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9 問題児入門

 早いもので道場を引き継いで1年が経過した。門下生が増え、道場としての運営も軌道に乗り始めたところで、厄介な奴が入門してきた。


 ドノバン・グラゼル、12歳。グラゼル侯爵家の三男で、パッと見は茶髪のイケメンなのだが、態度が悪すぎる。平民や獣人を馬鹿にし、二言目には「俺がグラゼル侯爵家の三男だと知ってのことか?」と言って脅す。当然、他の子供たちからは敬遠される。同じ貴族出身で、年齢も近いルミナに相手をさせたが、逆効果だった。


「廃嫡された馬鹿が偉そうに。それにお前のバンデッド家は落ち目らしいしな」

「黙りなさい!!」


 普段は温厚なルミナだったが、怒り狂ってファイヤーボールでドノバンの髪の毛を黒焦げにしていた。すぐに火を消したが、しばらくドノバンはアフロヘアで過ごすことになってしまった。


 こうなったら私が直接指導するしかない。具体的な方法は思い浮かばないけど、とりあえず、ドノバンの側について、みんなと同じカリキュラムをさせることにした。

 素振り、打ち込みから始まり、型の稽古、そしてみんなが楽しみにしているソフト模擬戦だ。私はドノバンとハーフリングのマインちゃんと試合をさせることにした。

 ドノバンは言う。


「こんなチビが俺の相手だと?舐められたもんだぜ、まったく・・・」


 ドノバンにきちんと礼をさせ、試合を始めた。最近マインちゃんは、徐々に力がついてきて、ソフト模擬戦も強くなった。まだソフト剣は上手く振れないけど、その代わりソフト短刀の扱いは上手い。それに素早さは一級品だからね。


 試合開始と同時に舐め腐ったドノバンがソフト剣を振りかぶり、マインちゃんに斬りかかる。


「これで終わりだ。チビが!!」


 しかし、ドノバンのソフト剣は空を斬り、マインちゃんのソフト短刀がドノバンの腹部に命中する。


「一本!!開始線に戻りなさい!!二本目、始め!!」


 試合再開すると、ドノバンは慎重になっていた。ソフト剣とソフト短刀の間合いの差を利用して、ソフト短刀の届かない間合いから攻撃を繰り出す。しかし、そんなことは想定内のマインちゃんは、ドノバンの間合いを探るかのように、間合いギリギリで、出たり入ったりを繰り返す。最初は慎重に攻撃していたドノバンも焦れてきて、次第に大振りになっていく。


 そして決着の時が訪れた。

 ドノバンが横に大きく薙ぎ払ったソフト剣をかいくぐって、腹部に突きを二発叩き込む。基本通りの「二段突き」だった。


「一本!!それまで!!」


 マインちゃんの鮮やかな二本勝ちだ。周囲から歓声が上がる。私が開始線に戻ってお互いに礼をするように促す。しかし、ドノバンは涙を浮かべながらソフト剣を床に叩きつけた。


「なんで、こんなチビに負けなきゃいけないんだ!!もうやめてやる!!」


 私は思わず、ドノバンをビンタしていた。


「貴方が投げたソフト剣は冒険者が死ぬ思いで集めた素材を使っているのよ!!(主に私が)それをぞんざいに扱って、作ってくれた人や冒険者に対して何とも思わないの!?(主に私に)」


「知るかよ、そんなこと!!」


「だったら教えてあげるわ!!その前に模擬戦をしてくれた相手にお礼を言いなさい。まずはそれからよ!!」


 渋々ドノバンは、マインちゃんに礼をした。


「ありがとうございました!!これでいいだろ?もう今日は帰る!!」


 ドノバンは道場を出て行った。こっそり後をつけてみると、ドノバンは木の陰に隠れて、こっそりと泣いていた。余程悔しかったのだろう。今日は、そっとしてあげるのが武士の情けだろう。


