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91 壮絶な勘違い

「誰ですか?」


 私の発言で、場は凍り付く。すかさず、ポンがフォローしてくれる。


「エミリア!!照れくさいからって、冗談を言う雰囲気じゃないことくらい分かれよ!!そうやって、気付かないフリを続けていたら、後悔するぞ」


 気付かないフリではなく、本当に記憶に無いんだよ!!


 ここで祖父が発言をする。


「コジール!!エミリアがそうなるのも無理はない。8歳のエミリアにしてみれば、見捨てられたと思うだろう?」

「そうですね・・・エミリア、俺が悪かった。俺のことを父と認めてくれとは言わん。お前の元気な姿が見れただけで、十分だ」


 ここでやっと分かった。シャドウは、失踪中の私の父、コジールだったのだ。私としては、どう対処していいか分からなかった。10年以上会っていなかった父親に何を言えばいいのだろうか?


 ポンが言う。


「エミリアも何か言えよ!!」


 そう言われてもなあ・・・


「お久しぶりです。お父様・・・」


 祖父が引き継ぐ。


「エミリアは詳しい事情を知らんから、説明をしてやろう。エミリアも、もう立派な大人じゃから、受け止めることはできるじゃろう。まずは我らホクシン一族の秘密から・・・」


 祖父が語った内容は衝撃的だった。

 まず、私の母は産後の肥立ちが悪くて亡くなったのではなく、犯罪組織カラブリアの手によって惨殺されたのだという。そして、ホクシン一族は代々ニシレッド王国の暗部として活躍して来た歴史があるようだった。


「そしてコジールじゃが、カラブリアを探るためにコジールはシャドウとなり、世界各地で情報収集を行っていたのじゃ。勘当したのも書類上のことで、実際は連絡を取り合っていた」


 私は放心状態になった。パニックになった私は、思い掛けないことを口にしてしまう。


「だったらお父様の借金っていうのは何だったのですか?私はこれまで、一生懸命に借金返済をしてきたのに!!」


 場は微妙な雰囲気になってしまった。生き別れになった父と再会して、いきなりお金の話を始めたからだ。


「そのことについても話そう。それには深い訳があったのじゃ。エミリアよ、これを見てほしい」


 祖父に渡されたのは、「国家情報局」と書かれた帳簿だった。

 見て驚いた。コーガルの年間予算の5倍の資金がプールされている。


「儂は心を鬼にして、エミリアに試練を与えてきたのじゃ。剣の腕では、もうエミリアに勝てんから、資金面で追い込むことにした。これまでお前が治めてきた資金は、すべてプールしてある。多少は諜報活動に使ったがな」


 帳簿を確認すると驚きの事実が判明した。私が国からの借金だと思っていたものは、元をたどれば、すべてこの「国家情報局」から出されていた。最近建てられた高度治療センターを例に取ると、まず「国家情報局」からニシレッド王国に白金貨1000枚を貸し付ける。これを国が私にそっくりそのまま貸し付けたことになっている。国としては、資金は「国家情報局」から出されるので、実質ノーリスクで利子を受け取れる。因みに、コーガルの補助金も元をたどれば、すべて「国家情報局」から出されている。

 国王陛下が言う。


「エミリアのお陰で、国の財政状況もかなり改善されたのだ。本当に感謝している。実際はムサールが勝手に投資しては、エミリアの借金になり、こちらは利子だけ入って来るのだからな」


 そりゃあ、そうだろうよ!!

 今までの私の苦労は何だったんだ!!


「お祖父様!!言ってくれればよかったのに・・・私は本当に苦労したんですからね」


「それはすまんと思っている。しかし、これもお前の能力を開花させるためだったのじゃ。お前は気付いていないかもしれないが、お前は伝説の剣士と同じスキル、「背水の陣」を持っているのじゃ」


 なに!!「背水の陣」だって?


