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90 動き出した世界

 勇者養成コースの開設から1年が過ぎた。全員が魔王城10階層の攻略に成功した。嬉しい限りだ。また、デモンズ山頂踏破パーティーも3組輩出した。つまり、勇者養成コースの受講者は、冒険者ランクで言うと全員がAランク以上、一部がSランク相当ということになる。これは快挙と言ってもいいくらいだ。Sランク冒険者なんて、大国でも国に3人もいないからね。


 そして今日は卒業式だ。

 ニシレッド王国の国王陛下だけでなく、多くの国から王族や高位貴族がやって来た。接待や警備などで、ルミナとドノバンは大変そうだったけどね。ここで活躍したのは戦闘メイド養成コースの卒業生たちだった。それぞれが有名貴族に仕えているにも関わらず、多くの卒業生が応援に駆けつけてくれた。本当に有難い。

 幸か不幸か、私はというと、卒業式で挨拶をするだけだった。


 卒業式では、多くの学生からお礼を述べられた。指導者冥利に尽きる。特にリリアン皇女とドネツクからは、本当に感謝された。


「ここに来て、本当によかったと思います。イシス帝国の在り方も考え直さないといけませんね。国に帰ってからが、私たちの腕の見せどころですよ」

「本当に世話になった。イシス帝国もゴブリン部隊を編成しようと思っている。ゴーブルと接して、ゴブリンに対する考え方が変わったしな」


「満足していただいて、こちらも嬉しく思います。国に帰っても頑張ってくださいね」


 別れ際、リリアン皇女は意味深なことを言った。


「また戦争が起きるかもしれません・・・多くの者は望んでいませんがね・・・」


 どういうことだろうか?

 リリアン皇女が言った意味は、すぐに明らかとなった。



 ★★★


 卒業式から3ヶ月後、私はルミナから呼び出しを受けた。

 領主館の会議室に着くとそこには、そうそうたるメンバーが集結していた。ゴーケンたち猛者はもちろん、祖父、お祖母様、シャドウもいる。そして魔王も・・・


「お忙しいところ、お越しくださいましてありがとうございます。早速本題に入らせていただきます。まずは、昨今の国際情勢ですが・・・」


 ルミナの説明によると、教会の影響力がガタ落ちしているそうだ。

 理由は様々だ。まず、勇者養成コースの卒業生だけでなく、コーガルで学んだ多くの武芸者が、各国で活躍しているそうだ。ここで少しコーガルの現状を解説しておくと、ホクシン流剣術道場だけでなく、多くの道場が人材育成に貢献している。一例を挙げると騎士を目指す者はオーソド剣術道場に、冒険者の技能を身に付けたい者はプラク道場の門を叩く。

 つまり、ホクシン流剣術道場が初心者とイカれた猛者のための道場、他の道場はホクシン流剣術道場だけではカバーしきれない専門家養成機関となっている。なので、コーガルで修業を積んだ者は、故郷に帰っても、その道のプロとして活躍しているというわけだ。


 また、チートモブキャラのドワーフの少女オグレンたちから教えを受けた職人たちの存在も大きい。

 安価だが、性能の良い武器、防具を故郷で量産している。そうなると、教会自慢の神官騎士団も太刀打ちできない。ただでさえ実力者が多くいる状況で、武器、防具の性能も勝てないのだから、神官騎士団の影響力はなくなってきている。なので、各国とも教会に忖度して、多少の悪事に目を瞑る必要はなくなった。


 そして資金面においても、教会の収入源であった各種治療業務のシェアを高度治療センターの卒業生が奪っているという。それはそうだろう、教会よりも治療費が格段に安く、適切な治療をほどこしているのだから。


「・・・ここまで話したとおり、教会の影響力は落ち、ニシレッド王国に賛同してくれる国々も増えてきました。今まで教会が大きな顔が出来たのも、神官騎士団という強力な戦力と治療業務という替えの利かない業務を独占してきたからです。それが今、崩れつつあるのです」


 その反動は大きく、教会自体を追い出した国も多くあるそうだ。


「コーガルで学んだ多くの者から善意で情報の提供も受けています。その中で、気になるのはイシス帝国、教会、そして犯罪組織カラブリアが裏でつながっているという事実です。情報によるとカラブリアの潜伏先は、教会とイシス帝国の出先機関が大半を占めています。我がコーガルも同様でしたしね」


 これは私も拷問を繰り返す中で、掴んでいた情報だ。公の会議で領主の立場のルミナが発言するということは、余程確実な情報を掴んだのだろう。


「以上の状況から、皆さまには有事に対応できるように準備をお願いしたいのです。近々、イシス帝国で、戦端が開かれる可能性が高いのです。ニシレッド王国としても出兵する可能性がありますからね」


 また戦争か・・・

 でも、卒業生のリリアン皇女の意味深な発言の意味が分かった気がした。



 ★★★


 会議終了後に私は、ルミナに別室に呼ばれた。呼ばれたメンバーは祖父、お祖母様、シャドウ、ポン、そして魔王だった。メンバーだけを見ても、おかしな感じがする。

 部屋に入ると更に驚きの人物がいた。なんと国王陛下だった。


「これは非公式な会合だ。挨拶などは不要だ。すぐに席に着け」


 国王陛下の指示で、すぐに着席する。


「まず我から発表がある。先日マオ殿と文書を取り交わし、正式にニシレッド王国と魔王国が同盟を結ぶことになった」


 魔王が言う。


「皆の者、今まで隠しておって悪かったのう。実はわらわこそ、魔王国の魔王なのじゃ。驚いたであろう?こんな普通の少女が魔王だったと」


 場は、微妙な雰囲気になった。誰も魔王が普通の少女とは思っていないし、かなり位の高い人物だとは、その辺の町の人でも分かる。絶対に普通の少女ではない。それにエルフの国で「我は魔族を統べる王、マオじゃ」って言ってなかったっけ?


「ここにおる者は胆力があるのう。普通なら腰を抜かすところじゃが・・・」


 その後は、同盟の詳細などの説明があり、発表は機を見てとのことだったので、超極秘情報扱いで対応するように指示があった。つまり、漏らしたら死刑ということだ。このメンバーなら大丈夫だけどね。シャドウ以外は・・・


「我からは以上だ。何もなければこれで終了するが、何かあれば申せ。非公式の場だから、自由な発言を許す」


 そんなとき、ポンが唐突に話始めた。


「この場を借りて言います。シャドウ師匠もエミリアも素直になったらどうですか?見ていて、辛いです。これからもっと激しい戦争になり、もしかすると命を落とすかもしれません。そうなったら二度と会えなくなります。そんな後悔はしてほしくありません!!」


 何を言っているんだ?私とシャドウに何が?


 これにシャドウが反応する。


「一番弟子にここまで言われるとはな・・・仕方ない・・・」


 シャドウが覆面を脱いで言った。


「エミリアよ、久しぶりだな」


 これに対して、私は場を凍らせる発言をしてしまう。


「誰ですか?」

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