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8 経営再建への道 2

 門下生が増えると必然的にトラブルも多くなる。現在、猛者が集うクラスは20~30人くらいが定期的に来て勝手に模擬戦をしているし、子供の門下生は123人、その父兄や一般の大人たちが中心となるソフト模擬戦クラスが43人という状態になっている。規模的には中規模くらいの道場にはなった。


 今、一番指導方法で頭を悩ませているのは子供クラスの二人だ。一人は獣人で獅子族のレオ君、もう一人はハーフリングのマインちゃんだ。ともに10歳なのだが、この二人は対照的だ。獅子族のレオ君は力が強すぎて、ソフト剣で叩いても相手が痛がってしまうくらいだ。逆にハーフリングのマインちゃんは、力が無さ過ぎて、訓練についていけていない。


 このことをお茶会でお祖母様に相談した。最近、ルミナ、メイラたちと客人を招いたりして、定期的にお茶会をすることにしている。お祖母様が言うには、私にもマナーや貴族としての作法を学んでほしいとのことだった。


「お祖母様、子供たちの指導で悩んでまして・・・獅子族のレオ君のことなのですが・・・」


 私なりに指導方法は模索したのだが、どうも上手く行かない。レオ君を大人クラスに入れたら、全く駄目だった。そもそも剣術に向いていないのだ。身体能力を生かした体術でも習えば伸びると思うのだけど、そんな指導者はいないしね。


「それだったらレミールにお願いしてみてはどう?いいわね、レミール?」


 レミールと呼ばれたお婆さんは、お祖母様の元同僚でメイド流戦闘術の達人らしい。よくこのお茶会に参加してくれている。しかし、このレミールさんはどこかで見たことがある・・・


 あっ!!あの人だ!!


 この世界で、ではない。前世でゲームをプレイしたときだ。重要なキャラではなく、サブイベントで登場するモブキャラの一人だ。

 私たちが活動している地域よりも更に北に行った辺りにデモンズ山というのがあるのだが、勇者パーティーが「母が薬草を取りに行ったっきり、帰って来ないので、探してほしい」という捜索依頼を受ける。デモンズ山は魔王城にも近い場所なので、出現する魔物も超強力だ。

 フル装備に身を包み、アイテムもかなり使って、満身創痍で山頂まで登ると、このレミールさんが動けなくなって蹲っているのを見付ける。

 そして、レミールさんは言う。


「ぎっくり腰になってしまってねえ・・・年齢トシには勝てないねえ・・・」


 ここで多くのプレイヤーがツッコミを入れる。


 おいおい!!なんでそんな軽装でここまで来れたんだ?それに帰れなかった原因が魔物ではなく、ぎっくり腰だと!?

 というか・・・アンタが魔王を倒しに行けよ!!勇者パーティーより確実に強いだろうが!!


 実は「雷獣物語」にはこういった意味不明な強さを持つモブキャラが多く存在する。この道場の猛者クラスにもレドンタさんという商人がいるのだが、彼もその一人でダンジョンの最下層で平然と道具屋を営業しているしね。


 少し話は逸れたけど、レミールさんが猛者であることには変わりはない。私はレミールさんにお願いをする。


「ご迷惑でなければ、お願いしてもよろしいですか?指導料は払わせてもらいますので」


「大したことは教えられないよ。ちょっとした護身術程度だよ。それでよければだけどね」


 とりあえず、試しにレオ君の指導をしてもらうことになった。



 ★★★


 次の日、早速レオ君の指導をお願いした。


「レオとやら、どっからでも掛かっておいで」

「怪我しても知らないからな!!」


 レオ君は身体能力を生かして、レミールさんに殴りかかる。しかし、予想外のことが起きた。腕を掴まれ、投げ飛ばされたのだ。起き上がったレオ君は、今度は飛び蹴りでレミールさんを襲う。しかしこれも軽くいなされて投げ飛ばされた。


 なるほど・・・レミールさんは、合気道に似た武術の達人なんだ。相手の力を上手く利用して対処する。少し私と通じるところがあるかもしれない。


 しかし、この私の予想は大きく裏切られる。

 レオ君はキレてしまったようで、獣化してしまった。獣化とは獣人の中でも特有の種族が持っている能力で、獅子族の場合ライオンの姿になって活動することができる。かなり体力と魔力を消耗するけど、普段の3倍の力が出せると言われている。レオ君の母親から、獣化するとまだ力の制御ができなくて暴走するので、注意してほしいと要望があったんだった。


「クソババア!!ぶっ殺してやる!!」


「最近の若い子は口の利き方もなってないねえ・・・ちょっと厳しく指導しないとね・・・」


 そこからは壮絶な光景だった。レミールさんが信じられないスピードでレオ君に向かって行き、一発で殴り倒した。その後、すぐに馬乗りになり、レオ君をタコ殴りにしている。お祖母様が叫ぶ。


「ムサールを連れて来て!!私たちじゃレミールを止められないわ!!それに回復術師も」


 とりあえず、私とルミナ、メイラでレミールさんを取り押さえようとしたが、無理だった。しばらくして、祖父と猛者クラスの何人かがやって来て、やっとのことでレミールさんを引き離した。レミールさんは悪びれることもなく、言った。


「年を取るとキレやすくなるねえ・・・おい!!坊主、きちんとした言葉遣いをしないとまた折檻するよ」


 後で聞いた話だが、誰に対してもレミールさんはこんな感じだったらしい。王族でも平気で殴り倒すような人で、多くの者が怯えていたそうだ。相手の力を利用して対処するメイド流戦闘術を独自にアレンジして、「やられる前に殺す」という謎の戦闘術を編み出してしまったそうだ。


 こうなると後処理は大変だ。私は怪我をしたレオ君を連れて、レオ君の親御さんに謝罪に行く。当然怒られると思っていたが、全く予想外の対応をされた。


「獣人であるレオのためにここまで考えてくれる指導者は今までいなかった。このまま指導を継続してほしい。何ならこの辺で燻っている獣人の子供たちもまとめて面倒を見てくれないか?子供といえども、獣化した奴を殴り倒すなんて、そうそうできないからな」


 レオ君も言う。


「エミリア先生、謝らないでよ。俺は逆に嬉しかったんだ。思いっきりやっても大丈夫な相手に出会えたしね。これからもレミール師匠の指導を受けたいな」


 これがきっかけで、ホクシン流剣術道場に体術クラスが誕生してしまった。体術クラスの多くは獣人の子供たちだが、中には現役の冒険者もいる。その冒険者も軽くあしらうレニーナさんは凄すぎるんだけどね。結果オーライで、また門下生が増えた。


 ★★★


 レオ君のことで忘れていたけど、ハーフリングのマインちゃんの指導も順調だった。ハーフリングは成長しても子供の身長くらいしかないので、冒険者になるなら斥候職が多いようだ。なのでBランクで斥候職でもあるポンが指導することになった。この講座は人気があり、不定期での開催だが、多くの門下生が参加することになる。


「斥候は地味だが、パーティーの生存率は斥候次第でもあるんだ。そのことを肝に銘じて、訓練をしてほしい」


「「「はい、ポン師匠!!」」」」


 ポンも満更でもないようだ。


 この調子で3年間維持すれば、勇者を無事迎えることができる。私は少し安堵した。

気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!

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