82 急展開
開戦から2ヶ月、我がコーガル軍は多少の負傷者は出ているものの、今のところ、死者は出ていない。これは、リスクの少ない戦い方をしていることがその要因だが、高度治療センターのスタッフをはじめとする総合治療師の活躍も大きい。瀕死の重体でも回復させるだけのスキルを持っているからね。
ところで戦況だが、防衛線は維持できている。
私の部隊の活躍もあり、連合軍の攻勢はかなり弱くなっている。多くの部隊で、夜間の警戒に重点を置いているためだ。夜間のアンデットの襲撃に備えて、多くの人員を割いているという。最近では、私の出動回数も激減している。というのも、野営している場所に数体のアンデットを放っておけば、それだけで大パニックになるからだ。スケルトンが1体出るだけで、部隊全員が展開するほどだからね。
魔王が言う。
「こっちはこのままで、いいじゃろう。王都防衛組は、大きな戦果を上げているようだしな」
王都防衛組は、国境での初戦に大勝し、更に連合軍に壊滅的なダメージを与えたそうだ。連合軍は、被害の大きさから、国境沿いに部隊を展開しているのみで、ここ2週間は、睨み合いが続いているそうだ。
ルミナが答える。
「そうですわね。それと影の軍団の諜報活動のお陰で、カラブリアの盗賊行為もことごとく防いでいますわ。気になる話としては、カラブリアとイシス帝国とのつながりが伺えるとマホット所長が申していたことでしょうか?」
「普通に考えればそうじゃろうな。それに教会もな。そう考えれば・・・」
魔王が言い掛けた時、突然シャドウが現れた。
「極秘情報を入手した。悪いニュースだ。イシス帝国の主力部隊1万が、こちらに向かっているようだ」
「部隊構成は?」
「重装歩兵が5000、弓兵隊、魔導士隊が2000、そして、「帝国の槍」と呼ばれる虎の子の部隊、重騎兵隊が3000だ」
「王都への侵攻は諦めたか・・・ならば、守りの薄いこちらを攻めようという魂胆じゃろうのう?」
魔王が分析をする。
王都防衛組が、大勝したことで王都への進軍は諦め、せめてコーガルだけでも攻め落とそうとしているようだ。
「重騎兵隊を回してきたか・・・ちと予定が狂ったのう・・・」
重騎兵隊というのは、重装歩兵が騎兵になった部隊なのだが、それだけではない。3000名すべてが身体強化魔法の達人で、騎乗している馬にも身体強化魔法を掛け、機動力、打撃力共に大陸屈指の部隊だという。魔王が言うには、王都防衛組がこの部隊を打ち破ったところで、講和をする予定だったそうだ。
「主力部隊1万を破ったところで、講和を考えていたんじゃが、こっちに来るとはのう・・・ところでいつ頃、到着するのじゃ?」
「2週間後と予想している」
「ふむ・・・戦を終わらすには、この部隊を叩かんことにはのう・・・では聞くが、敵にもなるべく被害を出さんように終わらせるか、皆殺しにするか、どちらがよい?」
これは会議出席者に聞いた質問だった。
真っ先にネクロデスが言う。
「そんなもの皆殺しに決まっています!!そして、その死体からアンデットを作り、帝都へ逆侵攻を掛けるのです!!」
ネクロデスは、ブレない。
ルミナが言う。
「今後の交渉を考えれば、相手の被害が少ないほうがいいかもしれません。大きな恨みを買い、玉砕覚悟で、総力戦を仕掛けられたら、まとまる話もまとまらなくなりますからね」
「ならば、それで策を練ろう。まあ、敵の主力部隊が来るまでは、敵も攻めて来んじゃろうから、後顧の憂いを絶っておくかのう・・・」
★★★
会議の終了後、敵の主力部隊が来るまで、私は別の任務を受けた。
カラブリアの掃討作戦だ。カラブリアが盗賊団として、警戒の薄い村を狙っているので、その対策だ。直接村を守るのではなく、影の軍団が発見した敵のアジトを強襲する。もちろんアンデット部隊を使ってね。
