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81 開戦

 とうとう戦争が始まってしまった。

 当初の見立てのとおり、連合軍はコーガルと王都オーギスの二手に分かれて進軍して来ているようだ。コーガルの防衛は、国軍の応援部隊は来てくれず、私たちだけでやらなければならない。でも救いはある。魔王が帰って来たのだ。


わらわの仕事は終わった。必要な部隊を必要な場所に配置したからな。後は余程の馬鹿が指揮をせん限りは負けることはあるまい。じゃから、こっちの方が心配になって帰って来たのじゃ」


 魔王の話では、四天王のオルグは魔王軍の一部隊を率いさせているそうだ。これも修行だという。


「まずは、こちらの戦力分析からじゃが・・・エミリアよ、お前はいつもわらわの想像の斜め上を行っておるな。まあ、主力部隊となることは間違いないが・・・」


 流石の魔王も私の部隊の構成を見て、若干引いている。


「ところで、最新情報は入っておるか?」


 会議中、魔王がそう言うと、どこからともなくシャドウが現れた。


「極秘情報を入手した。まず、連合軍のほとんどにやる気が感じられない。イシス帝国以外は、渋々出兵したのだろう。どこの国も自分たちの精鋭部隊は出さず、徴募兵を中心にした部隊が多い。酷いところは、懲罰部隊を出している」


 懲罰部隊というのは、何かしら問題がある者たちばかりを集めた部隊だ。犯罪を犯したり、借金が払えなかったりと問題がある者たちばかりで構成されている。とにかく人数合わせをしたのだろう。


「ということは、何が何でも勝ちたいと思っている国は少ないということじゃな?」

「その通りだ。ほとんどがイシス帝国や教会に逆らえず出兵している」

「ならば、どうとでもなるな・・・」


 ルミナが言う。


「マオ様、前に指示していただいた通りに準備は進めています。基本戦術に変更はありませんか?」

「ないぞ。防衛戦に徹し、王都防衛組が華々しく勝利するまで、引き籠っておれば戦争は終わる。無理に討って出て、犠牲を増やしても仕方がないからな。だが、エミリアの部隊はわらわの想像を超えておったから、エミリアには特別に任務を与えることにする」


 また、嫌な予感がするんだけど・・・


「シャドウ、他に気になることはあるか?」

「犯罪組織カラブリアの動向が気になる。この戦争を利用して、一儲けしようと考えているのだろう。警備が手薄になった周辺の村で、略奪をしようと画策しているようだ」


 これには祖父が反応する。


「ならば我が部隊から派遣しよう。我が部隊は集団行動よりも、個人の戦闘力で戦う部隊だから、少数の小隊を分散配置する」

「ありがとうございます、ムサール先生。領主としてお礼を言います。コーガルも警備隊を増員して、警戒に当たります」



 軍議が終わり、私たちは街道に設置してある砦に入った。

 砦は全部で3箇所あり、いずれも戦争前から手を加えている。


「獣人国ベスティで戦った戦術と同じじゃ。付近を緑化して森を作った。砦は簡単に落ちんし、森から迂回しようにも、エルフや獣人部隊を配置しているから、突破は出来んよ」


 これなら心配ない。


「それでエミリア。お主はとりあえず寝ておけ」

「えっ?」


 この指示は、すぐに分かることになる。



 ★★★


 私は本当に昼間から寝させられた。

 なぜかというと、夜間に活動するためだ。魔王に貰った怪しい仮面は高性能で、暗視機能がついているし、クマキチたち魔物もアンデットも暗闇でも普通に活動できるからね。そして、アンデット部隊を率いて、連合軍の野営地を襲うのだ。何日もそういったことを繰り返した。

 初めて見るアンデットの大群に、そもそも士気の高くない連合軍は脱走兵が続出している。


 魔王が言うには、被害を出させるよりも、恐怖を植え付けることが重要だそうだ。だから、私も盛り気味でパフォーマンスをしている。共に行動するネクロデスは、素のままなんだけどね。


 今日もいつも通り、指定された野営地に向かう。今日の案内役はハーフリングのマインちゃんだ。影の軍団員が交代で案内役を務めてくれる。マインちゃんとは、知った仲なので、気軽に会話をする。


