝国からイシス連邦国に改めるそうだ。領土拡大、他種族排斥の第一皇子に対抗するための施策だという。
「この自治区の関係が上手くいけば、多くの地域が私に賛同してくれると思いますからね。それにこの自治区で我が国軍の基幹部隊である重騎兵隊の養成所も作ろと思っています」
「そうなんですね。でも領土が減ってもいいんですか?」
「構いませんよ。そもそも領土拡大政策の根底にあるのは、他国に侵略されるという恐怖なのです。皮肉なことにその恐怖は領土が広がれば広がるほど、大きくなるんですよ。いい機会ですから、思い切って方向転換することにしたのです。今ならニシレッド王国を中心とした同盟に入れば、侵略されることもありませんからね」
リリアン皇女が皇帝となれば、世界が平和に近付くと思える。しかし、第一皇子の考え方とは水と油だ。大規模な衝突は回避できないだろう。問題は被害を如何に小さくするかだろう。
そんなこんなで、無事に山開きを迎えることができた。ウインドルの挨拶も無事に終わり、母親の風竜王もご満悦だった。そして、もっとも反響があったのはリリアン皇女が自治領の独立を認めると発言したことだった。
「イシス帝国は多くの国や地域を武力で制圧してきました。しかし、そんな時代は終わりました。自治領の独立を認めます」
この地には各国の諜報部隊が多くやって来ている。彼らを通じて、世界各国にこの情報は伝わるだろう。
魔王が言う。
「平和を求めて戦争が始まるかもしれんな。皮肉なものじゃが・・・」
★★★
リリアン皇女も魔王と同じような見解だったため、ドネツク率いる重騎兵隊とゴーブルが率いるゴブリンライダー隊、この草原地帯が故郷の軽騎兵隊が厳しく訓練をしている。リリアン皇女が言う。
「この地の統治が上手くいけば、イシス帝国は崩壊するでしょう。そうさせないためにも、第一皇子派はここに攻め込んでくると思います。戦争をしたいわけではありませんが、仕方がないことだと割り切るしかありません。この地で決着をつけようと思っています」
どうやら戦争は不可避のようだった。
山開きから2ヶ月後、シャドウが現れた。
「極秘情報だ。第一皇子派が動き出した」
とうとう本格的な戦争が始まるようだ。
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