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84 帝国の槍

 軍議でシャドウの報告を聞く。


「敵主力1万は変わりないが、大斧を携行した3000の懲罰部隊も合流している。補給部隊の資材を確認したところ、油や爆発する魔石を大量に持っているな」


 魔王が言う。


「となると・・・森ごと焼き払う気じゃろうな。そうなるとエルフどもが冷静に戦えんな。だったら、早めに迎え討つしかなかろうな。エミリアよ、出陣するぞ」


 魔王の命を受け、私は決戦場所となる平原で陣地の構築を行うことになった。移動はドラゴン2体を使った空輸だ。アンデットを1000体、他部隊が2000人と相手の1万3000人に対してかなり少ないように思われるが、魔王が言うにはこれくらいでいいそうだ。


「後はハッタリじゃし、こちらには切り札があるからな。この作戦の肝はお主の演技力じゃからな。しっかりやるように。たとえ失敗しても、何とか逃げられるメンバーを連れて来たからのう」


 他部隊のメンバー構成を見るとほとんどが斥候職の獣人かエルフとダークエルフだった。いくら大群でも森に逃げ込めば、追って来ることはないだろうしね。

 しかし、問題はそこではない。本当にやるしかないのだろうか?と思ってしまうくらいにヤバい。演技指導を魔王から受けているが、他部隊の者からドン引きされている。

 ポンが言う。


「え、エミリア・・・頑張れよ・・・何があってもずっと友達だからな」


 ポンなりに励ましてくれているようだが、私の気持ちは晴れなかった。



 ★★★


 決戦予定地に防衛陣地を作って3日後にイシス帝国の部隊がやって来た。イシス帝国の部隊は驚いていた。てっきり私たちは砦に引きこもって戦うと思っていたのに、こんな所まで出て来たことは予想外だったのだろう。

 すかさず、私は「地獄のチャリオッツ」に乗って、敵部隊の前に出る。一斉に魔法や弓が飛んでくるが、魔王が結界魔法ですべて防いでくれた。

 私は拡声の魔道具でイシス帝国の部隊に警告する。もちろん、いつもの奇抜なコスチュームと怪しい仮面は装着している。


「馬鹿者ども!!落ち着け!!少し話をしてやろう!!まずは周りをよく見てみろ!!」


 周囲の森からアンデットが湧き出る。


「お前らは10万の不死の軍団に囲まれているのだ!!」


 もちろんハッタリだ。500体のアンデットを配置しているだけだけどね。


「ここで慈悲深い我は、貴様らにチャンスをやろう。おい、髑髏仮面!!女を連れてこい!!」

「はっ!!血塗れ仮面様!!」


 髑髏仮面ことネクロデスに連れて来られたのは、私に一騎討ちを挑んで来た女騎士だ。拷問の結果、素性が分かり、魔王が利用することにしたのだ。


「こちらの女は、イシス帝国の第三皇女リリアンだ。助けたければ、我と一騎討ちをしろ!!見事勝つことができたのなら、皇女は返してやろう。それとも皇女を見殺しにするか?我はどちらでもいいがな!!」


 イシス帝国の部隊に動揺が走る。畳み掛けるように言う。


「こちらはいつでも、お前らを殲滅することができるのだ。早くしろ!!」


 しばらくして、私の前に騎士が一騎駆けして来た。大柄な体格の騎士で、騎士はもちろん、乗って来た馬にも鎧が装着されていた。


「俺はイシス帝国、重騎兵隊隊長ドネツク・ドンバスだ!!一騎討ちは俺がやる。彼女を解放しろ」


 リリアン皇女が叫ぶ。


「ドネツク!!逃げて!!貴方でも勝てないわ!!」


 実はこの二人、婚約が決まっている仲で、政略結婚ではあるが、お互い相手のことは憎からず思っているとの情報を入手していた。それを利用したわけだ。こっちが一騎討ちを要求しても素直に応じるとは限らないが、愛する婚約者の命が懸かっていると高確率で受けてくれるからね。

 個人的にはこう思う。


 リア充ども!!モゲろ!!

