92 イシス帝国
ある日、ルミナから呼び出しを受けた。
内容はイシス帝国の件だった。ルミナの説明によると、イシス帝国は現在内戦状態だという。
「我が国との戦争で、イシス帝国は歴史的大敗を喫しました。それで、多くの地域で独立運動が加速しました。責任を取る形で、次期皇帝を指名することなく、皇帝は退位しました。それで、親ニシレッド王国で多種族共存主義のリリアン皇女派と今まで通り、教会との連携を強化していく第一皇子派とで内戦が勃発しています。ニシレッド王国としては、現在のところ静観の構えをしていますが、要請があればリリアン皇女派の支援に当たることが決定しています」
第一皇子派は、今まで通り領土拡大、他種族排斥が信条だから、リリアン皇女派をニシレッド王国が支援しても不思議ではない。
魔王が言う。
「勝手にやらせておけばよいのではないか?イシス帝国が弱るのはニシレッド王国としても有難いじゃろうしな」
「マオ様の意見も理解できますが、人道的理由もあるのです。第一皇子派は、併合した領土や他種族の自治領での締め付けを強化し、重税や無理な徴兵で死人まで出していると聞きます。被害者を出さないためにも内戦への介入は仕方がないとの判断です」
「難しいところであろうな。準備だけはしておこう。部隊の編成はすぐにせねばならんしな」
「ありがとうございます。それで私事ではありますが、今回私は戦場に立てません。ご迷惑をお掛けします」
ルミナが戦場に立てない理由はご懐妊したからだ。実は私の周りでは結婚ブームなのだ。身近なところで言うとポコがエルフの王子であるルーデウスと、リンがなんとゴーケンと結婚し、共にご懐妊しているのだ。更にルミナ専属メイドのメイラはルミナが領主となったのを機にバンデット伯爵と結婚している。ルミナの手前、メイラが遠慮していたのがその理由だった。
悲しいことに私に春はまだ来ていないけどね・・・・
「気にすることはないぞ。妾たちだけで、十分にやれる。その分、ドノバン殿に頑張ってもらえばよい」
魔王はそう言うが、気心の知れたポコとリンと活動できないのは厳しい。私のことを理解してくれるのは、二人を除けばポンくらいしかいないからね。気を遣ったのか、会議終了後にポンが声を掛けて来た。
「俺はエミリアの部隊に志願するよ。他に誰も志願しないだろ?」
「そ、そうだね・・・でもいいの?」
「大丈夫だ。臭いさえ我慢すれば何とかなる。最近、魔法研究所が消臭ポーションを開発してくれたからな」
「臭いだけじゃない気がするけど・・・」
すぐにポンは後悔することになる。魔王から、仮面とコスチュームを着るように言われたからだ。
「本当にこれを着るのか?」
魔王が言う。
「ポンにも言っておくが、世界観を壊さないためじゃ。活動中は装備を身に付け、役を演じきるのじゃ」
因みにポンの仮面は、ゾンビだった。
「今日からお主はゾンビ仮面じゃ。髑髏仮面とともに血塗れ仮面を支えるのじゃ!!」
「は、はい・・・」
次の日に早速部隊の顔合わせと訓練を行った。顔合わせと言っても大半が人外だけどね。覚悟していたポンも弱音を漏らす。
「臭いはマオ様から貰った仮面に防臭効果があるし、見た目も慣れたからいいけど、住民の視線は辛いな・・・エミリアはよく耐えられているな」
私だって、平気なわけじゃないわよ!!
しかし、心無い住民は私たちの訓練を見ながら嘲笑している。
「新しいキャラが登場したぞ!!」
「今度はゾンビ仮面らしいわよ」
「血塗れ仮面を巡る三角関係か?」
「プロポーズはの言葉は『一緒にスケルトンになろう』かしら?」
完全にネタ枠の部隊になってしまっている。
★★★
2週間後、私の部隊に出動命令が下る。
まだ、リリアン皇女から軍事的な援助要請はなされていない中での出動だ。行先はイシス帝国領にある砂漠で、魔法研究所の植物研究をしているグルン研究員の故郷だという。
「出兵ではなく、あくまでも人道支援じゃ。荒れ果てた砂漠を元の草原に戻す手伝いをしてほしいのじゃ。検討の結果、エミリアの部隊しか活動できんからのう」
私の部隊しか活動できないって!?
その意味はすぐに分かった。自然環境が過酷するぎるのだ。砂漠だから昼間は灼熱の暑さ、夜間はかなり冷え込む。そのような中で昼夜ともに活動できるのは、私の部隊しかいないよね・・・
今回、部隊以外で活動を共にするのは、グルン研究員と共にポーション研究者のポーラ研究員とゴーレム研究者のカイラ研究員だった。植物を育てるのにポーションが必要になるし、ゴーレムも自然環境に左右されずに活動できるからね。
すでに三人は現地入りしているという。
「これは極秘情報じゃが、現地にあるアトラス山をウインドルの棲み処にする予定じゃ。最近頑張っておるウインドルにも棲み処を与えてやらねばならんからのう」
多分だけど、ダンジョンにするつもりだろう。それと極秘情報って、魔王もシャドウに影響されているのかもしれない。
「現地には、妾もウインドルやスタッフと共に向かう。デモンズ山と同じように冒険者が集まるような施策を考えておけ」
また無茶振りだ。
でも魔王の中では、私のためを思ってやってくれているんだろうが、いい迷惑だ。ただ、「迷惑です」と言えないところが辛い。
現地にはフランメに乗ってピストン輸送を繰り返した。我が部隊の内訳は、人間が私、ポン、ネクロデス、魔物がクマキチ、クマコ、そしてホネリンをリーダーとするアンデット約3000体だ。現地に着くとグルン研究員たちがスタッフとともに作業をしていた。作業している場所付近はかなり緑化されていた。
グルン研究員から話を聞く。
「マオ様のお陰で、かなり回復しています。順調に行けば、3年程で元通りになるでしょう。問題は、回復した後にまた、無茶な開発をさせないことですね。そのための施策を考えないといけませんが・・・」
グルンが言うには、この地域が荒れ果てたのは、イシス帝国が無茶な開発をしたことによる。大量の家畜に草を好き放題に食べさせ、アトラス山の木々を根こそぎ伐採したそうだ。
「この地が回復したら、きっとイシス帝国はまた、搾取しにくるでしょう。しかし、今度はそうさせません。ネクロデスたちと話したのですが、今度は私たちが帝国軍を返り討ちにしてやろうってね」
この地に防衛機能を持たせ、併せてアトラス山にも冒険者を集めなければならない。何かいい方法はないものだろうか?
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