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88 勇者の育成 3

 ハーゴスが引き起こした事件はあったが、あれで逆に勇者候補生の結束は強まった。身分に関係なく、みんな仲良くしている。カリキュラム的にも勇者としての心構えを説く講義を入れたり、みんなと協力する大切さを教える活動も取り入れているからね。

 また、冒険者ギルドの協力の下、勇者たちにはドブ掃除などのFランク冒険者の仕事もさせていた。こちらは当初、反発もあったんだけどね・・・


「流石にこれは承服できん!!リリアン皇女にこのようなことを・・・」

「ドネツク!!やりましょう。これも経験です」


 勇者候補生の中で、一番位の高いリリアン皇女が率先して活動したことによって、全ての勇者がこれに従った。終わってみれば、大成功だった。


「下々の者の苦労が分かった。我らは驕っていたようだな・・・」

「ああ、こういった経験をさせてもらったことは感謝している」

「本国では絶対にできんからな」


 ギルマスのスタントンさんは、少し困っていたけどね。


「エミリア嬢には、参ったよ。皇女様にドブ掃除をさせるなんてな。依頼するこっちの身にもなってくれよ」



 そんな勇者たちだが、順調に成長する。

 勇者の実力を計るのに魔王城を利用しているのだが、全員が単独で5階層を突破した。目標は10階層の突破だ。10階層にたどり着き、ボスであるキラーゴーレムを討伐するには、冒険者ランクでいうAランク程度の実力が必要だ。勇者候補生でパーティーを組ませ、攻略に当たらせる。


 現在まで、10階層を攻略している冒険者パーティーはごく僅かだ。そのことからも勇者候補生たちが10階層を突破すれば、実力が認められるし、それぞれの国に帰っても、大きな戦力となる。他国の戦力が強化されることに不安がないわけではないのだが、ルミナや国の上層部は別の考えを持っているようだ。


「多くの国がある程度の戦力を持つことによって、迂闊に戦争ができなくなります。戦争で勝っても、大きな被害を受けるのであれば、やる意味がありませんからね。戦争なんて、外交の一手段でしかありませんから」


 最近、ルミナの成長が著しい。出会ったときは、世間知らずの魔法が少し得意なお嬢様だったのにね。



 ★★★


 そんな勇者候補生だが、群を抜いて強力なパーティーがいる。メンバーはリリアン皇女、ドネツク、ゴーブル、マインちゃんだ。他の勇者候補生が四苦八苦する中、このパーティーは早々に10階層の攻略を成功させていた。魔王も太鼓判を押す。


「一流の斥候のマインがいるから、罠やトラップに引っ掛かることもないし、ドネツクがタンクとなり、攻撃を防ぎきっている。リリアン皇女とゴーブルは器用だから、臨機応変に対応ができる。これならデモンズ山に挑戦させてもいいのではないか?」

「そうですね。このメンバーは別行動をさせてもいいかもしれません」

「うむ、最近は山頂に来る者もほとんどおらん。せっかく良い素材を用意したのじゃからな」


 ということで、このパーティーがデモンズ山踏破に臨むことになった。

 私がメンバーにその旨を伝える。


「知っていると思うけど、デモンズ山はかなり危険な場所です。無理強いはしません」


 リリアン皇女が質問してくる。


「現在、山頂まで踏破した者はいるのですか?」

「私たちとゴーケンたちくらいですかね。レミールさんやホルツさん夫妻は普通に行っているようですが、あの人たちは特別ですから・・・」


 一同、黙り込む。私はアドバイスをした。


「パーティーで話し合って、追加メンバーが必要なら冒険者ギルドで募集を掛けるなどの方法もあります。関係機関と連携するのも勇者として、必要な能力ですからね。それと安全面を考慮して、私やポンたちが救援班として帯同しますからね」


 これを受けて、リリアン皇女が言う。


「是非、やりましょう。個人的な理由ですが、私も功績が欲しいのでね」


 マインちゃんも賛成する。


「私も!!デモンズ山は何度も行ったことはあるけど、山頂まで行ったことはないからね」


 ゴーブルが言う。


「だったら、回復術士のメンバーを募集してはどうでしょうか?このパーティーには専門の回復術師はいませんしね」


 ドネツクも答える。


「俺もそう思う。これは軍を指揮して来た経験から言わせてもらうが、補給も大事だ。サポーターを雇うのも手かもしれんな」

「私は結構伝手があるから、メンバー募集は任せてよ。条件に合った人を見付けておくからね」


 このパーティーは仲が良い。結成当初は、こうなることは想像もしなかったけどね。

 というのも、このパーティーが結成された理由は打算だ。マインちゃんは、イシス帝国の動向を把握するためにリリアン皇女に近付いたし、リリアン皇女も私と仲が良いマインちゃんに近付いたのが、その始まりだった。そこにお付きのドネツクとゴブリンという理由で、他の者とパーティーを組んでもらえなかったゴーブルを加えて発足した。


 当初は少し、ギスギスしていたけど、日を追うごとに結束は強まったようだ。特にドネツクとゴーブルは本当に仲が良い。ドネツクは重騎兵隊長だったし、ゴーブルはゴブリンライダーでもある。同じ騎兵ということで、二人だけで騎兵の訓練をしたりもしていた。


 それから数日後、追加のメンバーが発表される。

 なんと、元勇者のパーミラとその夫のアベルだった。マインちゃんに理由を聞く。


「パーミラさんとアベルさんは、カイン君にいいところを見せたいみたいだったし、仕事の合間に訓練もしているからね。パーミラさんは回復魔法も攻撃魔法も実は得意なんだ。サポーターとしては適任だよ」


 そりゃあ、パーミラは勇者だからね。

 でも、本物の勇者が、勇者パーティーのサポーターをするなんて、本当にシュールな展開だ。

 パーミラにも話を聞く。


「夫と話をして決めました。私も昔は、こういったことに憧れてましたからね。それにアベルも結構強いんですよ。デモンズ山で通用するかは分かりませんが、サポーターくらいなら何とかなります」


 パーミラに「君は勇者だ!!真の悪を打ち倒せ!!」とは言わなかった。

 どう見ても、私が黒幕っぽいからね・・・


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