「私としては、案内役は固定してくれたほうが嬉しいんだけどね」

「それは無理だよ・・・精神的な負担が大きいからね」

「そ、そうか・・・だったら知っている子がいいな。ルト君とか・・・」

「ルトは無理だよ・・・コボルトだから、匂いが無理なんだって・・・」


 久しぶりにマインちゃんと会話をしたが、微妙な雰囲気になってしまった。


 そうこうしている内に目的地に着いた。今日はイシス帝国部隊の野営地だから、多少無茶してもいい。

 いつも通り、ノリノリのネクロデスが声を張り上げる。ネクロデスは魔王から特注の奇抜なコスチュームと髑髏の仮面を貰ったので、それを身に付けている。


「我は髑髏仮面!!冥府より不死の軍団と共にやって来たぞ!!」


 これだけで、相手は恐れおののく、すでに逃げ始めている兵士もいた。しかし、イシス帝国の部隊は比較的士気が高い。何人かは向かってくる。だけど訓練されたアンデットの部隊員やクマキチたちが一捻りにしている。これを見ただけで、多くの兵が脱走を始める。

 更にパフォーマンスが続く。


 髑髏仮面ことネクロデスが、目の前でグールを作り出す。正確には、予め用意していたグールを先程殺した兵士がグールになったように見せかけているだけだが・・・


「次は誰だ!?誰がグールにしてほしいのだ!?」


 イシス帝国の部隊とあって、いつも以上にネクロデスのテンションは高い。マインちゃんはドン引きしているけどね。


 そんな時、一人の女騎士が向かって来た。


「なんと卑劣な!!我が成敗してくれる!!冥府の女王よ、勝負だ!!」


 何と一騎打ちを挑んできた。

 無理に受けなくてもいいが、魔王がよく言う世界観を考えると、受けるしかない。


「小癪な小娘が!!この血塗れ仮面様が、死ぬよりも辛い地獄を味わわせてやる!!」


 女騎士は私と同じレイピア使いだった。かなりの手練れで、普通に「三段突き」をしてきたし、高度なレイピアスキルも使って来る。スキルを使わなかったら、私なんて瞬殺レベルだ。


「サイドワインダー!!」


 レイピアが鞭のようにしなり、剣先が私を襲う。普通の相手なら、躱しきれないだろうが私は違う。


「返し突き!!」


 女騎士のレイピアが空を切り、私のレイピアが女騎士の太腿に突き刺さる。


「くっ!!まだまだ!!」


 女騎士はそれでも向かって来た。根性はあるようだ。しかし、私の敵ではなかった。いつも通りの展開が続く。戦争なので、一思いに殺そうかと思って、急所を狙うも致命傷にならないように急所を外される。女騎士は血塗れになり、ボロボロになっていた。

 それでも向かってくる。


「もう止めなさい!!これ以上やると・・・」

「黙れ!!刺し違えても、殺してやる!!」


 仕方なく、私は必殺技を使う。


「ライライ剣!!」


 そこからは、女騎士の悲鳴が響き渡る。こちらの痛みには耐性がなかったようで、失禁までしてしまった。気持ちが折れたようで、武器を捨て呟く。


「くっ!!殺せ!!」


 これは需要があるかもしれない。血塗れの失禁状態の美少女の「クッコロ」だからね。生憎、私にそんな趣味はない。周囲を見渡すと、他の兵士たちは女騎士を置き去りにして逃げ出してしまっていた。女騎士が私に一騎打ちを挑んだのも、兵士を逃がすための時間稼ぎだったのかもしれない。

 ここで、テンション爆上がりのネクロデスが叫ぶ。


「この女には死ぬよりも辛い地獄を味わわせてやりましょう!!今考え付いたのですが、この女にグールの子供を産ませてみてはどうでしょうか?」


 それは駄目だろうが!!同じ女性として、それは引くわ・・・

 マインちゃんは精神的に辛かったようで、嘔吐している。


 女騎士はネクロデスの言葉を聞いて、泣き叫ぶ。さっきまでの潔さはない。


「や、やめろ!!イヤー・・・ウウウウウッウウッ・・・ワー!!」


 世界観を壊さないように私は指示をした。


「この女を連れて行け!!拷問するぞ!!」


 戦場でこんな状態の女性を放置すれば、惨いことになる。私は保護したつもりだ。


 マインちゃんはドン引きしているけどね。

 これ以後、戦争終了までマインちゃんが帯同することはなくなった。理由は察してほしい。

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