 次の日、訓練に出て来たドノバンに言った。


「マインちゃんに負けたことが悔しくて仕方がないなら、しっかりと訓練をしなさい。剣術だけでなく、魔法、体術と色々なクラスがあるから、積極的に受講しなさい。それに悔しがるほど訓練してないでしょ?」


「うるせえ!!いいから早く教えろよ。こっちは高い金を払ってんだからな」


「まずはマナーや礼儀からね・・・レミールさんに頼もうかしら・・・」


 最初にドノバンを連れて行ったのは、体術クラスにした。当然、開始5秒でレミールさんに殴り飛ばされた。このクラスは、レオ君を筆頭に血の気の多い獣人の子供たちが多いので、ドノバンにはいい薬になった。散々馬鹿にしていた獣人に全く歯が立たないんだからね。

 しかし、ドノバンは意外に根性があった。1週間も経つと獣人の子供たちからも一目置かれるようになり、レミールさんからも「よく頑張っているよ」と褒められていた。


 これなら、他のクラスも受講させてもいいと考え、ルミナが主催する魔法教室にも参加させた。因縁のある二人だが、ドノバンが謝って以後はいい関係が築けているようだった。


「前は悪かった。頑張るから魔法を教えてくれ」

「まあ、謝ってもらいましたし、言うことを聞いてくれるなら、教えて差し上げますわ」

「頼む、俺は強くなりたいんだ」


 ドノバンは魔法の才能もあったようで、ルミナほどではないにしても魔法が使える。すぐに初級魔法はマスターしていた。魔法を全く使えない私からすると、非常に羨ましい。


 そして、ポン、ポコ、リンが主催する冒険者の講義も積極的に受けることになる。冒険者活動といっても、Fランク冒険者でもやりたがらないドブ掃除や簡単な配達だ。それを門下生にさせ、その上前をはねるという鬼畜なクラスなのだ。前世の日本なら労働基準監督署が飛んでやって来るような案件だが、冒険者ギルドには評判がいい。未処理案件が片付くからね。

 これもドノバンは真面目に取り組んでいる。


「こんなに頑張って、これだけしか貰えないのか・・・無駄遣いしていた自分が恥ずかしい」


 本当はもう少し貰えるんだけどね。ギルドからの報酬をポンたちが4割、道場が4割、ピンハネしてるんだけど、それは言わないでおいた。


 そして3ヶ月後、マインちゃんと再戦することになった。ドノバンはしっかり礼をして、マインちゃんと対峙する。ドノバンはマインちゃんをかなり研究していたようで、結果はドノバンの圧勝だった。マインちゃんの「二段突き」を華麗に躱し、基本どおりの「二段斬り」を決めた。鳥肌が立つくらい素晴らしかった。

 試合の後、ドノバンはマインちゃんに握手をして爽やかに言う。


「君を目標に頑張って来たんだ。これからも一緒に頑張ろう」

「本当に強くなったね。今度は負けないよ」


 スポーツや武道ってこういうところが、いいんだよね。指導者冥利に尽きるよ。


 これを見ていたドノバンのお付きのメイドさんは涙ぐんでいた。そして、私にお礼を言って来た。


「実はドノバン様は、素行不良で王都の貴族学校を退校処分になったのです。昔は素直で優しい方だったのですが、優秀な兄二人に比べられて卑屈になっていきました。それがここに来て、昔のドノバン様に戻ったようです。本当にありがとうございます。半ば厄介払いでここに来たのに・・・本当に嬉しい誤算ですよ」


 今、厄介払いって言わなかったか?


 これを機にニシレッド王国全土から問題児が集まってくるようになるが、ドノバンが率先して指導してくれたので、私の手を煩わせることはなかった。皮肉なことに問題児を立ち直らせる剣術道場として、我がホクシン流剣術道場はその道では有名になってしまう。


 まあ、ほとんどが高位貴族の子弟だから、寄付金も入るし、儲かっていいんだけどね。

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