83 幕間 それぞれの戦い
~オーソド視点~
本当に因果なものだ。腐れ縁のプラクと肩を並べて戦うことになるとはな・・・
俺はコーガルの町で生まれ、他のコーガルの子供と同じようにホクシン流剣術道場に通う。父が傭兵をしていた関係で、騎士に憧れを持つようになった。父は口癖のようにこう言っていたからな。
「お前は騎士になれ。不安定な傭兵にはなるなよ」
父の言葉どおり、努力を重ね、小国家群の某国で騎士となった。それなりに出世もした。しかし、辞めてコーガルに戻って来ることになった。小隊長を務めていた時に部下を殺してしまったからだ。
私の小隊は厳しい訓練を部下に課していた。騎士は国民を守るために体を張らなければならない。当然危険な仕事だ。厳しい訓練を課していたのも、すべては実戦で生き残るためだ。そんなとき、私の厳しい訓練が嫌で逃げ出した元部下が、転属願いを出した。その者は高位貴族の子弟で、すぐに異動となったのだが、異動先の部隊では碌に訓練をしていなかったという。そして、その者は実戦を迎え、命を落とすことになってしまった。
この時のことは忘れない。
技術や体力もそうだが、子供の頃から心を鍛えてやらねば、多くの騎士が無駄に命を落とすことになる。そう思った俺は、故郷に戻り騎士を養成する剣術道場を開くことにした。丁度その頃、腐れ縁のプラクも道場を開くことになった。冒険者向けの道場だった。
プラクが言うには、面倒を見ていた若手冒険者が、無謀な冒険をして、亡くなったそうだ。プラクもAランク冒険者だったのだが、今後は後進の育成に励むとのことだった。
コイツとは、本当に正反対だ。同じ道場出身とは誰も思わないだろう。指導法についてもな。
俺は型を重視した指導を徹底した。体で型を覚えさせることに主眼を置き、咄嗟の場面でも体が反応するように訓練をさせた。一方のプラクは、とにかく実戦でどうするかを常に考えさせる指導をしていた。どちらが正しいとは言えない。ただ、実戦で弟子たちが生き残れるようにという願いは同じだが・・・
そんな物思いにふけっていたところ、プラクが言う。
「おい!!盗賊どもを見付けたぜ。村人も頑張っているな。このまま放置しても撃退くらいはできるだろうな」
「冗談は言うな!!いつもどおりにやるぞ。俺の部隊が警告を発し・・・」
「分かったよ。俺たちが隙を突いて奇襲だろ?じゃあ行くぞ」
盗賊たちに俺が警告を発したところ、こっちに向かって来た。これも想定内だ。目の前に来た敵を打ち倒す。戦った感じ、全く基本ができていない。このような相手には型通りの戦いが、絶大な力を発揮する。型通りとか、頭が固いとか批判されるがな・・・
しばらくして、逃走を開始した盗賊どもをプラクの部隊が追い討ちを掛ける。プラクは罠や飛び道具も使って追撃する。本当に何でもありだ。
結局、ホクシン流剣術道場の教えは、突き詰めれば「生き残ればそれでいい」ということなのだ。俺とプラクは違うように見えて同じなのだ。
私は指示を出す。
「逃げた者は追わなくていい。戦後処理と被害の確認をするぞ」
「そうだな。そう言えば最近盗賊の数自体が減ったな。誰か別の奴が狩っているのかもしれんな?」
「その辺は関係ない。俺たちは俺たちの任務を遂行するだけだ」
「また、硬いこと言ってらあ」
「うるさい!!」
まあ、会うといつも口喧嘩だが、それでも誰よりも頼りになる男だ。
★★★
~キュラリー視点~
本当に人生は分からない。
ただの文官だったのに、趣味で始めた剣術の才能が認められ、部隊長までさせられるなんてね。
私は本当にごく普通の女性文官だった。しかしある日、同僚に連れられて参加したソフト模擬戦にド嵌りした。本当に楽しかった。痛くないし、どんどん上手くなっていくのが分かるからね。ソフト模擬戦を始めてから、仕事も上手くいった。以前は引っ込み思案な性格だったが、積極的に意見を主張するようになったたことがよかったのかもしれない。だって、「文句があるなら道場に来い!!いつでもやってあげるわよ」なんて思っていたからね。それからは女だからと舐められることもなくなった。