 祖父の説明を聞くと、その昔伝説の剣士は、逆境になればなるほど力を発揮したという。


「ここまでのお前の活躍を間近で見て来て、儂はそう確信した。恥ずかしながら、もうこの老体では、これ以上、お前を追い込むことができん。だから、こちらのマオ様に依頼をしたのじゃ」


 魔王が引き継ぐ。


「これを聞いた時、長いこと生きて来たわらわでも、俄かに信じられんかった。じゃが、言われてみると納得がいった。エミリアには、無理難題を押し付けたと思うが、それもお前の能力を開花させるためだったのじゃ。誰がドラゴンの指導やデモンズ山の開発なんかできると思う?依頼したわらわも半信半疑じゃったが、ムサール殿の見解が正しいことに気付いたのじゃ。これからも、お前に無茶な指示をするかもしれんが、すべてお前の為を思ってのことじゃ」


 祖父も魔王も根はいい人だ。本当に私の為を思い、心を鬼にして接して来たのだろう。しかし、私は声を大にして言いたい。


 馬鹿かお前ら!!私は断じて「背水の陣」のスキル持ちではない!!

「返し突き」が使えるだけのしがない剣士でしかないんだよ!!勘違いしやがって・・・


 しかし、周囲を見ると感動の雰囲気に包まれていた。お祖母様もルミナも涙を流しているし、ポンなんて、大泣きしている。ここで「違います」と言う勇気はなかった。


「そ、そうなんですか・・・お祖父様、マオ様、ご指導ありがとうございました」


 そう言うのが精一杯だった。


「国王陛下、お見苦しいところをお見せしました。つきましては、「国家情報局」の局長の件ですが、エミリアの判断に任せようと思います」

「うむ、エミリアよ。代々ホクシン一族は陰で「国家情報局」として尽力してもらっていた。ムサールの次の局長にお主をと考えているがどうだろうか?」


「どうだろうか?」って言われてもなあ・・・

 これ以上仕事を増やされたくないし・・・ていうか、もはや道場主の仕事でもない。


 私は名案が浮かんだ。


「私は一介の剣士です。いきなり局長は荷が重すぎます。できるなら今のままお祖父様が、どうしても無理なら、お父様にやってもらいたいと考えています。剣術以外、私はさっぱりですから・・・」


 まあ、剣士としてもさっぱりなんだけどね・・・


 祖父が言う。


「つまり、コジールを許すということだな・・・国王陛下、コジールを局長にしてもよろしいでしょうか?」

「うむ、元々正当な後継者はコジールであったから、我はそれで構わん」


 何とか局長就任は回避できた。



 ★★★


 その後、私、祖父、お祖母様、父、それになぜかポンと共に食事をすることになった。私としては、父のことを許すも許さないもない。ほとんど記憶にないからね。ただ、私がこんな苦労したのも、すべてカラブリアの所為というのは許せなかったけどね。


「今後はお母様の仇であるカラブリアの壊滅を目指して、精進します」

「そう言ってくれると助かる」

「ただ、しばらくの間、公の場では父としてではなく、シャドウとして接してくれ。これでも極秘任務を遂行しているからな」


 そんな話をしながら、食事会は終了した。

 祖父たちとはそこで別れ、私とポンはギルドに用事があったので、ギルドに向かう。向かう途中でポンに言われた。


「エミリア、何かあったら俺を頼ってくれ。これでも俺は影の軍団の副団長だからな」

「ありがとう、ポン」

「じゃあ、また明日」


 ギルドの用事は別々だったので、ポンともそこで別れた。

 帰る途中で、ギルドに併設されている酒場から冒険者たちの雑談が聞こえて来た。


「知ってる?シャドウさんはコジール先生っていう話は?」

「ああ、古い冒険者の先輩が言ってたやつだろ?」

「そうそう」

「シャドウさんは、いつも匂わせ発言してたもんな」

「それにあんな痛い存在は、親子じゃないと考えられないよな」

「そうね、普通はあんな恰好で素性がバレてない設定のまま、やり続けられないよ」

「一流の武芸者は精神力が違うんだろうな・・・」


 残念なことに親子共々、痛い存在と思われているようだ。父が必死で素性を隠していることもバレているしね・・・


 どうやら、私の痛さは遺伝かもしれない・・・

気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!


次回から最終章となります。

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