この部隊の案内役は、ポンが専属でしてくれることになった。
「精神的負担が大きいから、俺が専属ですることになったんだよ・・・これでも副団長だからな」
ポンも責任感が出て来たと感心したが、私って、そんな扱いか・・・と少し辛い気持ちになってしまった。
今日もアジトを襲撃しようと向かっていたのだが、状況が違った。襲撃した村から逃走している途中のようだった。急遽変更し、逃走中の盗賊を討伐することにする。何人か生け捕りにしたので、事情を聞く。
「こんなの聞いてないぞ・・・普通の村人が強すぎる。それに応援でやって来た奴らは何なんだ?あんなの、その辺の国の精鋭部隊よりも強いぞ・・・」
少し、盗賊に同情してしまった。
ポンが言う。
「ムサール先生の部隊だろうな。オーソドさんやプラクさんもいるし、猛者クラスの奴も参加しているしな・・・それに村人と言っても、ほとんどが「二段斬り」、「二段突き」を習得しているし、簡単な集団戦の訓練も受けているから、盗賊ごときでは、どうしようもないだろうな」
盗賊よりも遥かに村人のほうが強いからね。
早めに任務が終了したので、帰還した。
何やらシャドウが魔王に報告をしていた。
「デモンズ山に3000人の部隊が向かっているじゃと?」
私は驚いて、魔王に言う。
「それって、ヤバいんじゃないですか?すぐに向かいますよ」
「放っておけ・・・どうしても心配なら、フランメに乗って見に行くがいい。デモンズ山を押さえれば、大きな利益が見込めると思ったのじゃろうがのう・・・」
一応、フランメに乗って確認に向かう。
結論から言うと、来なくてよかった・・・
デモンズ山2合目にある拠点に舞い降りると、拠点のを管理している冒険者ギルドの職員が応対してくれた。その傍らには30名程のイシス帝国の部隊員が打ちひしがれて、しゃがみ込んでいた。ギルド職員から事情を聞く。
「当初、100名ほどで来られたのですが、私たちが止めるのも聞かずに山頂を目指されたのですよ。まあ、結果はこのとおりです。行儀が悪い人も多く万引きしようとしたので、商人さんたちにフルボッコにされたり、食堂で無銭飲食をしたりしたので、こっちも強くは引き止めませんでしたからね。事情を知らない木こりのホルツさん夫妻が遭難している彼らをここまで連れて来たというわけですよ」
一応指揮官っぽい人に話を聞く。
「もう殺してくれ。皇帝陛下に顔向けができん。3000人の部隊を率いてここに向かったが、魔物が強すぎて、ここには約100人しか到達できなかった。その100人で、この拠点の制圧を試みたが、その辺の商人や飲食店の店員に軽くあしらわれ、彼らに軍隊だと説明しても信じてもらえなかった。酒場のマスターに『だったら山頂に行ってお宝を獲って来てみろ。そうしたら信じてやる』と言われ、山頂を目指すことにした。ギルドの職員には止められたが、結果は遭難して今に至っているのだ・・・」
可哀そうに・・・軍隊ではなく、質の悪い客くらいにしか思われなかったようだ。
仕方なく私は言った。
「一応お聞きしますが、捕虜としての扱いを希望しますか?因みに私は血塗れ傭兵団の団長をしています」
「まさか冥府の女王!?い、嫌だ!!アンデットにされるくらいなら、ここで殺してくれ!!」
兵士たちは騒ぎ出してしまった。仕方なく、私はここに彼らを置いていくことにした。指揮官には、「変なことをしたら、アンデットにしてやる」と少し脅したら、「絶対に悪いことをしない」と約束してくれた。この拠点にいる人たちは、彼らを軍隊とも思っていないから、それなりに生活はできるとは思おう。
結局、魔王が言ったとおり、ここに来なくてもよかったようだ。
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