まあ、その辺は置いておいて、今は仕事だ。
多くの猛者たちが出征し、流石のコーガルも人材不足だ。文官の私まで警備隊の仕事が回って来る。一緒にソフト模擬戦の指導をしている商人のモギールさんから引継ぎを受けた。
「昨日は2人の工作員を発見して拘束したけど、それ以上にアイツらを抑えるのに苦労したよ・・・」
「それはそうね・・・あの人たちは、アンデット以下の扱いだからね・・・」
問題は私たちが指揮する部隊員だ。ホクシン流剣術道場でも猛者クラスに出入りする猛者なのだが、あまりに素行が悪く、戦争にも連れて行ってもらえない馬鹿どもだ。私とモギールさんが隊長をしているのも、彼らを抑えることができるのが、残っているメンバーで私たちしかいないからだ。色々と話し合った結果、このクソ忙しいときに問題を起こされても困る。苦肉の策だが、問題を起こされるなら、管理した状態で、すぐに対処しようという話になり、治安部隊に組み込んだのだ。
素行が悪い彼らだが、なぜか工作員をよく捕まえる。本人たちは全く意識していないのだが・・・
今も酒を飲み、誰彼構わず喧嘩を吹っかけている。
「神様だあ?そんな奴いねえよ!!いたら品行方正な俺に酒をもう一杯くれるはずだ!!」
これに相手がキレて向かってくる。それを返り討ちにした。最近は、喧嘩を止めるのではなく、喧嘩をさせて、後で謝ることにしている。フルボッコにされた男に私は歩み寄る。
「喧嘩はいけませんよ。こちらもやり過ぎたかもしれませんがね。一応確認だけはさせてもらいますね。あっ!!この魔法陣は・・・・」
この者も工作員だった。すぐに拘束し、拷問所に送り込む。
「キュラリーの姐さん。特別手当をくれ」
私は銀貨1枚を馬鹿に渡す。
「おっと、これでもう2杯は呑めるな。神様からの贈り物かもしれんな・・・」
どんな神様なんだよ!!
とツッコミを入れることはしなかった。しても無駄だからね。
早く戦争は終わってほしい。こんな馬鹿どもの相手は、もう懲り懲りだ。
★★★
~フィリップ・バンデット視点~
我がバンデッド伯爵家及びその寄り子たちは、王都防衛部隊に組み込まれた。本当はコーガル防衛隊を希望したのだがね。これも貴族としては仕方ないことだ。やれることはやろう。王都防衛隊は3つの連隊からなる。第一連隊は騎士団や近衛を中心にした部隊、第二連隊は我が部隊、第三連隊はその他の貴族連合という編成だ。
我が部隊は、二つの大隊から構成されている。一つは貴族連合、もう一つは他国の応援部隊だ。こちらの部隊は魔王軍四天王の一人、オルグ殿が指揮を取っているが、獣人、亜人、魔族の混成部隊でもある。マオ様の指示では、リスクを取らず、消極的な戦いをしていれば、自然と勝てると言われていたのだが、状況が一変する。
イシス帝国の旗を見た獣人たちが、命令を無視して攻撃を開始したのだ。
隊長のオルグ殿が言う。
「こうなっては歯止めが効かん。仕方ないので、我も付き合う。フィリップ殿は高みの見物でもしていてくれ」
魔族部隊も突撃を開始した。凄まじい戦闘が続く。もはや戦闘というか、蹂躙に近かったが・・・
そんな時、寄り子たちも騒ぎ出す。
「フィリップ様!!他国の者にだけ手柄を取られては、立つ瀬がありません」
「そうです。彼らにだけ任せては、貴族の名折れです」
仕方なく、全軍で突撃することにした。
結果、負傷者は多数出たものの、死者はなく、歴史的な大勝利となった。3日後、国王陛下から呼び出しを受けた。
「バンデット伯爵、よくやってくれた。褒美を取らせる」
「有難き幸せ」
「しかしなあ・・・少しやり過ぎてしまったかもしれん・・・」
それは私も思った。
本当は膠着状態を維持し、敵主力部隊を引き込んで殲滅、その後に講和という流れだったのだが、ここで敵主力部隊を投入したところで、戦況は変えられない。となると・・・
私も国王陛下と同じ不安を抱えていた。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!
 




