79 リクルート活動
会議終了後、私は道場に帰還した。
道場に帰還すると、ルミナ、ドノバンとバンデッド伯爵がやって来た。祖父とお祖母様と共に応対する。バンデッド伯爵が言う。
「今は公式の場ではないから、好きに話し、好きに質問してくれていいよ。君たちも思うところがあるだろうしね」
ルミナがすぐに話し始める。
「部隊観閲式は何だったのですか?あれで、他国に威光を示したはずですのに・・・普通に考えれば、勝つにしろ、負けるにしろ甚大な被害が出ることは分かると思うのですが?」
「今にして思うと、あれもいけなかったのかもしれないね。ニシレッド王国は強力な軍隊を持っていて、亜人や獣人も多くいる。そして、どんどんと戦力を拡大している。叩くなら今しかないと思われたのだろう。多くの国が教会やイシス帝国に従うのは、潜在的な恐怖からだと思う」
「やられる前に殺す」というやつか・・・レミールさんじゃあるまいし。
「会議でも言ったけど、コーガルはコーガルだけで防衛をしてもらわなければならない。バンデッド領軍も国軍に組み込まれる可能性は十分あるからね」
ドノバンが言う。
「ゴーケンさんやオデットが国軍に取られたのは痛いです・・・このままじゃ・・・」
「ドノバン、上に立つ立場の者が弱音を吐いてはいけないよ。そんな中でも懸命に領民を守ることが、上に立つ者の使命だ」
「すみません・・・」
ここで、今まで黙っていた祖父が話し始めた。
「エミリアよ。今まで行動を共にしていきたポン、ポコ、リンやルミナ様も今回は一緒に行動ができんと思ったほうがいい。ポン、ポコ、リンは隊長として運用されるだろうし、ルミナ様はコーガルの総大将じゃからな。だから、エミリア独自の配下を増やせ。それが戦力強化につながる。儂は道場の関係者を指揮して戦場に立つ。道場関係者以外から選べ」
祖父にしては、まともなアドバイスだった。
★★★
私がやって来たのは魔王城だった。私が頼れるのは魔王しかいないからね。
これって、危ない奴の考えだろうか?
魔王に事情を説明する。
「その件については、あまり力になれそうにないのう。というのも、妾はニシレッド王国から正式に特別参謀に就任してくれと要請があってのう。オルグやミミとメメ、ウインドルは、妾と一緒にニシレッド王国軍として活動することになっておる」
国王陛下も抜け目がない。魔王がかなりの戦力を持っていると把握しているから、早めに押さえたのだろう。
「フランメは残してやる。それと大量に集めたアンデットどもだが、好きに使ってくれ。どうも魔王城のコンセプトに合わんので、大量に処分してくれて構わんぞ。それとゴブリンたちやダークエルフたちもニシレッド王国からの要請で、そちらで運用することになっておるからな」
これも駄目か・・・ゴブリンライダーは機動力もあるし、私の部隊に入れようと思っていたのだけどね。それにダークエルフも・・・
「エミリアよ。これだけは言っておくが、軍隊を維持するのには金が掛かるもんじゃ。妾クラスになれば、その心配もないが、エミリア軍団を作るにしても、その辺りを考慮せんと、借金まみれになるぞ」
もうなってますよ!!
「助言感謝致します」
「これも修行じゃ。頑張るがよい」
次に訪れたのは魔法研究所だった。
私が頼りにするのは、ヤバい奴らしかいないのかもしれない・・・
所長のマホットが応対してくれる。
「こちらの研究員もほとんどが、出動命令が下っておる。命令が下されておらんのは、ネクロデス研究員くらいじゃろう。奴は危険すぎるからな・・・できれば、奴を連れて行ってくれ。奴もイシス帝国には思うところがあるし、喜ぶと思う」
アンデット研究をしているアイツか・・・
他の者は、使い方によっては大きな戦力になるし、イシス帝国に恨みを持っているから、彼らにしてみても願ったり叶ったりだろう。懐の深いニシレッド王国でも受け入れてもらえなかった奴って、一体・・・
「それと、拷問所にいる工作員で、イシス帝国に恨みを持っておる者は、特別部隊としてムサール殿の配下で運用することになっておる。そいつらも使えんからな」
ネクロデスは、元工作員以下の扱いなのか・・・
それでも、いないよりはいいと思い、声を掛けた。
「本当に有難いです!!これでイシス帝国の奴らに一矢報いることができます。善は急げです。今から攻め込みましょう。そして、帝国の奴らを一人残らずアンデットに変えてやるのです!!」
ニシレッド王国でも、持て余してしまう理由が分かった気がした。
「ちょっとお待ちを、まずは訓練などをして、部隊の方向性を決め、そして・・・」
「つまり私が副隊長ですね。これからはエミリア隊長と呼ばせてもらいます。楽しみだなあ・・・帝都が恐怖に包まれることを想像するだけで、失神しそうですよ」
「まずは落ち着いてください。戦力を把握して・・・・」
「最強のアンデットを作れということですね。分かりました。墓を掘り返す許可をください」
「だ・か・ら!!話を聞いてください!!」
コイツは確実に人格が破綻している。それに話も聞かない。
でも、断れる雰囲気ではなくなったので、入隊だけは認めることになった。
★★★
そんなリクルート活動をしていると、ルミナから呼び出しがあった。ポンたちも一緒に呼ばれたようだ。
「エミリアお姉様たちは、隊長クラスですから、騎獣が必要になります。こちらで、ある程度見繕っています。今後、ご迷惑をお掛けするので、これくらいはさせてください」
早速、私たちは騎獣を選び始める。ポンはスピード重視でワイルドウルフを選び、すぐにゴブリンライダーたちからレクチャーを受けていたし、ポコとリンは騎竜と呼ばれる大人しい竜種を選択、ルミナとドノバンは元々愛馬がいるからね。
そして私なのだが・・・
「ここまで才能がない人を初めて見ました・・・これはちょっと・・・」
「エミリア先生も苦手なものがあるんだね。ちょっと安心したよ」
私は運動神経が悪い。というかブチ切れているレベルだ。子供でも1~2年で習得できる「二段突き」「二段斬り」も15年掛けて、やっと習得したし、トレーニングはしているが、体力も一般の領兵と大差がない。スキルが使えなければ、まったくのポンコツなのだ。
3日程練習したが、無理だった。
「戦争までに間に合いそうにありませんね・・・こうなったら馬車を手配しておきますね」
ドノバンが言う。
「だったら牽引式の戦車はどうかな?最近ではあまり使われなくなったから、在庫はたくさんあるし、オグレンにでも改造してもらえば、それなりに何とかなりそうだしね」
この案が採用されることになった。
しかし、これが大きな悲劇の始まりだとは、この時は思いもしなかった。
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