 私なんて、最近は人間よりもアンデットと一緒にいるほうが長いんだぞ!!


 私の個人的な理由はさて置き、私は予定通り血塗れ仮面を演じなければならない。


「その勇気だけは買ってやろう。どこからでも掛かって来るがいい」


 すぐにドネツクは、人馬一体となって私に突進してきた。かなりのスピードだ。これが5000騎で一斉に突撃して来たら、大体の部隊は粉砕されるだろう。「帝国の槍」と言われるくらいのことはある。ドネツク個人の技量を見ても、かなりの使い手だ。全く馬に乗れなかった私が言うのもおかしい話だけどね。


 しかし、それだけだ。

 私はいつも通りに「返し突き」を発動する。予めライライ剣状態にしていたので、突きがかすった馬は大暴れして、ドネツクは落馬する。


「何とも呆気ない。早く降参しろ!!」

「うるさい!!彼女を返せ!!」


 落馬の衝撃を物ともせず、ドネツクは向かって来た。

 それからは、いつもの展開だ。ドネツクの悲鳴が響き渡り、徐々にドネツクは血塗れになっていく。ドネツクは身体強化魔法の達人らしく、オグレン特製のレイピアでも致命傷は与えられない。いつもどおり、周囲から非難の声が上がる。



「惨い・・・決闘という名の拷問だな・・・」

「あれが血塗れの嬲り姫か・・・」

「冥府の女王じゃなかったのか?」

「馬鹿かお前ら!!どう見ても同一人物だろうが!!あんなのが二人もいるわけないだろ?」


 どうやら、私の素性は敵にバレているようだった。これでは恥ずかしさを我慢して、必死で血塗れ仮面を演じてきた私の立場は、どうなるんだ?

 もう死にたい・・・


 そんなことはお構いなく、ドネツクは向かってくる。

 仕方なく、同じことを繰り返す。そして、とうとうドネツクは膝をつき、動けなくなった。


「す、すまない・・・体が言うことを聞かない。俺が捕虜となる。彼女を解放してくれ」

「ドネツク!!血塗れ仮面様!!お願いします。どうかドネツクをお助けください」


 何とリリアン皇女は土下座をして来た。

 これではまるで、私が悪の組織の親玉みたいじゃないか!!


 冷静に考えたら、そう思われても仕方がない。敵からすれば、多くのアンデットを従え、圧倒的な戦力があるにもかかわらず、わざわざ一騎討ちをして、嬲り殺しにしているようにしか見えないだろう。


 私は髑髏仮面に命じて、回復ポーションをドネツクに振りかけさせて、こう言った。


「条件がある。条件を呑むなら、二人とも解放してやろう・・・」


 私が出した条件は、二人の解放と引換えに全軍を撤退させることだった。


「一旦、帝都まで帰れば、約束は果たされたと認めよう。その後もう一度攻めて来ても、我は一向に構わんがな。但し、その時は皆殺しにしてくれる」


 ドネツクは言う。


「少しだけ時間をくれ。重装歩兵隊長!!魔導士団長!!こちらに来てくれ!!」


 呼ばれて来た重装歩兵隊長と魔導士団長、お付きの者が話し合いを始めた。


「悪くない条件だと思います」

「流石に10万の軍勢には勝てんだろ?攻めるにしても一旦体制を整えてだな・・・」

「本国には、リリアン皇女の身柄と引換えに撤退したことにしよう。そうすれば・・・」


 みんな、本国に帰ってから、どう対処するかの話ばかりしていた。


「内輪の話は後にしてくれ。とりあえず、書面を交わそう。そちらの要望どおり、リリアン皇女の解放と引換えに撤退したという内容にしてやる」


 これにはイシス帝国の隊長クラスは、言葉には出さないが喜んでいた。


 すべて魔王の手の平の上で転がされているとも知らずに・・・

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